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ただ それだけで

あなたのやさしさに触れるとわたしはいつも自分の小ささが苦しかった

そんなふうにやさしくされる価値なんてわたしにはなかった

「なぜそんなにやさしいのですか?」

そう聞いたわたしにあなたはただ薔薇の花のように微笑むだけだった

わたしが間違ったりつまづいたりしくじっても、いつもあなたは許してくれた

その腕にやさしく抱かれていると、わたしはもう何もかもどうでも良くなってしまう

何にもいらないし、何もしたくなくなる

このままあなたの腕の中で、その温もりに包まれていたかった

ずっとその瞳に見つめられていたくて、あなたの視線の中にいたくて、その広い世界の中を泳いでいたくて、その眼差しを深く心に刻み込んだ

でもそれじゃ恥ずかしい

わたしはこれから未知の世界に飛び出してゆく

そこにあなたはいなくても

もう甘えてばかりはいられない

わたしはあなたのそのやさしさに、大きさに、強さに、ただ甘えているだけのちっぽけな人間にはなりたくない

だからもう、その手を放すよ

ここからは自分の足で歩いてゆくから

今度会える時はきっとあなたをやさしく包む人になりたい

わたしにくれたたくさんのやさしさを少しでも返せる人になりたい

この凍えた心を溶かしてくれたあなたへ

空っぽなわたしを愛してくれたあなたへ

花の咲く季節にまたここへ帰ってこよう

あなたにやさしさを返しに

救われた あなたのそのやさしさに

それだけでよかった

ただ それだけで

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