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おたねさんちの童話集「ドラネコ一家のハイキング」

  ドラネコ一家のハイキング
 
「いい景色だね!」
 子供たちは、口々にそう言い合って、はしゃいでいます。なんと言っても、今日は待ちに待った、一家そろってのハイキングに来たのですから。
 楽しそうにはしゃいでいる子供たちとは反対に、ドラネコのお父さんは、ずいぶんとお疲れのようで、木陰でヘトヘトになって休んでいます。無理もありません。ここまでの道中、お父さんネコは、家族みんなを先導しながら、子供達が怪我をしないように、それから、他の動物に襲われないように、ずっと、気を配っていたのですから。
 お母さんネコは反対に涼しい顔をしています。歩いている間は、「しんどい!」だとか「疲れた!」だとか「もう帰ろうヨ」などと言っていたくせに、ゴールの広場までくると、トタンに元気になったみたいでした。
「ここでお昼ご飯にしましょう!」
 お母さんネコの一声で、子供たちは昼食の準備にとりかかりました。お兄さんネコのキャッチーが風呂敷を広げると、弟ネコのマオチーがお弁当を並べます。お姉さんネコのネーコラがコップに水を注いでいくと、妹ネコのミャイルが。それを並べていきます。
「いただきます!」
 青空にノラネコ一家の楽しそうな声が響きました。でも、楽しそうに思えたのはここまで。だってすぐに、恒例の兄弟げんかが始まったのですから。
「ネーコラ!鶏の唐揚げは二つずつでしょ!」
「キャッチーこそ、お魚ばっか、食べているじゃないの!」
「もう!静かにして、さっさと食べなさい!」
どんなにお母さんが大声を出しても、子供達のケンカは収まりそうもありません。
「ごちそうさま!」
お母さんがヘトヘトになって、声が出ないくらい枯れそうになって、やっと子供達はお昼ご飯を食べ終えることができたのでした。
 ご飯を食べ終わると、子供たちのケンカも一段落終わったのか、仲良く遊びに出かけます。
「まったくもう!こんなに散らかして!」
 お母さんネコはプリプリと怒りながら、子供たちが食べたご飯のあと片付けをしました。そして、ゴミをリュックサックに入れながら、子供たちの様子を眺めています。
「あーやって仲良く遊んでいると、ホント可愛いよな」
お父さんネコも目を細めて笑っています。
 子供たちはお花で首飾りを作ったり、かけっこをしたりして、それはそれは、本当に天国のような景色にお父さんネコやお母さんネコには見えたのでした。
 でも、そんな楽しい時間がすぐに終わってしまいます。
「エーン!エーン!」
 聞こえてきたのは、妹ネコのミャイルの泣き声でした。
「マオチーが、私の作ったお花の首飾りを壊しちゃったの!」
「違うよ!キャッチーとかけっこしててぶつかっただけだもん。
「でも、マオチーがミャイルのぶつかったから首飾りが壊れちゃったんでしょ!マオチーが悪い!!」
キャッチーもさっきまでマオチーを遊んでいたくせに、全部マオチーのセイにしてしまったようです。
「違うもん!悪くないもん!」
 こうなってくると、今後の兄弟ゲンカはさっきのお昼ご飯の時のケンカの比ではありません。お互いに取っ組み合って、投げ飛ばしたり、爪でひっかいたり、手のつけようがありません。
「やめなさい!」
「やめなさい!」
お父さんネコもお母さんネコも大声でどなりつけましたが、子供たちのケンカはいっこうに終わりそうにありません。
「いい加減にしろ!」
 最後は、お父さんネコが子供たちをわしづかみにして、無理矢理子供たちを押さえつけ、お尻を百叩きして、ケンカをやめさせるしまつです。
「お前たち、そんなにケンカばっかりしていたら、もうハイキングには連れていかないゾ」
子供たちも、やっとケンカがおさまって、「ごめんなさい」と頭を下げたのでした。
 そうして、また子供たちは、何事もなかったように遊びだしたのです。
 でも、また、問題が発生しました。お兄さんネコのキャッチーと弟ネコのマオチーの姿が見あたらないのです。
 お父さんネコとお母さんネコは慌てて、周囲を探します。
「たすけて!たすけて!」
 お父さんネコもお母さんネコも、叫び声のする方へ急いで駆けつけます。
「たすけて!たすけて!」
なんとマオチーが池でおぼれているではありませんか。側では、キャッチーが心配そうにうろたえています。
お父さんネコは慌て池に飛び込みました。そして無我夢中でマオチーの腕を掴むと、そのまま岸にマオチーを引き上げたのでした。
「マオチー!マオチー!」
「だ・い・じょ・う・ぶ……」
マオチーは飲み込んだ水をはき出すと、ゼイゼイとそう答えました。
「ごめんなさい!ごめんなさい!僕がマオチーに、青前なんか、魚を捕れないだろうって、バカにしたから」
お兄さんネコのキャッチーが泣きながら謝っています。
「もういい!もう帰るゾ!」
お父さんネコは、怖い顔のまま、そう言って子供たちをにらみつけました。
お母さんネコもだまってお父さんネコについていきます。
「ごめんなさい!」
子供たちは口々に何度もそう言いました。
でもお父さんネコは、そんな子供たちを振り返ろうともせずに、どんどんと帰り道を急いでいきます。
「お父さん!お父さん!」
子供たちがいくら呼んでも、止まりません。
でも……。
「お父さん!お父さん!雨が降ってきたみたい」
お母さんに言われて、お父さんは空を見上げました。
「いけない。いけない。大雨になりそうだ」
お父さんはそういうと、周囲を見回して、安全な場所を探しました。あいにく、洞穴のような所は見あたりませんでしたが、少し大きな木がありました。
「あの木なら、雨をしのげそうだ」
お父さんネコはそうつぶやくと、子供たちを、その木の下に誘導しました。雨はどんどんと強くなっていきます。それから、風も強くなってきたようでした。
「怖い!」
 妹ネコのミャイルが、お母さんネコにしがみつきました。
 「大丈夫。じっとしていれば、雨は必ずやみますよ」
お母さんネコはそういって優しくミャイルの頭をなでてやりました。
 でも、雨も風も、どんどんと強くなっていきます。ドラネコ一家はびしょ濡れの互いに肩を寄せ合いました。
「バーン!」
 雷でした。さいわいにもドラネコ一家が避難していた木には落ちませんでしたが、決して遠くない木に落ちたのでした。
 キャッチーもマオチーもネーコラもミャイルもみんなお父さんネコやお母さんネコにしがみつきました。
 「だいじょうぶ!だいじょうぶ!」
お父さんネコは、子供たちの肩をやさしく叩いてあげました。
 それから、どれくらい時間がたったのでしょうか。ドラネコ一家の子供たちは、お父さんネコやお母さんネコにしがみついてじっとしていました。
 雲の切れ間から光が差し込んできました。どうやら雨が上がったようでした。ドラネコたちは、ブルブルと全身をふるわせて、雨水をはじき飛ばします。
「お父さん見てみて!」
「きれいだね。やっとお日様が顔をだしたんだね」
「お父さん違うよ!反対側!!」
「あっ!虹!!」
「きれい!!」
「知っているかい?」
 お父さんネコは子供たちに言いました。
 「虹は、雨の後にできるから、美しいんだよ。それも、お日様の反対側。誰も見ないところで頑張って者への神様からのご褒美なんだから」
「えっ!今日、誰か頑張ったっけ?」
笑いながら、弟ネコのマオチーが言いました。
「頑張ったじゃないか、みんな。お前たちが、精一杯遊んでくれるから、お父さんやお母さんも頑張れるんだ」
 空にかかった虹はいつの間にか消えて、代わりにあかね色の雲がたなびいておりました。
 おしまい。

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