看護師と患者

ナースのための“教える技術” 研修の改善に役立つ理論(2)

前回のnoteで,「研修コースの要素」と「研修設計のロケットモデル」についてご紹介しました。
https://note.mu/s_mayumi/n/n0cdd99c880e8?creator_urlname=s_mayumi

研修コースには,次の6つの要素があります。
①ニーズ:個人が何らかの技能を習得したいと思うこと,あるいは組織がある個人に何らかの技能を習得させたいと考えていることを示します。ですから,ニーズがなければコースの設計は始まりません。コースを設計するときには,まず,ニーズを把握して分析することが必要になります。
②ゴール:このコースの終着点を示します。このコースを受けたときに,どのような技能が,どれくらいのレベルで習得されているかという指標になります。
③リソース:講義資料やスライド,ビデオ教材,パソコンなど研修生が学習するときに使用する資源になります。
④活動:研修生がコースの中で行うあらゆる活動を示します。たとえば,「講義を聴いてメモをとる」「あるトピックについてグループワークを行う」「ロールプレイを行う」「レポートを書く」「スライドを使ってプレゼンテーションを行う」などです。
⑤フィードバック:グループワークやロールプレイなどにおいて,ほかの参加者から受け取る反応になります。また,提出されたレポートに対して,講師から返されるコメントもフィードバックにあたります。
⑥評価:このコースを受けることによって,習得すべき技能がどれくらい身についたかを測定します。直接的には個人の評価になるのですが,これがそのままコースの有効性を確認する指標にもなります。

ロケットモデルは研修コースをモデル化したものです。

ロケットモデルのエンジンに当たる部分が,研修生のニーズであり,このニーズがコース全体の推進源になります。そして,ロケットの先頭にくるのがゴールです。ゴールに向かって研修コースの中の一つひとつのインストラクションが進んでいきます。胴体部分は,学習者が行う活動です。そして,翼がリソースとフィードバックになります。
ロケットのパーツは,一つひとつ独立しています。その上で,全部が組み合わさり一つのコースを構成しています。したがって,パーツのどこか一ヶ所が欠けただけでも,このロケットはうまく飛ぶことができません。ニーズをあいまいにしたままゴールを設定すると,コースは迷走するし,リソースと講義だけを提供して学習者の活動やフィードバックがなければ,一方通行の研修になってしまいます。

研修の振り返り

では,実際どのようにして実践した研修の振り返りをしていけばよいのでしょうか?

研修生のやる気が弱いと感じたとき
ボーッとどこかを見ていたり,前は向いているけれどなんとなくやる気が弱いと感じたりする研修生がいるような場合は,エンジンであるニーズを点検するとよいでしょう。つまり,エンジンが弱いということは,研修生がその内容の必要性を感じていないということなのです。なぜ,この内容を学ぶことが必要なのか,看護業務にどのように関係があるのかということを明快にすることによって,研修生のやる気を引き上げることができます。

研修に活気がないと感じたとき
居眠りをしていたり,関係のないおしゃべりをしていたりする研修生がいるような場合には,胴体である活動を点検します。講師はつい自分が講義していれば教えていると考えてしまいます。しかし,研修生は自分の手足や頭を働かせなければ,学習したと感じることができません。ですから,活気がない場合には,まず講義の時間を取りすぎていないかどうかを点検することです。もし,講義の時間が長くて,研修生の活動時間が短いのであればそれを逆転させて,研修生の学習活動が研修の中心になるように設計し直すとよいでしょう。

研修をやりっぱなしのように感じたとき
研修は終わったものの,研修生の反応がいま一つ分からず,やりっぱなしのように感じる場合があります。このようなときは,翼であるフィードバックを点検します。例えば,グループワークをしたら,それをまとめて,口頭やロールプレイで発表してもらいます。そして,それについて講師やファシリテーターからコメントをします。このようなフィードバックをすることで,講義の内容が研修生に定着しますし,また,研修に参加してよかったという満足感を与えることにつながります。

このようにロケットモデルを利用して研修の部分ごとに点検します。そして,改善すべき点を見つけ,次の研修に活かしていくとよいでしょう。

活動の改善例

医療安全研修で,新人看護師に対して「よくあるインシデント」について講義をする場面だとします。よくあるインシデントについて知ることは,自らの行動を振り返ると共に,インシデントを未然に防ぐために必要です。しかし,ただインシデントの内容を講義するだけでは退屈になってしまい,居眠りをする研修生も出てくるでしょう。なぜなら,まだ体験したことのないインシデント,つまり失敗について講義をされてもイメージができないからなのです。

ここで大切なのは,講義とワークの割合です。講義の時間はできるだけ短くし,グループワークやロールプレイを行います。
例えば「ヒヤリとした経験を語る」のもよいでしょう。ほかの研修生のヒヤリ体験を聞くことで,お互いのリスク感性を磨くことにもつながります。
さらに,まだ体験したことのないインシデントについてイメージ化を図る必要があります。このような場合は,ロールプレイを行い「失敗体験」をさせると効果的です。例えば「点滴の隔壁開通を忘れた」「移動時に点滴が引っかかり抜けてしまった」「車椅子移動がうまくできなかった」など,新人看護師が失敗しやすい場面を想定します。そして,できるだけリアルに場面を再現し,研修生には新人看護師役,患者役,リーダー看護師役,医師役などを演じてもらいます。このようなロールプレイは,単に失敗を体験するにとどまらず,リーダー看護師や医師への報告・連絡・相談の仕方,さらには失敗された患者の気持ち,新人看護師をサポートをするリーダー看護師の気持ちも考えることにつながります。

「体験学習」については,改めて実践例も併せてご紹介します。


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