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おたねさんちの童話集「宇宙人と犬のジョナン」

宇宙人と犬のジョナン
 
犬のジョナンが誘拐されたって知っているかい?
何時って、今朝のことだよ。九時半くらいかな。
えっ!どうして誘拐されたかって?
なんとこの星の主と間違えられたのさ。
普通はどっかの国の大統領かなにかを連れていくだろうに、よりによって、あの小さな家の、しかも犬のジョナンを誘拐するってバカげているだろ?
でも、本当のことなんだぜ!
そんなことより、誰に誘拐されたと思う。なんと宇宙人に誘拐されたんだよ。
宇宙人なんて本当にいるかって!だからいるから誘拐されたんじゃないか。
いいかい、宇宙人の名前はホアンっていうんだ。宇宙の彼方の司令官ポタンが、そのホアンに、この星で一番偉いやつを連れてこいって、言ったんだとさ。だけど、ホアンっていう宇宙人、ちょっと気が弱いのは、ずれているのか。とにかく偵察がてらに入りやすそうな一軒に家に入ったんだ。その家が、たまたまジョナンの住む家だったってワケさ。
宇宙人のホアンは、それなりに人間の恰好をして、玄関のベルを鳴らしたさ。だけど、誰もでてきやしない。当たり前のことさ。人間どもはみんな、こんな時間にいるはずはないだろ。
パパは会社で、ママはパート。子供たちは学校と相場が決まってら。
諦めて帰ろうかと思ったら、ワンワンを犬が吠えやがる。それが、ジョナンだったのさ。宇宙人のホアンは、なんだ犬かとも思ったが、念のために尋ねてみたんだ。この宇宙人、臆病な割に言語能力にはたけているみたいだ。まあ、本人が優れているっていうようも、きっとそういう道具があるんだろうな。とにかく人間の言語だけで、百近く、それに、動物の言葉だって数十種類、もちろん犬の言葉だった話せるって自慢してた。
「お前は誰だ?」
ホアンが犬語で尋ねると、「お前こそ誰だ!」
仕方なくホアンは、自己紹介した。そしたらジョナンもなっとくしたように、「ジョナン」と一言自分の名前を言ったんだ。
それから、「何しに来た!」と吠えたてたんだ。
あまりの剣幕にホアンはびっくりして、「この星の主を探している!」としゃべっちまったんだ。
そしたら犬のジョナンは胸を張ってこう言ったんだ。
「それならオレだ!」
きっと翻訳器の性能が悪かったのだろう。ジョナンにとって、この星は、この家の意味と大差がなかったからだ。だから、この家で一番偉いのはオレだと胸を張ったのだ。だって、ジョナンは、人間なんぞ、俺のお世話をする召使だと思っていたからな。
ちょっと言葉が通じないだけで、食事の用意も掃除も洗濯も、みんな召使がやってくれるのだから、まあ、バカなジョナンならそう思っていても、仕方がないかもな。宇宙人のホアンもバカだけれど、ジョナンもそうとうのバカだ。だいたい毎日ママに叱られてシュンとしているのに、一番偉いはずがないだろうって分からないのかな。
「だったら、その次に偉いのは誰だ?」
ホアンも頭がよくないから、疑いもせずに、そう尋ねたんだ。
そうしたら
「そんなのママに決まっている」
昨日もママに叱られていたくせに、ジョナンのやつ、当り前の顔をして答えるんだから、笑ってしまうだろ。
「いいかい、よく聞け。一番偉いのはオレで、その次がママだ。それからお姉ちゃん、それから妹、その次がお兄ちゃんでその次に弟、最後に、一番こきつかわれているが、パパだ!パパなんて、もう一番の下っ端も下っ端!俺だって怖くない」
ジョナンは鼻を膨らませながら得意げに答えたのさ。
あんまり得意げに答えたから、ずれている宇宙人のホアンもあっという間に信じてしまったみたい。つまり、そのまま宇宙船にジョアンを乗せてしまったというわけだ。
どうやって乗せたかって!そんなの簡単さ。ホアンがもってきた、光線銃をジョナンに向けるだけでいいんだから。あとは勝手に、宇宙船までテレポートされるって寸法さ。
宇宙船に戻ったホアンをみて、犬のジョナンは思いっきり吠えたらしい。だけど、オリの中に入れられているからどうしようもなかったって、ジョナンが後から言っていた。
まあ、宇宙人のホアンにとって、もうジョナンに尋ねるべきことはなにもない。
あとは、この星のナンバー2であるママが帰ってくるのを待つだけなのだ。
もちろん、ホアンにもまったく、心配事がないわけじゃない。何のことって!もちろんママがクーデターを企てていないかってことだ。
だってそうだろう。
もしナンバー2のママがナンバー1の座を狙っていたとしたら、ぎゃくにジョナンがいないのは好都合じゃないか。
まあ、そうなればその時だ。
とにかくホアンが待っていると、人間たちが帰ってきた。最初に子供たちだ。ランドセルを背負って帰ってきた。男女二人だから、そう妹と弟だ。二人とも、そのへんにランドセルをほっぽりだして、すぐにテレビでアニメを見始めた。きっとママが帰ってきたら、「宿題はもうすんだの!」」て大声で叱られるのに……。
その次に帰ってきたのは学生服を着た女だから、お姉ちゃんだ。それからもう一人、学生服をきた男も帰ってきた。こっちはお兄ちゃんだ。宇宙人のホアンは、ママが帰ってくるまで、根気よく待った。もちろん人間の子供たちに気づかれないようにだ。どうして、気づかれたらダメなのか、オレにも分からないが、やはり、ホアンはよほど気が小さいのだろう。
やがてママが帰ってきた。
案の定ママは大声で怒鳴りつけた。「さっさと宿題を片づけなさい!」
それはびっくりしたホアンが一旦踵を返すほどの大声だった。
が、ホアンも任務だから仕方がない。また、おそるおそる顔をだした。
「こいつを返してほしくば、地球を明け渡せ!」
 ホアンは、ママに向かってそういった。
 「あんた誰!押し売りなら、さっさと帰ってちょうだい!」
 「いやいや、そうじゃなくて、お前は、この星の主がどうなってもいいのか!」
ホアンはムキになって、ママにそう言った。
「だれがこの国の主だって。へんないたずらはやめて、さっさとジョナンを連れてきなさい!」
「さすがこの国のナンバー2だな。もしかして、お前、クーデターを図るつもりか?」
「だから、ユウ!もうあなただって分かっているんだから、このヘンテコな犬のぬいぐるみをどこかへ、やって、早くジョナンを連れてきなさい!」
そうさ。宇宙人のホアンは、ジョナンが一番偉いと信じ込んだもんだから、人間の恰好をやめて犬の恰好にしたのさ。だけど、どうみたってぬいぐるみにしかみえやしない。そりゃ、ママだっておきれらぁ。
 ホアンは慌てて人間の恰好に戻ったさ。それもママの目の前で、ママは思いっきり悲鳴をあげたさ、そりゃそうだ、ぬいぐるみが突然人間になるなんて、へんなSF映画でもなかなかお目にかからない光景さ。
 もうママは、ガクガク震えて声も出ない。宇宙人のホアンは、思わずガッツポーズが出そうになるくらい、喜んだ。だって、ここまでこの星のナンバー2がビビるとは思わなかったからね。
「こいつを返してほしくば、地球を明け渡せ!」
 ホアン得意になって、もう一度ママに向かってそう言ったんだ。
ピンポーン!
パパが帰ってきたのは、その時だった。
宇宙人のホアンは、もう調子に乗りまくっていた。だって、ナンバー2をビビらせているのだ。もう怖いものなどありはしない。
 しかも、帰ってきたのは、一番下僕のパパなのだから。
 「こいつを返してほしくば、地球を明け渡せ!」
 宇宙人のホアンは、モニターの画面をママに見せてもう一度そういった。
 が、パパの目には、変な男かママを脅しているようにしかみえない。
 パパはいきなり、ホアンに殴り掛かった。宇宙人のホアンは、気が小さいだけあって、ケンカはめっぽう弱かった。
 すぐにごめんなさい!ごめんなさい!と大声でなきなし、すぐジョアンは返しますと光線銃を鏡にむけると、あっという間にジョナンを呼び出した。
「ポタン司令官!ポタン司令官!作戦は失敗しました。すぐに帰還します」
そうだ!宇宙人のホアンはアッという間に逃げ出したのさ。
こうして、この星の平和は守られた。
えっ!お前は、どうしてそんなことを知ってるのかだって?
そりゃ、知っているさ。だって俺はこの家に住んでいるハムスターなんだから!一部始終を全部見ていたに決まっているだろ!
あとは、ジョナンがパパのことを一番下っ端っていっていたことは、どうやってパパに告げ口するか、残された問題はそれくらいかな?おしまい

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