2016 真夏 大阪中之島 橋の上の眼

 生ぬるい膜が肌にまとわりつくある夏の午後、誰かの目を避けるかのようにどこまでもそびえ立つビル群の中を一定の歩幅で歩いていく群衆の波に乗っていた。今日も皆、ビルの中に紛れ込み、日常を繰り返すためにパソコンの前に座りにいくのだった。遠くに見える斜めに宙を切る高速道路に向かって、川沿いの歩道を歩いている。汗が額から顔の輪郭に沿って、曲線運動を行い、顎のあたりで落下する。目指していた高架線下の影に入った瞬間、信号が赤になった。信号待ちの人々がどんどん集まってくる。横断歩道のぎりぎりに立っている。

 信号が青になった。一斉に渡りだす人々。暑すぎて、目を閉じじっとしていたため、流れを一瞬そこで止めていた。怪訝な顔で男が横切るとき、大きく膨らんだ肩掛けのビジネスバックをわざと当ててきた。それでも動かない。動けない。ふと、対向から来る群衆に目をやると、横断歩道の縁にしゃがみこんでいる男がいた。ちょうど高架線で影になる手前にいる。短い白髪でやせほそり、だらけた灰色のTシャツとカーキの半ズボンで靴を履いていなかった。じっと地面の1点を見つめていた。彼の周りだけ人流が粘りつき、それを振り切った人々は高架でできた影から出ていく。汗が額から顎まで垂れていく。頭皮からも汗がにじみ出る。どんどん濃くなっていくTシャツ。目の前の地面が波打つ。沈みゆく身体。だんだんと目線が地面に近くなっていく。それでも抵抗しない。そこに居続ける。動かない。

信号が赤になった。


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