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おたねさんちの童話集「二匹のウサギ」

二匹のウサギ
 
白ウサギのスノールと茶色ウサギのチャビーは全然性格が違います。
スノールはおうちの中が大好きで、いっつも絵をかいたり本を読んだりしています。でも茶色ウサギのチャビーはお外が大好き、いっつもピョンピョン飛び跳ねて釣りに行ったりハイキングをしたりしています。
けれども、同い年だから?それともお隣さんだから?生まれた時からいっつも一緒にさせられちゃうの!
一緒に遊ぼっていったって、全然話がかみ合わないし、何して遊べばいいのやら。
スノールは落ち着きのないチャビーが大嫌いだし、チャビーはすまし顔のスノールが苦手みたい。
たった一つ似ているところはニンジンのチップスが大好きなところくらい。あとは全然違うのです。
そんな二匹が捕まりました。
悪いキツネに捕まりました。小さな小屋に閉じ込められて、二匹で一緒にふるえています。
「どうしよう?」
「どうしよう?」
高いところに一つだけ小さな窓がありました。
「とにかく、ここを脱出しよう!」
「どうやって!」
「そんなのあの窓ガラスをぶち破るのに決まっているだろ!」
「見つかったらどうするの?」
「その時はその時さ!」
茶色ウサギのチャビーは当然のようにいいました。
「罠だったらどうするの!」
スノールはゆっくり考えます。
「まず部屋の中を調べましょう」
「調べるって何をしらべるんだよ」
「部屋の中に使えるものはないかだよ。それからその小屋の場所がわかりそうなもの。方角も知っておいた方がいいし、逃げるにしても、まずは作戦を立ててからだよ」
「見てみて!チャビー!こんなところに小さな穴が開いているよ!」
「体の大きなきつねには、きっと気づかなかったんだろうな!」
「さー、さっさと逃げ出そう!」
その時でした。悪いきつねが入ってきたのです。
「あまえたち、おとなしくしておくんだぞ!心配するなって、オレ様が食べるわけじゃない、アムールトラのタイガロ大臣に差し上げるんだ。なにせ、もうすぐタイガロ大臣はクーデターを起こして、この国の王様になるんだからな!」
「なんだって!」
二匹は大きな声を上げました。
だって今の王様は、心優しいライオンのシシロン王です。それが、もし本当にクーデターが成功して乱暴者のタイガロ大臣が王様になるなんてことになったら、この国はめちゃくちゃになってしまうではありませんか。
悪いキツネが出ていったあと、白ウサギのスノールと茶色ウサギのチャビーは顔を見編ませてうなづきました。
二匹は小さな穴を通って天井裏へ逃げ出すと、あっという間に小屋の外でと抜け出しました。
「スノール!すぐお城へ走るぞ!」
「ちょっと待って!」
「お城はどっちか知っているの?」
「そりゃ……?」
「あっちだよ!遠くに屋根のてっぺんが見えているだろ!」
「お、おう」
「あんなところまで、やみくもに走っても、足の速いきつねに捕まるだけだよ!」
「じゃあ、どうしろっていうんだ」
「たしか、東の山の方へ進むと川があったはずだから、そこから川を下ろう!たしかお城の堀まで続いているはずだから!」
「お前、そんなことまで、なんで知っているんだ」
「この国の地理や歴史の本にちゃんと書いてあるさ!なんでチャビーは知らないの!」
「ふつうは、そんな本は読まないよ!みんな読んでいるのは漫画くらいさ!」
その頃、悪いきつねもやっと白ウサギのスノールと茶色ウサギのチャビーが逃げ出したことに気づいたようです。
「のろまねウサギが逃げ出したところで、すぐに捕まえてやるわ」
悪いキツネはそう言ってお城の方へ走り出しました。
でも、いくら走っても二匹のウサギは見つかりません。
「よし、こうなったらお城に先回りしておくか」
悪いキツネがあたりをみまわすと、ちょうどよい具合に、イノシシのチョトルがおりました。
「はあ、はあ、お願いだ。すぐに俺をお城まで運んでくれないか。急いでいるんだ。北の国の軍隊が攻めてきたんだ。すぐにアムールトラのタイガロ大臣にお伝えしないと!」
「えっ!そりゃ大変だ。イノシシのチョトルは慌てて走り出しました。でも、あんまり慌てたものですから、悪いキツネを置いてけぼりにしてお城へ突撃したのです。
「大変だ!大変だ!北の国の軍隊が攻めてきたぞ!」
イノシシのチョトルは大声で叫びながらお城を目指しました。
「さて、ここからどうやって船を渡ろうか?」
白ウサギのスノールは頭をかきました。
「どうしたんだい?」
茶色ウサギのチャビーが尋ねました。
「どうやって舟を作ろうかと考えているんだ」
「何をいまさら!そんなの簡単じゃねえか!」
茶色ウサギのチャビーはその辺の木やつる草を集めて、あっという間にいかだを作りました。
「へん。どんなもんだい!」
「スノール!さっさと飛び移れ!」
チャビーは、スノールを乗せると、川岸の石を蹴飛ばしてすぐさまお城を目指して出発しました。
「大変だ!大変だ!北の国の軍隊が攻めてきたぞ!」
イノシシのチョトルの大声でお城の中は大騒ぎです。
だってそうでしょ!
ちょうど今、北の国の外務大臣とライオンのシシロン王が対談をしている最中だったのですから!
そこへ、アムールトラのタイガロ大臣がズカズカとやってきました。
「シシロン王!外の騒ぎが聞こえないのですか!こやつの国の軍隊が攻めてきたのですよ!さっさと対談を中止してお城に軍隊を集めなさい!」
タイガロ大臣は、剣で北の国の大臣を指しながら、シシロン王に命令しました。
「客人に失礼です。北の国が攻めてくるはずがありません。誰がその事実を確かめたのですか?すぐに退席しなさい!」
シシロン王が毅然とした態度で言いました。
「では、王様!どうして北の国が攻めてきたなどといううわさが流れるのですか?」
タイガロ大臣も引き下がりません。
「それは、お前がクーデターを企てているからだろ!」
チャビーの声でした。
「ハー!ハー!間に合った」
「お前がクーデターなんか考えるから、俺たちはあの悪いキツネに捕まえられたんだぞ!」
「俺がクーデター?考えるわけがないだろ。百歩譲って考えていたとしても、クーデターと北の国はまったく関係がないじゃないか!」
「それは……」
チャビーが言葉に詰まったその時でした。
「それは、僕があのキツネに騙されたからだよ!」
イノシシのチョトルが大きな声で叫びました。チョトルの上には白ウサギがスノールも乗っています。
 「王様!これは全部、タイガロ大臣があの悪いキツネに命令して行ったことです。ただ、あの悪いキツネはずるがしこいくせに、あまりにどんくさい。だから今、こうして王様とこの国を守ることができているのです・
「なにを!一体この俺様のどこが、どんくさいのだ!」
やっと悪いキツネが現れました。
「そんなことも、分からないのかい?」
「だいたい俺たちを捕まえたにもかかわらず、脱出できる穴があいていたことにも気づいていないんだから」
「僕の背中に飛び乗ろうとして落っこっちゃったし……」
イノシシのチョトルも続けて言います。
「お前ら、ただじゃおかないぞ!」
悪いキツネは顔を真っ赤にして怒鳴りました。
でも、すぐにシシロン王が言いました。
「ただじゃおかないのは、こっちのセリフです。皆の者すぐに、タイガロとキツネを捕まえなさい!」
「白ウサギのスノールと茶色ウサギのチャビー!あなたたちおかげで、助かりました。礼を言います。
 二匹はシシロン王に褒められてうれしそうです。
「王様、これは頭のいい白ウサギのスノールのおかげです」
茶色ウサギのチャビーは言いました。
「いいえ、王様。全部、運動神経のいい茶色ウサギのチャビーがいてくれたからです。」
白ウサギのスノールが言いました。
それから二匹はお互いの顔をみて笑い合いました。
白ウサギのスノールと茶色ウサギのチャビーが仲良く遊ぶようになったのは、それから間もなくのことでした。おしまい。

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