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【ショートショート】「ヒマの過ごし方」(1,486字)

「ヒマだなー」

「ヒマっすねー」

「そういえばお前、こっち来る前に合コン行くって話してたよな。あれ結局どうだったの?」

「あー、あの日はだいたいいつも通りの感じでしたね。楽しませようとテンション上げていったけど空回りしてドン引きされるっていう」

「その後は男だけで残念会のパターン?」

「お決まりっすね」

「それいつ行くって言ってたんだっけ? 結構前だよな」

「もう三週間くらい前っすかね。それからこっち来たんで」

「もうそんなになるか」

「あっという間っすね」

「早いよなー」

「はやいと言えば、先輩、最近新幹線とか乗りました?」

「なんだよ急に。新幹線とかしばらく乗ってねーな。金もねーし」

「俺、何ヵ月か前に初めて新幹線乗ったんすよ、友達の結婚式で。あれ、マジ速くないっすか?」

「いや速いのは速いけど、昔からそんな速さ変わってねーだろ」

「だから初めて乗ったんですって」

「マジ? それまで乗る機会なかったの?」

「意外とないもんすよねー。遠くに行くときは飛行機があるし、近けりゃ普通の電車とか車があるし、案外乗ったことない人もいるんじゃないですか?」

「そんなもんかねー」

「先輩もあるんじゃないですか、意外と乗ったことなかった乗り物とか」

「うーん、急に言われてもなー」

「何かあるっしょ」

「あ」

「ありました?」

「無人島って乗り物に入る?」

「先輩、ひょっとして天然キャラ狙ってんすか? 無人島は無人島でしょ」

「いやほら、地球規模のスケールで考えたら、無人島も乗り物っぽい感じしない?」

「しないですよ」

「だって地球が回転してんだぜ。それなら無人島のほうが動いてるって考え方もできるはずだろ」

「無人島にエンジンがついてて海の上を移動でもすれば乗り物って言えるかもしれないですけどね」

「いいなー自動で移動する無人島」

「そんな無人島だったら行ってもいい気がしますね」

「ところでお前、いかだって作ったことある?」

「唐突っすね」

「あれって映画とかでよく作ってるの見るけど、素人じゃ絶対作れないよな」

「まあ、まずどうやって木を切ればいいか分かんないっすもんね」

「木を縛るロープもないし。そもそも木って結構重そうだけど海に浮くの?」

「うーん、浮くように中身くり抜いてんすかね?」

「どうやってくり抜くんだよ?」

「知らないっすよ俺に聞かれても」

「お前ってほんと何も知らねーよな」

「そんなこと普通の人は知らないんすよ」

「そんなんじゃ無人島で生き残れねーぞ」

「……」

「怒った?」

「別に怒ってないっすよ」

「いや怒ってるじゃん」

「怒ってないですって」

「ごめんごめん。ちょっと不謹慎っていうか、タイミング悪かったな」

「……」

「無人島って言えばさ」

「まだ続くんすかこの話」

「いいじゃんヒマなんだし」

「まあいいっすけど」

「よくあるじゃん、無人島に一つ持ってくとしたら何が良いかって質問」

「あー、ありますねー」

「お前だったら何が良い?」

「うーん、難しいすねー。逆に先輩は何が良いんですか?」

「俺は断然ナイフだね。ナイフがあるのとないのじゃサバイバルの難易度が桁違いだからな」

「知った風にいいますね、サバイバル素人なのに」

「うるせーよ。それで、お前はどうなんだよ」

「俺っすか? 俺はやっぱりドラえもんっすかね。どこでもドアーって」

「お前それは反則だろ」

「まあこの場合は無人島に一つ持っていくとしたら何が良いかじゃなくて、」

「ああ」

「無人島に一つ持ってこれるとしたら何が良かったか、ですけどね」

「腹減った」

「もうすぐ救助が来ますよ。たぶん」

「来なかったらどうするんだよ」

「そのときは無人島のエンジン探しましょう」

「せめていかだ作るって言えよ」











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