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おたねさんちの童話集 「野ねずみのミネリ」

野ねずみのミネリ
 
 野ねずみのミネリはいたずらっ子。帰ったらすぐに「宿題は!」ってママに言われちゃうから、ランドセルを持ったまま、山奥へ遊びに出かけました。だって今日はミネリの十才の誕生日!ずっと前から決めていたのです。お兄ちゃんのネイルだって十歳の時に洞穴を探検したんだから、ミネリだって大丈夫に違いありません。ミネリも、絶対に十歳の誕生日か来たら一匹でお地蔵様のまだその奥にある洞穴を探検しようって決めていたのです。
 ミネリは、左肩にだけランドセルをかけて、ずんずんと歩いていきました。途中、タヌキさんの畑でつまみ食いをしたり、リスさん家の倉庫に忍び込んで怒鳴られたり。ミネリは今日もやりたい放題です。だけど本当は少し心配でした。だって、たった一匹でこんなに遠くまでやってきたのは、初めてのことなのですから。昔、パパとは来たことがあったけれど、危ないから、お地蔵様より奥には一匹で行っちゃいけないよって言われていたのでした。ミネリはお地蔵様に軽く頭を下げると、ズンズンと奥へ進んでいきました。しばらくすると、お兄ちゃんのネイルの言っていたように、洞穴がありました。
「グオー!グオー!」
 洞穴の奥からは、今まで聞いた事のない音が聞こえてきました。
「何の音だろう?」
 ミネリは、恐くなってキョロキョロと周囲を見回しました。それでも、ここまで来たのだからと、ミネリは震えながら洞穴の奥へと進んでいきました。
「誰だ!俺の眠りをジャマするものは!」
 あまりの大きな声に、思わず見上げました。大きな黒い熊でした。
「ごめんなさい!」
 ミネリは、ランドセルを地面にたたきつけて、一目散に逃げ出しました。
「まったくもう!」
 熊は、ランドセルを拾い上げると、机の上におきました。ピ・ポ・パ・ポ・パ……。
「もしもし、洞穴に住んでいる熊ですが……」
 野ねずみのミネリは、ママに見つからないように、ソーッとお家へ入る予定でした。
「ミネリ!こっちへ来なさい!」
 でも、やっぱり見つかったようです。
「ミネリ!ランドセルはどうしたの!」
ミネリが黙っていると、ママは一枚の紙を机の上に置きました。
『脅迫状 ランドセルを返して欲しければ、タヌキさんの畑まできなさい。』
「ママ!……どうしよう」
 「どうしようも、何もランドセルがなかったら、明日から学校へいけないでしょ!さっさと行ってきなさい!」
 しかたなくミネリは、タヌキさんの畑まで、やってきました。
「おい!おまえ!ここで何をしている!」
 ミネリが畑に入ると、大声でタヌキさんが怒鳴りました。
「また野菜を盗み食いしにきやがったな!」
「違うよ!ランドセルを探しているだけ!」
「ランドセル?でも、このあたりを食い散らかしたのはお前だろう!」
「ごめんなさい!もうしませんから許してください。どうかランドセルを返してください」
「返せといわれても、ここにはないよ!」
 タヌキさんは、そう言って一枚に紙を差し出しました。
『次はリスさん家の倉庫にきなさい』
 ミネリはリスさん家の倉庫にきました。
「誰だ!イタズラをしているのは!」
 ミネリがびっくりして震えていると、リスさんが現れました。
「ごめんなさい!僕のランドセルを探していたの!」
「こんなところにあるわけないだろ!まあ今日はゴメンナサイが言えたから許してやるか」
リスさんはそう言ってミネリに紙を差し出しました。
「次は、お地蔵様のところまできなさい」
 ランドセルはお地蔵様の所にありました。
「あ~、つかれた」
 なんだか、ランドセルまで重たく感じられるくらいの気分です。ミネリは、とぼとぼとお家へ帰りました。
「帰ったらすぐに宿題をしなさい!」
 ママに言われてランドセルを開くとハチミツとメモが入っていました。
「今度からは、ママの言う事をちゃんと聞いて、イタズラはしないように!クマより」
「ねえ、ママ! ネイルお兄ちゃんも、一匹で熊さんのところまでいったの?」
「まさか!ネイルお兄ちゃんは、洞穴をみて、すぐに恐くなって帰ってきたわ!熊さんがすぐ電話で教えてくれたもの。明日、ママと一緒にハチミツの御礼にいきましょうね」
 「うん。僕、ちゃんとありがとうって言えるよ」
 もうすぐ、夕日が沈むころです。

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