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RPGみたいな物語「バキンの地図」その4

半年が過ぎた。
バキンはモールト・ド・モートン城の宝物庫にいた。国の財宝を選別するためだった。財宝の規模によって、隠し場所を考えなければならないし、ダミー用の財宝も必要になる。そして最も大切なことは、持ち出す財宝と、宝物庫に残す宝の選別だ。もし、宝物庫が、まったくの空であれば、敵はすぐに、財宝を隠したことに気づき、すぐにそのありかを探すに決まっている。防ぐためには、管理帳簿のダミーを作って、ある程度の財宝を残しておかなければならない。
「それよりも」
バキンは首をかしげた。まだ腑に落ちないところがあるのだ。いかに国王の命令とは言え、百年以上もの間、ひたすら勇者を待つ以外に、本当に方法がないものか。さらに言えば勇者が財宝をどのように使うのかも分からない。金銀を使って兵力を集めるならば、たとえこれから、どれほどの人間が出てこようとも恐らくイエンガンの右に出る者はいない。それよりも、我が国の軍隊を凌駕するような勇者が現れたとして、いったいどのような財宝を必要とするというのか。
 一つ考えられるとすれば……。バキンは天を見上げました。
『魔法の書』!
 この国には多くの秘伝とされる魔法が存在している。国王の操る予言の書もその一つだ。が、軍隊をも凌駕するような魔法となると、答えはなかなか難しい。魔法は使う者の技量によって、大きく威力が変わってくるからだ。
「おや」
 バキンは思考を止めた。
「まさか勇者とは」
 バキンの視線の先に、小さな箱があった。古い箱だが中に入っているものは分かる。分かると言っても名前だけではあるが。中にあるはずのものが、本当にあるとすれば、それは龍の笛なるものに違いない。本当にあるとすればと、書いた通り、誰も見たことはない。伝説として伝わっているものだから、本物かどうかも疑わしいほどだ。建国の伝説には、千年もの昔、龍を操る勇者が現れ、建国の父と言われるアマリス王の窮地を救ったとある。あくまでも伝説だ。実際に龍を見た人間も、龍を操るという人間も見た者はいない。ただ、その時に使われたという笛が入っているであろう箱は、今でもここに存在している。
 バキンは箱に手を触れた。開くことはできない。鍵穴らしきものもなく、さび付いている様子もないので、きっと、これを開く特別な魔法が存在するのだろう。
 バキンは走り出した。
 城内を駆け巡り、魔法の書に関係するであろう宝物を一堂に集めた。その中に、必ず勇者に必要なものがあるに違いない。バキンは、突然にそう確信したのだった。すぐさま、その宝物を四つに分け、それに同じく四つ作った金銀や普通の宝石の類にまぜた。また、それ以外にも四つ、魔法の書と関係のない財宝を四つ、併せて八つのグループに分けた宝物を作ったのだった。この八つをそれぞれに隠す場所を決めるようボージュンに命じ、それらの地図を作らせれば良い。そして簡単に見つけられないように罠をしかけ、最後にそれらの隠し場所へ、特殊な魔法を用いて隠してしまうのだ。バキンはこれらの宝物の一つ一つに呪文を唱え、それぞれに魔力を与えていった。

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