新型コロナウイルス周辺の騒ぎについて

こんにちは。

スナフキンと申します。現在は皮膚科医として勤務していますが、近い将来に海外の公衆衛生大学院に留学して臨床研究を学びたいと考えており、あわよくば医師以外へのキャリアチェンジも狙っています。

最近話題の新型コロナウイルスについてです。

私は皮膚科医なので外来患者が押し寄せるということはなく、逆に慢性疾患で外来に通院いただいている方が外来をキャンセルしたり、家族の方が処方だけ取りにきたりするようになっています。身をもって感じる変化はその程度でしょうか。

さて、今回の新型コロナウイルスの一連で、改めて感染症の脅威を感じました。経済は停滞し、株価は急落。オリンピックは延期してしまうかもしれないと。

日々SNSでは政府や厚生労働省への批判が投稿され、少し辟易しまうほどです。

それに対する個人的な見解を書きます。

 人間が不安になり、怒りを表出するとき、その根源には「知らないこと」があると考えています。自分もふとイライラしたときに、その怒りの理由を分析してみると、"自分を取り巻く状況が理解できないから"であることが多いです。例えば、他人のミスや理解不能な行動に対して怒りを感じることもありますが、他人は他人でミスをしたくてしたわけではない、「その人の人生すべての経験と知識」から最善と判断した行動をとっているわけですから、それに対する怒りというのは詰まるところ「その人の人生すべての経験と知識」を私が知らないから表出するものなのです。

 今回のウイルスについては、世界中のすべての人間がまだ十分な情報、エビデンスを得られておらず、それが大いに不安と怒りを駆り立てます。人間は怒りをウイルスにぶつけられないので、誰かを標的にしたくなります。そこで矢面に立たされるのは感染対策の最前線にいる政府、厚生労働省、ひいてはWHOだったりもします。「政府の判断は遅すぎる」「もっとPCR検査をしろ」「情報を公表しろ」と毎日SNSで罵詈雑言が投稿されます。


 以前私が国立保健医療科学院でインターンをしたとき、厚生労働省出身のとても聡明な先生が言っていたのは、

 「一般の人が政府に対して"こうしたらいい"と思っているようなことは、大体霞が関ではすでに議論し尽くされている。」

 ということでした。実際厚生労働省にインターンをしてみると、官僚の方々は皆聡明で、日本の医療を良くしたいという情熱をもっていました。

 一見「こうすればいいじゃん」と思うようなことは、大体一般の人が想像もできないような欠点や制約があって、「本当はやりたいんだけどできない」ことだったのです。

 たしかに今回は常に早急な対応や政策が求められ、人材不足の厚生労働省が上手く機能していないのかもしれません。それでも単なる思い付きで政策をポンポン打ち出すわけはなく、議論が重ねたうえの決断であるはずです。

 だから、例えば疫学を知らないで「PCR検査をもっとしろ」と批判するのは的外れだし、その他の意見も大体は全体像をつかめていないが故の不適当なものである可能性が高いと、肝に銘じなければならないのです。


 「では政府や厚生労働省は意思決定の理由やプロセスをすべて詳らかにせよ」

 という意見は、真っ当なのですが、すべて詳らかにしたら大変な情報量になってしまいます。その一部を要約できればいいのですが、要約したものだけでは必ず誤解が生じ、そこが叩かれることになるでしょう。

 総じて言えるのは、我々は怒りをもっと冷静に分析し、事態に理性的に対処すべきだ、ということです。


 最後に、あまり関係ないのですが、一番印象に残ったことがあります。

 今回の騒動で一躍有名になった医師の一人が神戸大学感染症内科の岩田健太郎先生です。クルーズ船内部の告発動画はCNNやBBCでも取り上げられましたが、今はその動画は削除され、本人もメディアへの露出はなるべく控えているようです。一方その裏ではtwitterで、何百もの非医療者のコメントに逐一返信して、不安を緩和させています。最初は怒りを岩田先生にぶつけていた匿名アカウントが、「先生の言うことを信じます」と矛を収めているのを見ると、感動やカタルシスさえ覚えます。彼は「知らないこと」から来る大衆の燃え上がるような怒りを、根本から一つ一つ消火しているように見えます。政府や厚生労働省が大衆へアウトリーチするより、結局1対1の説得が心を動かすのだな、と痛感するやり取りです。

 自分も結局日々外来で1対1の説得を繰り返し、患者の「知らないこと」による不安を少しでも取り除いていきたいと思います。

 以上、取り留めのない駄文を読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?