見出し画像

スクラム開発チームと業務委託エンジニアの相性が最悪だと思っている

はじめに

この記事の対象読者は「機能しているスクラム開発チームのメンバーないし関係者」をイメージしています。

また会社のフェーズや資本状況、フルタイムでないメンバーを雇いたいなどのコンテキストもあるので業務委託が一概に悪とは言いません。
単純に相性が悪いってだけです。

また相性が悪くてもチームが即崩壊するとかそう言う話でもないです。

僕は業務委託の人が嫌いなわけではありません。ただスクラム開発と相性悪いな(主に単価的な意味で)と思っています。

あとここで言うSES的に送り込まれる業務委託の人の単価は月100万~150万円くらいです。

実は「業務委託契約」とは限らない

Web界隈の一部の慣行として「協力会社(個人を指す)」とほぼ同義語として「業務委託」は使われています。「業務委託」と呼ばれる個人に対してリーダーが指揮命令権を持ちます。契約形態は関係ありません(パねぇな)。
実態の契約形態が業務委託契約とは限りません。派遣やSES契約になっているんですかね? 知らんけど

今回の話をまとめると

● 機能しているチームのメンバー構成を頻繁に変更されたくない僕たち
        VS
○ 単価あげたい派遣サイド+標準調達単価が決まっているので単価上げたくない会社

すべてはこのツイートから始まった

「業務委託エンジニアとスクラムはものすごく相性が悪いので」
のあたりですね。

それでは本編始まります。

前提

・内製開発をしているWeb企業で、ある程度の開発組織の規模があり
・業務委託の調達に関しては調達部門に大きい権限がある(現場にはあまりない)
・四半期の組織計画に、チームごとのヘッドカウントと標準調達価格が書かれている
タイプの組織を前提としています

大前提:機能しているスクラムチームからメンバーを安易に引き抜くのは正気の沙汰ではない。テロ行為同然。

理由としては色々あるんですが、プロバスケチームのように密なチームワークで最高のパフォーマンスを出すチームでいきなり一人抜けると、パフォーマンスがガタガタになる。
みたいな話です。これは高パフォーマンスチームでだけ起きる問題です。

スクラム導入で満足しているような初級スクラムのチームではこの問題は起きません。
草野球チームで1人入れ替えしようが大して変わらないからです。
そう言うチームはメンバーの目的も「パフォーマンスを出すこと」ではなく「勝敗関係なく、試合の後に美味しいビールを飲むこと」だったりしますし。

この問題はスクラム界隈ではもう常識同然に扱われています。
界隈の今ホットな話題はチームトポロジーで扱うような「頻繁なアーキテクチャの変更」に対してメンバーを機動的に配置できないならどうすんだよ、という話です。

業務委託エンジニアと直接雇用エンジニアの最大の違い

人事権です。進退権と言い換えてもいいかもしれません。
直接雇用エンジニアはメンバーをチームに残すか、あるいは退場させるかはその会社が決めます。
業務委託エンジニアは会社が決められません。

するとどうなる?

高いパフォーマンスを出しているスクラム開発チームがあったとします。
うちメンバーの1人は業務委託契約です。
(エンジニア個人と契約しているのか、SESで派遣されているのかはここでは考慮しません)
そうこうしているうちに契約更新の時期が来ました。

「単価20%アップを要求します。」

まあそうなりますよね。
(実際には単価10万円アップ3回とか10万円アップ+15万円アップとかのコンボだったりします)

機能するスクラム開発チームはメンバーを育てる

前述のプロバスケチームと同じです。
最高のパフォーマンスを生み出すために、チームはメンバーを育てます。
「安易に交換可能な部品」が何人いても高いパフォーマンスを生み出せるチームにならないからです。
またチームが向き合うプロダクトは1つ1つが共通化できない複雑な問題を抱えているため製造業的な「共通規格」「普遍的なスキル」というアプローチも不可能です。

業務委託の常識:「スキルが上がったら単価も上がる。不可欠な人材は高単価になる」

ところがスクラム開発チームのこの常識は、業務委託の常識と相性が極めて悪いです。
通常は「ハズレ」の人材を避けるために、よほど信頼できる人材以外は契約更新サイクルを短くします。
契約更新のたびに単価は変わります。
開発チームで教育を受け、またチームで不可欠になった人材はかならず単価アップを要求します。断ったら契約は更新されず、その人は退場です。

そして契約更新の際に、相手は開発チームの足元を見ながらこう言うのです。
「こいつがチームから抜けると困るのか。そうかい。ところで次はいくら単価を上げてくれる?」
これは極めて当然のことです。誰だってそうします。
形兆の兄貴もそう言っています。

引用: ジョジョ4部 https://jojo-portal.com/about/du/

俺たちが投下した教育コストはなんだったんだ

往々にして大きめの日本企業では開発チームに大きな予算の権限はありません。
「標準調達単価」という基準が決まっていて、そこから20%乖離するとマネージャーが必死に根回しして平身低頭しても、通るかどうかは半々です。

まあ大体単価アップができず、契約更新なしで退場となります。
すると退場したエンジニアは「XX社で本格アジャイルの経験あり、高スキル!」を売り文句に次の現場へと移っていくわけです。

彼にとっては、我々の現場はスキルをつけるためのいい「専門学校」だったのでしょう。

しかし彼を送り出した我々は思うわけです。
俺たち、なんのためにこの人に教育コストを投下したんだ?」

単価を上げればいいのでは?

業務委託の単価上げは以下の理由から困難です。
・正社員は人事評価によって給与が上がるが、業務委託には人事評価 > 単価アップの制度が整備されていない
・そもそもカウンターパートのマネージャーにガッと単価を上げる権限がないケースがほとんど(せいぜい微増程度。標準調達単価+10~20万円まで)

業務委託の単価を上げないためには

業務委託のメンバーは「スキルが上がる」「不可欠な人材になる」いずれかを満たすと契約更新時に単価が上がります。
契約更新スパンは「折り紙付き」の人材でもない限り短期になるので短期間に単価が上がっていきます。

単価を上げないためには「スキルアップをさせず」「交換可能な人材にそのメンバーを留める」必要があります。しかしそれはチームのパフォーマンスに悪影響を与えます。
プロバスケチームに、強制スタメン固定で「スキルアップを目指さないエンジョイ勢」が紛れ込んだ状態になるからです。

この強制イベントは何度でも起きる

退場した業務委託エンジニアのかわりを直接雇用エンジニアで行う会社はほぼありません。
退場した業務委託エンジニアのかわりは新たな業務委託エンジニアで補充されます。

すると「ハズレのエンジニア」か「ハズレではないが1年以内にまた単価アップ or 退場 を要求するエンジニア」かが入ってくるわけです。
いずれにせよスクラム開発チームにとって歓迎できる状況ではありません。

まとめ:機能するスクラム+業務委託の組合せの問題

スクラム開発チームは、各個人に高度な専門性を求め、高いパフォーマンスを出します。(プロバスケチームのように)
当然人の入れ替えは好ましくありません。

しかし業務委託メンバーが入り込んだ場合「単価アップを理由に退場がほぼ確定」「単価アップ抑止を狙ってチームのパフォーマンスが低下」というチームのパフォーマンスが低下するデバフイベントのいずれかがほぼ確定で強制的に発生します。

全部直接雇用にしろとでも?

理想としてはそうですね。

ただし実際にはすべてのメンバーを直接雇用にするのは難しいでしょう。
メリットもありますが縮退時やリセッション突入時のリスクが大きいので。
現実にできているテックスタートアップはSmartHRのようなごく少数の例外だけです。

ただし全てのチームにスクラム開発を導入する必要がないのと同様、全てのメンバーを直接雇用にする必要がありません。
そういう形態にすべきチームは2つあります。

1.全社に先駆けて、試験的にスクラムを導入すべき先駆チーム

断言してもいいんですけど、前述の問題で業務委託エンジニアが入りこむと本来避けるべきメンバー入れ替えが短期間に起きて、スクラム開発の先行導入がグッダグダになります。

なので「全社に先駆けて試験導入!」しているチームはすべて直接雇用メンバーだけで構成したほうがよいです。

でないと導入が失敗した時に業務委託由来の問題がどの程度悪影響を及ぼしたのか?が見えて来なくなります。
いえ金輪際スクラム開発なんて導入しないからもういいよというレベルならそれでもいいんですが。

2.コア価値を生み出すプロダクトを開発するチーム

ゲームで言う「コストは高いけど高性能なエリートユニット」を配置するべき場所。

・コア価値を生み出し
・探索的な開発が継続的に要求され
・ノウハウの蓄積が必要不可欠
という条件を満たすプロダクトの開発チームはコストをかけてでも「全部直接雇用+スクラム開発」でやるべき価値があります。
もっともスクラム開発が適している領域だからです。

まとめ

スクラム開発をしていて、業務委託メンバーの契約更新時の単価アップに悩まされた経験をもとに記事を書いてみました。

「いざとなったら切り捨てられる業務委託メンバーを多数活用し、成長が陰った時にも再起を図れるようにしよう!」
という考えはビジネス的には合理的なんですよ。
以前に名前を出したSmartHRの競合の某社もそんな感じですしね。

同じような経験をされた方がいたらよい酒が飲めると思います。

余談:オフショア開発も同じ問題がある

私はここまで
「直接雇用エンジニアの方がスクラム開発に向いている」
「スクラム開発やアジャイルでプロダクト投資を行いたいなら、直接雇用エンジニアにしろ」
という論調で書き進めてきました。

しかしこれは「日本のソフトウェア開発現場」を前提とした話です。
つまり「ソフトウェアエンジニアバブルはあるにせよ、全体としては経済停滞しており」「解雇規制も強い」日本という国家が前提にあります。

解雇規制が弱く、国家として経済成長がアゲアゲな国家ではこの事情は通じません。
ある日突然、エンジニアが
「どうせ他行っても給与は上がるんで。ほなバイナラ」
と言ってしまう海外ではこの常識が通じないのです

海外は経済成長が著しいので単価のアゲアゲ圧力は強いし、解雇規制も弱いから人材がすぐ流出するし、そのくせ戦力化まで時間がかかると思っています。
なのでSaaS企業が「エンジニア確保のために海外のオフショア開発会社を買収しました」と言う報道を聞くたび「お前正気か?」と思っていました。

実際のところはどうなんでしょうね。
数年後に結果が出るので、そう言う企業の方とお話ししてみたいと思います。

追記(アンサー記事)

てろりーさんによるアンサー記事を頂きました。

Twitter上での議論を受けて結論が変更されました

議論自体はこのツリーをご参照ください。
長いので下にまとめます
てろりーさん https://twitter.com/terurou
ぎゃばんさん https://twitter.com/ledsun
ありがとうございます

問題は硬直した調達体制と予算計画にある

チームリーダー自体が自分で声をかけて業務委託の人を探してくるやり方で、かつパフォーマンスに合わせて単価を決める裁量があれば問題は発生しづらいです。

今回の記事で扱った内容の前提にはこんな感じの人員計画が四半期ごとにたてられる組織をイメージしていました。
四半期ごとに事前に決められる計画と標準調達価格があって、単価アップでそこから外れるなら別の人に来てもらおうと言うわけですね。
脳みそがSIer時代で止まってんのか?

XXプロダクト開発部の人員計画
・デザイナー3名(社員3名)
・エンジニア17名(社員12名、業務委託5名)
 業務委託の標準調達価格 120万円(月単価)

この計画は2つの要素を強く要求します。
・長期間の欠員なく、業務委託エンジニアが確保できる
・そのエンジニアの単価は標準調達価格に則ったものである

先に安定した調達を前提とした計画ありきですね。
ある程度以上の開発組織の場合、質を担保したエンジニアを欠員が出たら即連れてきてくれる。SESの形式で。それも数十人という量で。

(となるとそれに応えられる会社って八丁堀のNでSな会社しか思いつかないんですけど他にあるんですかね)

解決策として

・チームリーダー/マネージャーが自分で業務委託エンジニアを探す
 (twitterでよさそうなエンジニアに目星つけておいて、10人くらい声かければ1人は釣れる)
・業務委託エンジニアのパフォーマンスに合わせて単価の裁量権も(ある程度幅があるにせよ)付与する
・予算計画もその単価アップの余地を織り込む
の3点があれば解決するように思います。

予算計画と調達部門が絡んだ硬直的な計画と体制が問題なので、これを現場に権限移譲するわけです。

業務委託として来てくれるエンジニアの質も変わらない?

SES供給会社経由だと月単価200万円でバリバリコードが書けます!みたいな人は来ません。

実際には少数いるけどバリバリ稼げる激アツな鉄火場に回されるからです。
その代わりに月単価120万円の普通のモブのソルジャーなエンジニアが来ます。

自分で声掛けすると、この「普通のモブのソルジャーなエンジニア」の2倍の給与で3倍のパフォーマンスを出す、みたいな人も呼べます。
また直で声をかけているので中抜き率が低く、コスパもいいです。

えっ、むずかしくない?

そう思いますね

まず最初の問題としてチームリーダー/マネージャーがクソ多忙すぎて、新たにタスクを積むのが難しいです。
欠員が長期間出る不安があります。

なにより
「自分で業務委託を探すなんて、今までやったことない」
「他に専門でやっておいてくれる人がいるなら任せてしまいたい」
「失敗して評価が下がったらどうするの?」
というチームリーダー/マネージャーの抵抗意識もあります。

そもそもテックカンファレンスやテックコミュニティに常習的に顔を出している人間でないと「SNSでできそうな人を探す」というスキルは身につけづらいです。

組織が急拡大しすぎていて、チームリーダーに教育を施す時間がない。
ある日ぽんとリーダーに据えられた人間にさらに能力を求めることになる。

みたいな急拡大している開発組織の特有の問題もあります。
この手の速成人材はテックカンファレンスやテックコミュニティに縁遠い人も多いので。

まずそもそも権限移譲できるほど経営陣がチームを信頼できるのか?

「ある程度信頼できるプロジェクトの完了見込みを出せる」程度のチームの成熟が必要ですよね。
信頼する気のない、予算周りの権限まで移譲したくない経営陣もいますけどそれは別問題でしょう。

スモールスタートとして

スクラム開発を始める感覚でスモールスタートしてもいいと思います。
よさげな人を選べる伯楽スキルを持ち、かつそれをやってみたいスクラム開発チームのリーダーの人に自分で人を選び、単価決定できる権限付与してスモールスタートしてみてもいいのではないでしょうか。

速成人材まで含めて横並び一斉導入をしようとするから無理が出るんです。
できる人、やりたい人からスモールスタートして試してみてもいいと思います。

追記(言及された記事)

業務委託は正社員ほど選考プロセスは踏めない。
それでいて簡単に首切りを繰り返すと「すぐやめるんでしょ?」と疑心暗鬼になる。
というのは確かにおっしゃられる通りですね。
そして答えがないんですよ……


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?