見出し画像

猫は木に登る

以前、ホテル暮らしをしていたことがある。

仕事が終わり、事務所を出てホテルへの帰り道。もう午前0時を過ぎていた。
途中、横切った公園で、猫がケンカをしていた。

気になって見に行くと、黒猫が1匹、大きな木のかなり高いところまで登っている。

下から威嚇していた相手の猫は、逃げてしまった。残されたのは、大きな木と、木の上の黒猫と木の下の僕。

黒猫は、手を伸ばしても、全然届かないほど高いところまで登ってしまっている。
以前、登った木から下りられなくなってしまった猫を、梯子を使って助けたことがある。
猫には、そういう後先を考えないところがある。

見上げたり、声をかけたりしてみるけれど、暗くて黒猫の様子はよくわからない。事務所に戻って脚立か何かを持ってくればいいか、などと考えながら、木の下をうろうろしていた。

よい考えも浮かばないまま、少しその木を離れて、何か使えるものがないかを探す。

そのとき、ザザッという音とともに、木の上の黒猫が器用に下りてきて、一目散に駆けていった。

なんだ、下りれるのか。よかった。

……というより、僕が木の下でうろうろしていたから、下りられなかったのか。僕のせいで黒猫も困っていたのだ。 悪いことをした。

僕の親切心や心配事なんて、きっといつもそんなものなのだろう。事務所に戻って脚立を持ってこなかっただけでも、まずまずだ。

結局何もしていないくせに、なんだかいい気分だったので、コンビニでアイスを買ってホテルに戻った。

そんなそんな。