見出し画像

【エッセイチャレンジ⑥】時間薬

「寝かせる」楽しみ

梅酒を5年前から漬け始め、その手軽さと美味しさにすっかり魅力されてしまった。
昨年は安いイチゴを買ってきて、洋酒で漬けてみた。ビビットな赤い実は可憐なベビーピンクとなり、ウイスキーはこっくりと深みを増した。味も最高。オシャンティーな香りにすっかり気を良くして、琥珀色の液体に浮かんだ実をパクッといったら、強烈なアルコールの風味にくらくらしたっけ。

写真のセンスはないけどかなりオシャレでした

漬ける、と似ているが、寝かせるのも好き。
貯金とか投資信託の類のものはいつも何かしらやっている。一方、値上がりを見極めて売買する株や為替はダメ。
得意料理は煮込み料理。苦手なメニューは、常にコンロ前で火加減を見てなきゃいけない揚げ物。

結局、生来のずぼらなのだ。ほったらかして、忘れた頃に勝手に美味しくなっていてほしい。同じ結果でも予期せぬボーナスをもらったようで3割り増しで嬉しい。私にとって時間は最高の調味料。クレイジーソルトよりいい仕事してると思う。

ただ、取り扱い方が雑だったり、寝かせすぎると腐ってしまうことだってある。読み返して恥ずかしくなるあの日の日記とか。…ありゃあもう傷んでるね。

時間薬

時間にまつわる考え方に「時間薬」というものがある。ときぐすり、じかんぐすり、などの読み方をするらしい。同じ意味で「日にち薬」なんて言い方をすることもあるようだが、どちらにしても造語だろう。
深い傷や苦しみを負ったときには時間が薬となり、時が全てを癒してくれるという意味だ。

以前、大切な人を亡くした。
散々悲しんで、泣いて泣いて、自分を責めて、また泣いた。もともと滅多に泣かない人間で、実際にこの件以来、5年涙を流していない。10年分は泣いたのかもしれない。
「わかるよ」とか「早く前を向いて」とか、とにかく何も言われたくなくて、会社を辞めた。SNSを退会し、未開封のメールを溜め続け、リアルな人間関係から距離を置いた。幼稚だが、こうでもしないと知り合い全員を嫌いになりそうだった。自分なりの防衛策であった。

この悲しみからどうやったら抜け出せる?そんな思いから、私は同じような体験をした人の手記を読み漁った。その中で語られていたのが「時間薬」だった。

『悲しければ好きなだけ悲しんでいい。出来ることがなくなったら、あとは時が流れるままに任せよう。』そんな意味の言葉が書かれていたと思う。


感じたのは、寛容と諦め。
前向きでも後ろ向きでもないフラットな「諦め」の教えは、何ひとつ私に求めず、心地よかった。

それでも日は昇る

時間薬はよく効いた。川にゆらゆら漂う葉っぱのように、流れに身を任せ、沈んだりぶつかったりしながらも、行くべきところに辿り着いた。私は自分を取り戻した。
時間は平等だし、優しい。
私は良い意味で諦めることが上手くなり、ちょっぴり生きやすくなった。


さて、今年もお盆がやって来る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?