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勝手に10選〜追悼 谷村新司さん アリス編〜

(前記)
先日、谷村新司さんが逝去された。

伴って今回は谷村新司さんを悼んでアリスの勝手に10選をやらせて頂く。

その前に少し昔話をお付き合い願いたい。

筆者がまだ、音楽、ロック、チェッカーズに目覚める前の時代、故郷にて家族が確実に崩壊へと向かいながら、かろうじて家族としての枠を保っていた時代だ。

もはや家族で出掛けようとも、車の中でも家の中でも両親、家族が会話する事は無く、気まずい静寂の代わりにいつも流れていたのが、アリスの曲だった。

母親がアリスの大ファンであった。
父親が蒸発し、やがて離婚し、そんな家族が様々な形でバラバラに崩壊していく中で、筆者と母親の関係性は転げ落ちる様にお互いに不仲となり、不仲を継続したままで母親は亡くなった。

筆者が音楽に目覚め、様々な音楽と触れ合う様になった後も、アリスだけは意識的に避けていた。

アリスと曲に罪はない。

ただ思い出したくなかったのだ。アリスの曲とともに、そんな時代を。

幼少期に怒号が交錯する時間を耳を塞いで耐えていた時代を。
筆者を実の両親の様に育て、可愛がってくれた祖父母が悲しみに暮れる姿を。
悲しみ、憎しみを夜や反抗に置き換えて、ぶつけるしか無かった時代を。
今でも許す事の出来ない時代を。
微かに家族があった時代を。

谷村新司さんの訃報を知り、今一度、ふと、アリスを聴こうと思った。
自身の中のどこかの扉が閉じて、どこかの扉が開くかも知れない。

今回は谷村新司さんのご冥福をお祈りしながら、アリスを勝手に10選する。

しんみりする事無く。

・走っておいで恋人よ
1972年に発表されたアリスのデビューシングルだ。
作詞作曲は谷村新司さんである。

実にアコースティックギターのフィンガリングとハーモニーが心地よい。
打楽器も控えめに、ストリングスも適度に、曲に華をそえる。
優しいストレートな歌詞も実に曲にマッチしている。
実に気持ちの良いラブソングなのだ。

・明日への賛美
1972年に発表されたシングルで作詞作曲は谷村新司さんだ。

哀愁感に溢れるミドルテンポの太いロックだ。
Aメロとサビのメロディラインが独特の迫力を持ち、サビのメロディラインとハモリは特に圧巻である。

昨日までの時代、青春時代に終止符を打ち、愛する人と共に人生を歩む、という前向きで力強い歌詞が実に曲と融合している。

・帰らざる日々
1973年に発表されたシングルで、作曲が堀内孝雄さんで作詞が谷村新司さんである。

要約すると、恋に敗れた女性が最後に相手の女性の声を聞き、自ら命を落とす、という全くを持って暗い歌詞である。

筆者も幼いながらも、暗い歌だなあ、と思って聴いていたのが懐かしい。

しかし、改めて聴くと、実にピアノと弦楽によるダークなAメロからサビに入ると、テンポアップして裏拍のピアノにより、異国情緒も香るスカとも言える曲調に移り、徐々に楽器も増え、テンポも更に上がり続けたまま曲はフェードアウトする。
カッコいいのだ、オケが。実に素晴らしいこのオケに前記の歌詞が乗ると、オシャレな映画を見ている様な作品となるのだ。

・遠くで汽笛を聞きながら
1976年に発表されたシングルで作曲が堀内孝雄さんで作詞が谷村新司さんだ。

実に重厚なミドルテンポのロックだ。雰囲気がイーグルスを彷彿とさせる。
サビの盛り上がり、メロディラインも実に素晴らしい。ピアノ、ギターソロ、ドラムが軸となるオケが実にカッコいい。

自暴自棄になっている主人公が自身と葛藤し生きていこう、歩いていこう、という絶望な中に光を見出そう、という歌詞が見事にマッチして実に気持ちが良い曲だ。

・さらば青春の時
1977年に発表されたシングルで作詞作曲は谷村新司さんだ。

洒落たピアノから始まるミドルテンポのロッカバラードに乗るのは、哀愁を帯びながら実に美しいメロディラインだ。

青春と大人の狭間における葛藤と弱々しい決意を実に見事に歌詞に反映させ、この歌詞にはこの曲しかない、と曲と歌詞を融合させ名曲を生む谷村さんは凄いのだ。

・冬の稲妻
1977年に発表されたシングルで作曲は堀内孝雄さんで作詞が谷村新司さんだ。

アリスの楽曲の中では明るく、ストロークが実に気持ち良いアップテンポの曲だ。
間奏のスライドギターも生かしているが、力強いハーモニーがこの曲の最大の魅力なのだ。
歌詞は、振られた女性が相手を逆恨みする、と言ってしまえばそれまでだが、谷村さんのセンス漲る言い回しで、凄く素敵な物語を聴いている様だ。

筆者が幼少期に姉と一緒に”ヨーロリン、サンダー、ハー”と意味も解らず真似をしていた事が懐かしい。

・涙の誓い
1978年に発表されたシングルで作詞作曲は谷村新司さんだ。

このオケは実にカッコいい。アリスっぽいイントロから、カントリー、ブルースも香る疾走感を伴うAメロ(サビの方が適切か)を経ての、哀愁の漂うサビ(Aメロの方が適切か)の繰り返しで曲は進行する。この緩急が実にたまらないのだ。

恋に敗れた女性が、開き直って、あなたを想って生きていくわ、手首の傷も消えないし、しょーが無いから、という決意表明であろうか。

もはや、歌詞と曲の融合はアートの世界だ。
サジェストし、あとは聴き手の判断というか、サジェストした後は聴き手の自由なのだ。

・ジョニーの子守唄
1978年に発表されたシングルで作曲が堀内孝雄さんで作詞が谷村新司さんだ。

アリスの楽曲の中で、実に豪華なアレンジでキャッチーな曲と明るさがみなぎる楽曲の代表的な曲の一つだ。

歌詞であるが、概ねジョニーと自身を対比して進行しているが、”君”と”ジョニー”と主人公の関係性がファジーなのだ。

主人公とジョニーが昔のバンド仲間だったのは間違いないろう。
しかし、ストレートな歌詞だが、じっくり拝聴するとモヤっとしたパラドックスに気が付く。

ジョニーは誰?君とは誰?ジョニーと君は誰?

…ここからは、興味のある方々は聞いてみて頂きたい。
歌詞とは、受け取る側の解釈次第なのだ。

君はジョニーか?

・チャンピオン
1978年に発表されたシングルで作詞作曲は谷村新司さんだ。

アリスの代表作はこの曲と"冬の稲妻"では無かろうか。

アリスによってアコースティックロックの真髄を示した大名曲であり、この先も歌い継がれるのだ。

年老いたボクサーの物語とアコースティックギターのストロークによる図太いロックが見事に融合した実にストレートで心に突き刺さる作品だ。

1人の老いたボクサーと、男としての生き様を対比させる事が、人々の胸を揺さぶるのだ。

・美しき絆〜Hand in Hand〜
1979年にシングルとして発表された曲で作詞作曲は谷村新司さんだ。

筆者はこの曲でアリスを締めくくりたかった。

時の流れは残酷で、全ては崩壊に向かって進む。
だからこそ、今を大切に手と手を取り合って生きて行こう、といささか冷酷な現実を、手と手を取り合い先を歩もうじゃないか、我々は1人じゃないのだから、というメッセージが実に心に突き刺さりながら、明日への糧になる名曲なのだ。

曲もメロディラインも、何も言う事は無いし、この素晴らしい名曲に身を委ねるだけで、まあ明日からも頑張ってみるか、と思わせて頂けるだけなのだ。

(後記)
しっかりと覚えていて驚いた。
もう、30年以上聴いてないのに。
時にはハミングしていた位だ。

実感した事は、アリスは実にイカしたアコースティックロックバンドなのだ。

谷村新司さんの素晴らしい、谷村新司さんにしか書けない歌詞と楽曲の持つメロディライン、雰囲気が見事に融合して人の心を揺さぶり、時に心に寄り添い、人を様々な観点から勇気づけているのだ。

前記にも書いたが、アリスを聴くのが少し怖かった。

しかし、しかとアリスの楽曲と向き合うと、たまに色褪せたポートレートの様に幼少時代の微かな思い出が頭の中をサッと、かすることはあっても、辛かった時代に顔をしかめる事は無かった。
アリスの楽曲の素晴らしさが優っていた様だ。

今回を機に、アリスを継続して聴くか、深掘りするかは、今はまだ解らない。

ただ、この投稿によって谷村新司さんというアーティストの素晴らしさを表現する事により、谷村新司さんに改めて追悼の念を捧げる。

あと、不仲で終わった、アリスが大好きだった母親への少しでもレクイエムにもなってくれれば。

読んでくださった方々へ
ありがとうございました。




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