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わが家の猫たち クロクロ・クロタの大冒険

 拙著『小さな家の思想―方丈記を建築で読み解く』(文春新書、2022,6)について、その反響、書評に関連してお応えして、色々書いてきましたが、㉑までで、ほぼ一年たち、一段落とし、今回は、私のブログのマスコットキャラクターについて、紹介させていただきたいと思います。

わが家に雌猫の親子、ナツメとコウメがやってきた

 わが家に猫の親子がやってきたのは二〇〇九年五月三日のことでした。飼い主の平群さん姉妹が猫たちを連れて、姫路から新幹線で来てくれたのです。彼女たちを東京駅に迎えに行ったのは、すでにネットで知り合っていた寛子さんでした。それにもうひとり、猫好きの女性がくるはず。私たち夫婦は猫たちと関係者の歓迎パーティの準備をしてみなを出迎えました。

 みな互いに自己紹介しながら、その日のために長円形に伸ばしてあった食卓を囲みました。二匹が一緒に入ったキャリアは床にそっと置いておきました。遠い長旅で疲れているだろうか。しばらくそっとしておくことにします。イタリアのスパークリングワインの栓を抜いた。さわやかな泡立ち、なにか花のような香りが広がる。

 猫たちは我が家を気に入ってくれるかしらん。杉並区天沼に2006年5月に引っ越してきた家です。3階建て、扉がほとんどないから、家中どこでも遊びまわれるとは思うけど、猫的にはどうかな。考えてみれば家じゅうキャットタワーのようなものかもしれない。

 すでにネットの写真で知っていたナツメ(棗)とコウメ(小梅)と平郡さんとの出逢いは、 2009年2月の26日のことでした。勤めから家に戻る途中で、冷たい雨の降る夜、二匹の猫が濡れながら歩いて、駐車中の車の下にもぐりこんだのです。思い出しても寒い晩だったという。大小二匹の猫は、毛並みから親子に見え、首輪もしていないし、野良猫だと感じたといいます。
 
 どちらもよく似た茶トラ。姉妹がすぐ二匹を保護し、家で面倒を見始めた。寒さから開放されて二匹はほっとしていたという。飼い主を探していたけど一匹なら、という声がすぐあったけれど、引き離してはかわいそうと感じた。それで二匹一緒に飼ってくれるという話に乗ることにしたんです。
 
 私たちはふたりとも仕事をしていたので、二匹なら私たちが留守でも遊んでいるのではないかと思ったので、かえっていいと感じたからでした。
 
 キャリアーのチャックを開けると、まずナツメが顔を出して辺りを見回した。続いて小さな小梅が顔を出した。二匹ともおずおずと辺りをうかがっています。

キャリーバッグを開けると、コウメはびっくり、ナツメはどこだ、ここは

 ナツメは出てくると、さっとテレビの下の棚に隠れるように場所を占めた。コウメがその後に続いた。狭いその場所が安全と感じたのか、そこから出てこようとなしない。こうして二匹の我が家での生活がはじまりました。

お母さんにくっついて眠る娘のコウメを、ナツメは見守ります

 二匹の茶猫は、穏やかで、仲良し。コウメはナツメを慕い、ナツメは野良時代があって、どこかワイルドな母猫です。外に出たがり、外で平気で排便をします。木に登り、小鳥を捕まえ、自慢します。でも絶対に抱かせてくれません。それは二匹とも同じです。

 猫は抱きたいと思いませんか。近所の黒猫に何匹か出遭い、竹久夢二の絵に出てくる黒猫のように、抱きたいな、と夢見始めました。
 
クロタの登場
 
 2017年初夏のある夕べ、義理の甥から電話で、今から猫を連れて行きます、と。段ボール箱に三匹の赤ん坊猫がくっつきあって登場しました。二匹は何とか目を開けていたが、黒猫だけが目やにをためて、ろくに眼も空いていないのです。
 
 生後、何日くらいだろうか。毛色だけで、黑猫がいたので、一匹だけ預かることにしました。なんとも頼りないが、そのうちしっかりするだろうか。キャットタワータワーを買ったり、猫ちぐらを買ったりして、急にわが家に猫グッズが増え始めます。高値だった猫ちぐらは、みんなからそっぽを向かれたままだ。たまに入ることがあると大騒ぎ。

かなり大きくなって、屋上へに螺旋階段のクロタ

 これが、私のマスコットキャラクター、クロタの登場です。雄猫、小さなうちはじゃれてただ可愛く、いつも抱きしめていました。

 無事成長し、雌猫とはどこか違って、少し力強い、雄猫になっていきました。噛み癖のある、嫌われ者になりそうでしたが、ただの甘えん坊です。でも一時は、きみが捨てちゃうぞ、と脅かし、私はクロタを連れて旅に出ようか、などと夢想しました。

 茶猫は、もともと、ナツメとコウメといういい名前を付けてもらっていましたが、黒いからクロタだなどと安易な名前を付けてしまいました。でもそのため、クロタが家出して帰らくなり、クロ、クロ、クロタと呼ぶと、どこかで猫の声、黒猫が出てきました。そんなことが何度かありました。黒猫はクロ、と名づけられることが多いのでしょうか。

 このクロタの家出は、大変なことでした。三日間、二人で手分けして、探し回りましたが、姿を現しません。野良猫に追われて遠くまで逃げたんだろうか。車の走る音を怖がるクロタは、どこに逃げたのでしょう。

 猫探偵にきみが相談すると、玄関に餌を出し、そこに来たら分かるように、ガムテープを垂らしておいてください。

 次の朝、餌が無くなり、ガムテープに黒毛がついていました。猫探偵にきみが相談します。

 近くにいるのです。普通の時間では駄目です。いいですか、午前、四時ごろに探してみて下さい。

 きみが朝早く、近所を探しに出ると、ニャー、と声をあげて出て来たそうです。道路にゴロンと寝て、喜びながら。その場所は、なんと。家の裏のすぐ北の道だったのです。猫探偵X氏に感謝です。

 結構、臆病なクロタ、きっと隣のごみ屋敷になりかけた家の がらくたのなかにでも、こっそり暮らしていたのだろうか。呆気ない大冒険の顛末でした。

 クロタはめでたく抱き猫、甘えん坊に育ちました。思いがけなく、ぴょんと、きみの膝に乗って、自分から抱っこされたい仕草をすると、きみはご満悦です。三匹とも、ただただ可愛い、我が家のアイドルです。

 珍しく、猫たちについて、クロタが登場して間もなく、私が書いた詩を以下に掲げ、終わりにします。ありがとうございました。


春の陽ざしのもと
         
 
春の陽ざしのもと 窓辺の二匹の茶猫を眺めやる
キャットタワーの天辺で 黒猫は外を見ている
 
去年の初夏 目脂を溜めて ろくに啼くこともない
生まれてまもなく 拾われてきた黒猫
 
少し頼りない はじめはどうしたらよいか分からずに
コンビニでミルクを買ってきたが 飲もうとさえしなかった
 
きみが帰ってくると ミルクなんて無理よ
脱脂粉乳を買って来て お湯に解いて飲ませた
 
とにかく、しっかりと愛し育てることに決めた
後ろ脚にわずかにあった虎柄が消え 眼の色は薄緑から金に
 
黒猫は魔女の使い ヨーロッパの迷信の犠牲になった
「猫の水曜日」ベルギーの町イーペルでは時計台から投げ殺された
 
その夏 幾多の災害が大きな傷跡を残して去った
嵐の強風が樹木たちに計り知れない被害を与えた 
 
黒猫には黄色の首輪 真っ黒で艶やかな毛並みになった
黒猫はオス 甘えん坊 元気に走り回り 物は落として毀す
 
茶猫の親子はほんとうに穏やかな猫たちだったと知る
親猫の首輪は赤、子猫の首輪は青

黒猫は日本では魔除け、厄除け、黒招き猫 
『吾輩は猫』の猫はどうだろう
 
漱石が最初に飼った猫は 黒灰色に虎斑があった
漱石三七才 家に迷い込んだ黒猫 妻・鏡子は福猫として愛した
 
雨が降り続くと 外に飛び出したい親猫は不機嫌
一番穏やかな娘猫は 黒猫の存在のせいで しっかりしてきた
 
黒猫はなんと鉤しっぽ 幸運を引っ掛けてくるといい
しっかり育った 暗闇では真っ黒で 金色の眼しか見えない
 
親の茶猫は 黒猫を拒否威嚇 娘は受け入れ遊び 制圧する
三匹は器を並べて食事する 後は思い思いに過ごす
 
茶猫の母娘とクロタは仲良くできるだろうか 
そうして 命の 猫たちの個性のせめぎあい
 
 
   


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