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【授業・研修のレシピ】 シネメデュケーションで “プロフェッショナル” のイメージ化を図る

専門職は「プロフェッショナル」ともいわれます。しかし,医療系の学生たちは,自分たちが目指す医療専門職が「プロフェッショナル」だということ,さらに「高い倫理観」が求められているということをなかなかイメージできません。

今回,全学部を対象として「医療人に求められるプロフェッショナリズム」について講話をする機会がありました。その目的は「将来,医療に携わるものとして必要な高い倫理観を醸成する」というものです。
しかし,与えられた時間は15分。とはいえ一方的な講話では,彼らにプロフェッショナルのイメージ化を図ったり,高い倫理観を醸成することは難しいでしょう。そこで,今回は「シネメデュケーション」の手法を用いて授業を設計しました。

シネメデュケーション

シネメデュケーションとは,cinema+medical+educationの3つを合わせた造語 で,1994年にアメリカのAlexander博士により提唱されました。
映画やテレビ番組のクリップや CM,演劇などを視聴し,医療専門職としてのあり方を考えるといった手法です。

冒頭で注意を引く

冒頭では,以下のスライドを提示しました。教室内では,小さな笑いがあったりザワザワしたり…。これでつかみはOKです。話を聞いてもらうためには,まず「注意を引く」ことに重点をおくようにします。

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短いクリップで「プロフェッショナル」のイメージ化を図る

導入では「プロフェッショナル 仕事の流儀」で公開されているPR画像を流しました。
出典:プロフェッショナルの流儀 第16期 PR動画 < https://www.youtube.com/watch?v=X-q8QQZqlbI&t=8s>

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ここでは医療に特化せず,いろんな専門職があることを知ってもらいます。そして,経営者は「ただ工場で大量にポテトチップスを生産して売っているわけではない」,整形外科医も専門的知識はさることながら「ただ手術がうまければいいというわけではない」ということをイメージしてもらいます。

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番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」では,医療をテーマとした放送は60本以上にのぼっていました。医療専門職は,社会の中でもとりわけ注目されている仕事であることが印象づけられます。

そして,改めて学生たちへ問いかけます。
「プロフェッショナルとは?」「流儀とは?」「プロフェッショナリズムとは?」

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ここでようやく本題に入ります。
まずは,それぞれの定義を示します。ここでは,臨床能力(専門的知識)が土台にあること,そしてコミュニケーション,倫理的・法的解釈が基盤となり,さまざまな柱でプロフェッショナリズムが支えられていることをイメージ化します。

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なぜ,医療専門職には高い倫理観が求められるのか

医療系の学生は,学位を取得し国家試験に合格した場合,国家資格(免許)が付与されます,一方で,犯罪などを犯した場合には,行政処分が執行されます。麻薬などの薬物中毒は,行政処分になることが安易に想像できるかと思います。一方で,4つめの「医療職としての品位を損するような行為があった場合」にも行政処分を受ける可能性があります。すなわち,倫理的な視点をもっているか,そうでいないのかが大きく関わってくるということをここで強調します。

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アンプロフェッショナルな事例から学ぶ

プロフェッショナルな行動を羅列したからといって,それが実践できるわけではありません。さらに,まだ未熟な学生たちは「アンプロフェッショナルな行動」をしている可能性があります。そこで,アンプロフェッショナルな事例に基づいて,プロフェッショナルな行動について考えてもらいました。

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とくに,ソーシャルメディアの問題は身近でイメージしやすいでしょう。そこで,インターネット上のモラルハザード事例を紹介しました(以下は授業で紹介したものの一部です)。
「患者の摘出臓器を写真撮影してアップロードした」「臨床実習で見学した手術の様子を書き込んだ」「有名人の実名を挙げて書き込んだ」などは臨床実習に関わる問題になります。
さらに,注目したいのは「線路内に立ち入った様子の写真をアップロードした」など,日常生活における不適切行動も取り上げられているという点です。それだけ,医療専門職は,社会から多面的に注目されているということを改めて強調します。

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とくに,臨床実習では,診療チームの一員としての責任が生じます。それゆえ,誠実な行動,知識・技術の向上に対する努力,さらには,指導・指摘を真摯に受け入れる姿勢が必要となります。

ワークシートを活用する

どれだけ話をよく聞いていたとしても,自分自身に置き換えて考えたり,自分の言葉で表現したりできなければ習得できたとはいえません。
ディスカッションや発表をする時間がないときは,主にワークシートを活用します。今回の講話では,シートに書き込みながら進める方法をとりました。

・医療系の学生としてあなたが考えるプロフェッショナルとは?
・アンプロフェッショナルな行動・態度のレベルは(4段階評価)
・プロフェッショナルな行動・態度として改善したいこと,新たに取り組もうと思うこと(3項目以上)

短い時間でしたが,それぞれ自分の言葉で述べることができていました。

医学教育におけるシネメデュケーション

シネメデュケーションを行う理由はいくつかあります。
①注意を引きやすい,②様々な人生を認識する(価値観を広げる),③医療職の人間的な側面に訴える,④価値のある議論をはじめるのに効率がよいなど。
題材は,赤ひげ,レインマンといった医療倫理や家族・友人の死を扱った映画を選ぶことがあります。風に立つライオンも印象的です。先日,FDにお越しいただいた先生は「白い巨塔」を題材にされていました。

今回の授業では,何かを「教えた」というよりも,学生たちの想像力を働かせて「気づく」きっかけづくりになったのではないかと思います。
今後,シネメデュケーションを用いた授業の効果に期待したいです。


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