大人同士の心がつながらなくなったワケ

先日公園で、4歳になるうちの息子が3歳のいとこの男の子に対して、
「やねよ〜り〜♪」と『鯉のぼり』の歌を歌いながら一歩一歩にじり寄っていった。笑顔で真っ直ぐに、そのいとこの顔を見ながら。

すると、
「た〜か〜い♪」
「か〜い♪」
と、息子に連られたいとこの子も歌い出した。

「こ〜いの〜ぼ〜り〜♪」
「こ〜いの〜ぼ〜り〜♪」

息子がいとこに超にじり寄っていったので、「こ〜いの〜ぼ〜り〜♪」と歌うタイミングの頃には2人の顔はめちゃくちゃ近くなり、2人は我慢できずにウキャキャキャキャと笑い出した。なんだかよく分からんけど、めちゃくちゃ楽しそうだった。

嗚呼、いい…。
すごくいい…。
君たち子どもは天才だ。なんで『鯉のぼり』でそんなに爆笑できるんだ。
なんてナチュラルに心と心がつながっているんだろう。

これが、
大人だとこうはいかない。

ちょっと想像してみて欲しい。
あなたの目の前には40歳になるであろうオッサンがいる。
突然、笑顔で『鯉のぼり』の歌を歌いながら、こっちに一歩、また一歩と近づいて来る。
「やねよ〜り〜♪」
「た〜か〜い♪」
「こ〜いの〜ぼ〜り〜♪」

怖い…。
大人だと、なんか怖い…。
たぶん『鯉のぼり』を一緒に歌うにしても、生唾を飲みながらだ。得体の知れない緊張感と一緒に歌うことになるだろう。
子どものように無邪気に心と心をつなぐわけにはいかない。

と、冗談のように例えを想像してもらったが、多くの人は「そんな人、怖いに決まってるじゃんwww」と笑いながら言うかもしれない。

でも僕はなんせ広告のディレクター、つまり世に言うクリエイターなので、常識を疑うのも仕事の一つだ。

「はて、なんで大人だとこんなに怖いのだろうか？」
「なんで、大人は無邪気に心と心をつなげることができないのだろう？」
と疑問が湧いてきた。

「これはきっと、人をよく知り広告づくりに活かすための重要なテーマに違いない。俺はこの答えを一年かけて研究するぞ」
とか思っていたが、２分で結論が出た。

あ、分かった。
大人には『人生の目的と理由』があるからだ。
だから心と心がつながれないんだ。

結論が飛躍しすぎているように感じた人のために説明させて欲しい。

子どもの時代が過ぎて、段々大人になってくると、僕たちは人生に対して目的（あるいはその指標としての目標）を持つようになる。

お金を稼ぐ
異性にモテる
良い人生とされる人生を送る
素敵な大人と周りから見られる
成功者と言われる

なんだっていいのだが、大人にはそれぞれ目的がある。『ちゃんとした大人に見られる』みたいな些細な目的だってなんだって、大人は心の中に秘めているものだ。

そして『目的』があると、
行動に『理由』が生まれる。
異性にモテたい人が、背筋を伸ばすのは、猫背だと貧相に見られるからだ。
素敵な大人と周りから見られたい人が、わざわざ低い声で話すのは、その方がダンディーに映るからだ。
お金を稼ぎたい人が、スケジュール帳にこだわるのは、より時間対効率を高めたいからだ。

普段意識はしていないが、
大人は必ず何かの『目的』を持っているため、ほぼ全ての行動に『理由』があるものだ。立ち方、座り方、話し方、ジュースの飲み方、仕事の進め方、今あなたがしていること、全てに『理由』がある。

僕たち大人はそれを暗黙の内にお互いに分かりあっている。
あの人の行動も、なんらかの『理由』があるのだ、と。

だから、
「こ〜いの〜ぼ〜り〜♪」
と突然歌い出した40歳のオッサンの、その行動の『理由』が分からないからなんか怖いのだ。まさかその『理由』が、『鯉のぼり』を一緒に歌って爆笑したいから、だとは思いもよらない。

でも子ども達には、
生きる『目的』が無い。だから行動に特に『理由』も無い。
ただ一緒に笑い合いたいだけだ。そして、その相手の気持ちを、すぐに汲み取れる。その柔らかさがある。

僕たち大人は、
人生の目的をたくさん持ってしまったばっかりに、すっかり硬くなってしまったのかもしれない。進んで持った目的ならまだしも、嫌々持たされた目的であれば、その人は間違いなく硬くなる。動機が恐怖だからだ。

酔った時だけ、そんな人生の『目的』も、今動くべき行動の『理由』も忘れるから、大人同士でも仲良くなりやすい。
ふと急に酔いが冷めて、「あれ？なんでこんなに盛り上がってたんだっけ？」と疑問に思った経験は、誰しもあると思う。それは、『目的』も『理由』も忘れて、ただ無邪気に楽しんでいたのに、急に『目的』と『理由』をバッチリ意識してるモード＝シラフに戻ったからだ。

と、ここまで考えて、
「う〜ん、少年には大志を抱いて欲しいけど、やっぱりこんな風に人と仲良くなる心も忘れて欲しくないなぁ」と思ったパパなのであった。

息子よ、
矛盾しているようだけど、
無邪気に『鯉のぼり』を歌えるような人が、異性にもモテるし、仕事もたくさんもらえたりするんだぜ、と君が下手に人生の目的を持ち始めた頃にでも教えてやるよ。
それまで、いっぱい友達と笑っていなさい。