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コミュニティとは何か

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSJ)のコミュニティプログラムマネージャーとしての仕事の優先度No.1はJAWS-UG = AWSユーザーコミュニティの支援です。勉強会やイベントの開催を直接支援し、イベントへの登壇依頼・いただいたセッション枠へのAWSで社内参加者を集めたり、そのイベントの認知度を高めるためにAWSの公式アカウントからのソーシャルへの投稿を調整・お願いし、公式のニュースレターにコミュニティやコミュニティイベントの紹介文を寄稿など、対外的なものです。一方、今のAWSの企業規模になると多くなってきたのが、社員から受ける「コミュニティ相談」です。

これまで受けてきたコミュニティ相談はだいたい以下の3つに分けられると想います。

・担当のお客様に参加してもらいたいので詳しくJAWS-UGについて教えてほしい(お客様の上司や広報部門にAWS公式ユーザーグループであることを説明してほしい)
・担当のお客様がコミュニティ運営に興味があるので、お客様先でJAWS-UGの話をしてほしい
・AWS/Amazon関連のユーザーコミュニティを作りたいので相談にのってほしい

それぞれの相談ポイントは違うのですが、お話を聞いて感じるのはコミュニティそのものの定義や使われどころが曖昧かつ多様で、イメージしているものが同じではない、ということです。このコミュニティとは何か?については、学術論文やコミュニティデザインなどの書籍も多く、さまざまな捉え方があります。自分も20年前にユーザーコミュニティに仕事として接するようになった時は、以下の書籍を購入して参考にしていました。

東日本大震災のあとにはボランティアのコミュニティ活動を指揮された方のコミュニティ論なども多く出回るようになりましたが、自分が関係してきたコミュニティは、あくまでIT業界におけるユーザーコミュニティです。このITユーザーコミュニティに関して、イメージの摺り合わせを行うために、自分が考えるコミュニティとは何かを伝えるようになりました。自分が考えるITユーザーコミュニティとは、ITコミュニティの本質は勉強会であり、その勉強会を企画・運営、そして参加する人も含めて、コミュニティとは

自ら学び、成長したいと思う「人」の集まり

という定義を、相談にいらした方に伝えて、イメージが同一かの確認をするようにしています。

「自ら学び、成長したいと思う人」の「想いのレベル」はそれぞれです。コアにいる人、または運営メンバーと呼ばれる人たちはこの想いを強く持っている人が多いと思っています。全く運営に関わらない一般の参加者も、上司に言われて嫌々参加していると継続はできませんし、参加し続けるということは少なからず自らの意志で参加を「判断」していると思います。

コミュニティを「仕組み」だと思われている方も少なくありません。コミュニティを作るために、どんなオンラインコミュニケーションツールが最適ですか?どのように組織の構成をデザインすればいいですか?どんな報酬を与えるべきですか、などなどです。そしてこう言われます。「それをすれば人は集まるのでしょうか?」そういう時には、再度上記の定義を確認させてもらって、こういう質問をします。

「具体的にコミュニティに参加してほしい人の名前を複数あげてください」

これで5人以上の名前が出てきたのはMedia-JAWSの相談をいただいた時だけでした。もうすでに業界のエンジニア同士のネットワークが構築されていた、さらにその状況を弊社業界担当の営業やSAが把握して、かつそれらの人たちとすでに深いコミュニケーションを築いていたので、あとはJAWS-UGの支部として認めてもらえる条件(オープンであること、no sell no jobなど)をお伝えして、新支部設立のお伺いをJAWS-UGに立てるだけでした。

CMC_Meetupを主催されている小島英揮さんが言うところの「ファーストピン」を見つけているかどうかなのです。別の言い方では率先して海に飛び込む1番目のペンギンから「ファーストペンギン」と呼ぶこともあります。

ただ、このファーストピンやファーストペンギンとなり得る方を見つけるのが難しい。そのためコミュニティの仕組みや建て付けから入りたくなる気持ちもわかります。もし、ファーストピン、ファーストペンギンを見つけられていたら、JAWS-UGの自走する組織のフレームワークやカルチャー、AWSとの関係やイベントのリズムなどはすぐに参考になるでしょう。

しかし、自ら学び、成長したいという人がいなければ(少なくとも自分が考えるコミュニティとしての)第一歩を踏み出せないのです。たとえ踏み出したとしても自律的に継続したコミュニティ活動になりません。コミュニティとは枠組みではなく「人」であり、このような人を見つけることができるか、さらにどう育てるか?というのが大きな命題になります。(*1)

ここまでの話はコミュニティをわかっている人にとってはとても当たり前なことだと思いますが、双方のコミュニティの定義が曖昧だと最初から話が噛み合わなくなります。単純にもっと多くのユーザーにスキルアップをしてほしい、であれば魅力的なトレーニングや認定資格をプロモーションし提供することを施策として考えた方がシンプルですし、会社のビジネスを最大化させるのが目的であれば、ユーザーコミュニティではなく、マーケティングオートメーションやターゲティングによりポテンシャルの高いリードを見つけ、アプローチした方がいいです。コミュニティによる効果は広く多様で魅力的に(かつ、コストがかかっていないように)見えますが、銀の弾丸ではないのです。(ちなみに自分はコミュニティによりコストを抑えるような目的の雰囲気を察したらすぐにお話を中断します。コミュニティを知らないマネジメントにより、本当にコストを抑える状況で最初に削減されるのがコミュニティですから。)

さらに自走するコミュニティのキーとなる自律的モチベーションへの働きかけは外発的動機付けではなく、内発的なものであり、それは平たくいうと「やる気スイッチがどこにあるか」を探すと同じなのかもしれません。よって、コミュニティの話にDive Deepすると、どうしても心理学的な考察に寄っていきますよね。

自ら学び、成長したい人の集まり。これが私のコミュニティの定義です。

[追伸]
ファーストピン、ファーストペンギンはキャズム理論の「イノベーター」という説明も可能です。この人達のコミュニティ立ち上げ時のパッションとパワーには本当に圧倒され、ベンダー側の担当者としては感謝しかないのですが、一方でこの人達の特性は「常にアンテナが新しいものに向かう」であり、時としてそれを「飽きっぽい」という人もいます。いずれコミュニティからは巣立つことは織り込み済みにしておくほうがいいと思います。

[追伸2]
ここまでお読みいただいたのであれば、相当興味があるかと思います。コミュニティがなにか?を知りたいのであれば、やはり実際に何度か参加して、まわりの人達と会話して、何かを感じてもらうのが一番だと思います。「考えるな、感じろ」かと。そのあとで、先達の人たちの意見やドキュメント、記事などを参考にしながら言語化すればよいのと思います。ITコミュニティ・勉強会は日本であればDoorkeeperやconnpassから探し出すことができます。JAWS-UGの各支部の勉強会情報は上記サイトでJAWS-UGで検索するか、JAWS-UGのホームページ、AWSのサイトでも確認できます。

2277文字 延べ3時間程度

Gerd Altmann による Pixabay からの画像をお借りしました

(*1) そのような個人を特定するのは難しいですよね、と言われますが、これは自分たちの製品やサービスを実際に使われれている方で、熱心な方は誰ですか?という問いなんです。この情報をマーケティングやカスタマーサクセスの担当者が全くもっていない状況で「ペルソナ作成」とかやられて本当に意味があるのかなぁ、と不思議に思います。

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