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陰キャが正しい世の中だから

最近「陰キャ」という言葉をとてもよく目にするし、耳にする。

ご存知の通り陰キャとは「陰気なキャラクター」を表すネットスラング。
だけど地味・暗い人を指すというより、最近はコミュニケーション能力が低い不器用な人物を、からかいや自虐を込めて使うことが多い気がする。反対語は「陽キャ(陽気なキャラクター)」。

エヴァならウジウジしてるシンジが陰キャで、明るいマリちゃんあたりは陽キャになるのかなぁ。
あのアニメはみんな闇深だから、なんとも言えないか…。

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このスラング、発祥はもちろんネットだけれど、今や街を歩く中高年でも半数くらいには意味が通じるのではないか。
「非・リア充」しかり、この手のカテゴリにまつわる言葉は市民権を得やすい印象。それだけ不器用を自覚する人が多いのだろう。

かく言う私も、自分自身を陽キャと陰キャどちらかにカテゴライズしなければならないとしたら、1000%陰キャを選ぶ。

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先日、夕飯作りのお供に中村倫也さん主演の「珈琲いかがでしょう」というドラマを観た。

夏帆さん演じる主人公・垣根ちゃんが、中村倫也演じる移動式珈琲店(キッチンカーのカフェ版)のちょっと不思議な店主・青山の淹れる珈琲に癒されるお話。

とにかく珈琲の魅せ方が美しい。
「焙煎したてだから活きがいいんです。」と青山に言わしめした、小高い山の如き珈琲の膨らみ。香ばしい香りが漂ってきそうな垂涎モノのカットであった。

今の時代、適当に美味しいモノはそこら中に溢れているけど、やっぱり自分のために丁寧に淹れられた一杯とは比べ物にならないよね、と。
それは不器用だけど実直な垣根ちゃんの仕事ぶりと同じで「頑張っていれば誰かが見ていてくれる」という社会の哲学にぴたりと重なる。
働く人に温かく寄り添う、癒し系お仕事ドラマ。

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・・・と、ここまでの大筋のストーリーはとても好きだったのだけど。

私がもやもやしてしまったのは、要領の良い後輩・馬場ちゃんの描き方。
ちょっとずるそうな足立梨花さんのキャラクターも相まって、小悪魔感たっぷりで、とても良い。

仕事は早いがちょっぴり雑。だけど、可愛らしさと愛嬌たっぷりな性格で要領良く立ち回り、いつも馬場ちゃんは上司のお気に入り。

頑固で融通の利かない垣根ちゃんが「陰キャ」なら、コミュニケーション能力の高い愛され女子の馬場ちゃんは間違いなく「陽キャ」である。

そんな馬場ちゃん、取引先の人たちとも気軽に飲みに行ったりキャバ嬢顔負けの営業メールを送ったりしているうちに、なんだかんだで垣根ちゃんのお得意様を奪ってしてしまう。

「自分がコツコツ営業をかけて、やっと取引してもらえたお客様なのに・・・」ショックを受ける垣根ちゃん。

「要領良くやりましょうよ!」とかるーく言う馬場ちゃん。

その馬場ちゃんに対して垣根ちゃんは・・・

「馬場さんはいつも靴が汚い。顔だけ綺麗にしてても、全然カッコよくない!」

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えええ!?!?
垣根ちゃんひどくない・・・?

だって馬場ちゃん、何も間違ってないでしょう。

垣根ちゃんは「誠実、丁寧」をモットーに、相手に合わせた内容のお礼状を一字一字心を込めてしたためる。

それは素晴らしいことだけど、限られた就業時間でそんなことが出来るのは、馬場ちゃんのようにテンポ良く仕事を片付けてくれる社員がいるから。
実際に上司が「馬場ちゃんはもう今日の仕事終わってるよ!」と垣根ちゃんに嫌味を言うシーンがある。それでも自分のスタイルを曲げない垣根ちゃん。彼女が浮いているのは不器用だからではなく、協調性がないからではないか…?

努力は誰かが見ていてくれるものだとしても、垣根ちゃんのこだわりが響かない人だっている。何百何千という取引先の中には、手書きのお礼状より1秒でも早い発送がありがたいというクライアントもいるはずだ。
その人たちにも対しては馬場ちゃんのやり方は少しくらい雑だったとしても、確実に刺さるし、ありがたいはず。彼女は自分のやり方でやるべき仕事をきっちりこなしているのだ。

しかも、取引先と飲みに行けるほどの関係性を築けるって!
おじさんだらけの飲み会に行きたくて行ってる若手OL、この世にはどれだけいるのだろう。

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そんなキュートで有能な馬場ちゃん、「要領が良くて可愛い」だけで悪であるかのように演出され、私は終始彼女が不憫であった。

最近は「不器用だけど真面目な陰キャ」が正義だと言う風潮がある気がしてならない。


だけど、馬場ちゃん。
私はあなたが頑張っているの知ってるよ。
おばちゃんはちゃんと見てるからね!!


そんな逆エールを送りたくなった。
どんな形でも頑張る人は美しいよねって話でした。

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