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南極の氷

 今から20年くらい前だろうか。当時、勤めていた大阪の会社に、クール宅急便が届いた。
 開けてみると、それはただのでかい氷の塊だった。
 差出人は高校のとき、バスケット部の副部長だったYだ。(ちなみに、僕は部長だった)
 風の便りでその年、Yが大工として南極に行っていたことは知っていた。
 つまり、氷はお土産だった。南極の氷。
 その氷が届いてからしばらくして、ひょっこりYが大阪にやって来た。何年かぶりの再会だった。
 せっかくだから、その氷で水割りでも飲むか、ということになった。
 「この氷、調査のために大昔の地層から掘り出したやつなんだ。雪が降って、自分の重さで圧縮されて、長い長い時間をかけてできた氷だから、こんなふうに気泡が入ってるんだよ。水割りとかに入れると、この気泡が弾ける。その弾ける音を『時間が弾ける音』って言うらしい」とボソボソ話すY。
 Yは高校のときから飄々としていて、それでいて部長の僕がわめき散らすよりも、Yが動けばチームのみんなが黙ってついていく、という感じだった。僕は、部長とは名ばかりの飾りみたいなものだった。
 高校の頃は、Yみたいになりたい、と思っていた。僕はYに嫉妬していたのだと思う。
 南極に行ったYの話を、その頃と同じ気持ちで聞いていた。
 時間が弾ける音を聞きながら飲んだ水割りは、なんだか苦かった。

そんなそんな。