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おたねさんちの童話集「ダンゴムシのゴンタ」

ダンゴムシのゴンタ
 
ゴンタの家族は大家族。
今日も朝から大忙しです。
トイレに行くのも大行列。
顔を洗うの一大事。
ご飯もみんなで「いただきます」
家の掃除もみんなで手分け。
穴を掘ったり、ゴミを取り除いたり。
ゴンタの仕事は、なぜか毎日トイレ掃除でした。
もちろん一人じゃ大変ですから、弟のジロゴン、サブゴン、ヨンゴン、ゴンゴンも一緒です。
張り切り屋のゴンタ。
理屈屋のジロゴン。
お調子者のサブゴン。
几帳面なヨンゴン。
生意気なゴンゴン。
近所でも仲の良いよ評判のダンゴムシ五兄弟です。
でも、どうしてでしょうか?
兄貴のゴンタのテンションが上がるほど、弟たちのテンションは下がってしまいます。
「朝やぞー!起きろ」
「ええやん、もうちょっと寝かせてよ」
「飯やぞー!はよ集まれ!
「あーもう今日、朝飯ええわ」
なかなか誰も長男であるゴンタのいうことを聞いてくれませんでした。
でも、ゴンタはそんなことには気にしません。
毎日、弟たちをたたき起こしてはせっせとトイレ掃除に励んでいました。
今日もゴンタはトイレ掃除。
せっせせっせと一人頑張っています。
でも、内心弟たちが起きてこないのが気になってしかたがありません。
それでも、黙々とやっていましたが、
「こらー!さっさと起きてこんかー!」
ついに怒りが爆発です。
ゴンタはずんずんと弟たちのねぐらへ怒鳴り込んでいきました。
「あ、兄ちゃん。おはよ」
「あーなら、そろそろはじめよか」
弟たちは、口々にそう言いながら出てきました。
「お前ら、今何時やとおもっとんじゃ?」
「お兄ちゃんが、そろそろ怒鳴り込んでくるってみんなでゆうてたから。そろそろ起きなあかん時間。そんなかっかせんでも定刻や」
「ほな、今から朝飯食って、コーヒー飲もか」
「・・・・ってお前ら、今からはじめるんちゃうの?」
「心配せんでも、コーヒー飲んだらはじめるから。何をそんなにいそいどんの?」
ゴンタは、完全に怒ってしまいましたが、四対一では、どうも分が悪いようです。
「まるで、俺が間違ってるようやん」
ゴンタは一人ブツブツいいながらトイレ掃除にもどりました。
ある日のことです。人間たちがゴンタたちが住むダンゴムシの巣を荒らしにやってきました。どうやら公園中の草抜きを始めたようでした。
公園中の小動物たちは大あわてで逃げていました。
そうして、人間たちはゴンタが住むダンゴムシの巣の上にある大きな石をどけたのでした。
ダンゴムシの巣に眩しい光が差し込みます。
「暑い、暑い。助けてくれ!」
大勢のダンゴムシたちが奥へ奥へと逃げ込んで、ダンゴムシの巣は大パニックになりました。
ゴンタたちも必死で逃げました。
でも、その時です。
末っ子のゴンゴンが人間の子供に捕まってしまいました。
ゴンタは大勢の人波ではなく、虫波をかき分けて、ゴンゴンの救出に向かいました。
ジロゴン、サンゴン、ヨンゴンもゴンタに続きました。
が、足の遅いことは、公園の虫たちの間でも周知のこと。どんなに必死で這っても、なかなかゴンゴンのところまではたどりつきません。
そのころ、ゴンゴンも身体を丸めて、必死に敵の攻撃から身を守りました。
でも人間たちの子供は、ゴンゴンが必死で身を守っていることなどわかりません。コロコロと手のひらに転がして、少し遊んだあと、そのへんに放り出してしまいました。
「イタタタタ!!」
ゴンゴンは急いで巣に戻りました。
途中で子供たちに踏まれそうになりましたが、やっとの思いで巣に戻ることができました。
「だいじょうぶか!」
ゴンタたちは一斉にゴンゴンのところにあつまりました。
ゴンゴンは少し頭にケガをしたようでしたが、意識ははっきりしていました。
「大丈夫!ちょっとした、かすり傷だよ」
ダンゴムシの巣に平和が訪れると、兄弟たちは巣の修復に汗を流しました。
まだ傷の癒えないゴンゴンは鉢巻きにメガホンを持って応援をしています。
「ほんまは治ってるんちゃうか!」
「なんでー、こんだけ痛いのに治ってるわけないやん」
ゴンゴンも少し手伝いたいようでしたが、兄貴のゴンタがしっかり治ってからだと言い張っていたのでした。
「あのーちょっと話があるんだけど……」
ヨンゴンがゴンタのところへ相談に来たのは
巣の修理もだいぶんと進んだころでした。
「俺、独り立ちしたいねん」
「何でまた急に……」
「結婚しようと思うんや」
「相手は?」
「今度紹介するわ」
「そうか、もう決めたんか?」
「決めた。結婚したら、外に出なアカンからな」
「それではただ今より、ヨンゴンとヨンヨンの結婚式を行います。」
なぜか司会は立候補したゴンタがしました。
でも、一人で大泣きしているために、ほとんど司会進行がつとまっていません。
それでもゴンタはやたらとカンゲキしながらオイオイと泣き声混じりに司会をつとめていきました。
お調子者のサブゴンが名調子でみんなを笑わせます。
ジロゴンはやたらと屁理屈ばかり、話が長いのブーイングをあびました。
まだ傷の癒えないゴンゴンは、ぱくぱくと一人でごちそうを食べています。
ゴンタは、結婚式が終わっても、一人カンゲキしたままオイオイと泣き続けて、いったい誰が結婚するのかわかりません。
でも、さすがはヨンゴンでした。もう何日も前から用意した原稿は、何度も何度も暗記するほどに練習しており、ヨンゴンらしいしっかりとしたスピーチができました。
家族代表でしたゴンタとスピーチとは大違い。なにせ司会も自分でするものだから、いつからスピーチが始まったのかもよくわからないし、スピーチの半分は泣き声しかなかったのですから。
ヨンゴンが結婚をして家をでて、ゴンタもふと自分の結婚を考えるようになりました。今まで兄弟のことばかりを考えてきたので自分のことは後回しでしたが、ヨンゴンが結婚して、弟たちもだんだんと成長してきたのにあらためて気づいたのでした。
きっとジロゴンやサブゴン、ゴンゴンでさえもやがては結婚して家をでてくのだろう。
そう思うと、ゴンゴンは急に寂しくなってきました。
兄弟みんなだそろっているあいだに、何か思い出に残るようなことをしたい。
ゴンタはジロゴンに相談しました。
でも、理屈屋のジロゴンは、アレはできない。コレは時間があわないなどなど文句しかでてきません。
ジロゴンは投げ出すように、サブゴンを呼びました。
お調子者のサブゴンはムチャクチャ乗り気になって、どんどんと出来そうもないアイデアを出していきます。
それを、そこへやってきたゴンゴンがズバリとつっこみをいれます。
やはり、計画をたてるときは几帳面なヨンゴンにかなうものはいません。
やっぱりヨンゴンにも奥さんと一緒に参加して貰おう。
ゴンタがそういうと、みんな賛成しました。
こうして決まったのは、隣町の公園へど大旅行でした。
昔、サブゴンが一人でふらふらと遊びに行ったことがありますが、一週間くらいかかりました。それを六人でいくのですから、ダンゴムシにとっては大旅行です。
しかも隣町まではなんとダンゴムシの大嫌いなアスファルトを通らなければいけません。
「隣町の公園にはいったい何があるの?」
「おもしろいの?」
ゴンゴンがサブゴンに聞きます。
「えーっと、何があったっけ。まあみんなで行くことが大切なんだよ」
サブゴンは適当にごまかしました。
だって本当はとっても、とっても大変な旅なのですから。
そうして、夕暮れになるとダンゴムシたちは行動を開始しました。
「どうしたの、そのたくさんの荷物?」
みんなの視線がヨンゴンの奥さんに集まりました。
「まあまあ、女性は荷物が多いもんだよ」
普段は一番に文句を言いそうなヨンゴンが答えました。
やはりヨンゴンも奥さんには弱いようでした。
「でも、俺たちは持たないから、ヨンゴンが持てよ!!」
いつも嫌みなジロゴンにいわれて、ヨンゴンは下を向いてしました。
夕日は沈んでいましたが、まだまだアスファルトは熱くて歩きにくいようでした。
ジロゴンはずっと文句を言っています。
ヨンゴンはせっせと一人重たい荷物を担いでいるのでもう汗が噴き出してきました。
「おいゴンゴン!ちょっとくらい荷物を持てや」
ヨンゴンは兄貴に逆らえないのでゴンゴンに命令します。
「いやや、ゴンタの荷物が一番少ないからゴンタに頼みーよ」
一番生意気なゴンゴンが素直にきく筈もありません。
その後ろをヨンゴンの奥さんが手ぶらで歩きます。
「ヨンゴンさん、頑張って!」
ヨンゴンは不満そうに歩き続けました。
夜になると星空はいつもに増して綺麗でした。
お月さまは見えませんでしたが、ダンゴムシたちにとっては十分に明るい夜でした。
ヨンゴンの荷物もいつの間にか兄弟で手分けして担いでいました。
「俺も帰ったら結婚しようと思うんだ」
珍しくまじめな声でジロゴンが言いました。
「そうか・・・。」
ゴンタは、小さくそうつぶやいてから、寂しさがこみ上げてきました。
きっとこの冬が始まる前に、僕たち兄弟は離ればなれに暮らすことになる。
もちろん今まで知らなかったはずはない。
だけど、実感がなかった。
「おい、みんなで競争するぞ!」
ゴンタが叫びました。
「オー!やろうやろう」
いつもならゴンタの提案にすぐ反対する弟たちも、きっと同じことを考えていたのでしょう。
一斉に新しい公園へと走り出しました。

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