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これも地方分権? 〜全数把握or定点把握

政府が新型コロナウイルス感染者の情報を特定する『全数把握』を見直し、高齢者や重症化リスクが高い人に限定する仕組みを9月半ばにも実施する方向で調整に入ったとのこと。全数把握の見直しは、医療機関や保健所の負担を減らそうとする全国知事会からの強い要請に応えたものですが、「全数把握を続けるか否か?」その判断を都道府県に委ねるとなると、知事の反応はさまざまなようです。

その様子を見ていて、現在ではほとんど聞かれなくなった『地方分権』のことを思い出しました。「地方のことは地方で決める」を合い言葉に、2000年4月に施行されたの『地方分権一括法』を契機に、市町村合併とともに、国から都道府県、都道府県から市町村へと権限・税財源の移譲が強力に進められました。ただ、その背景には財政の健全化を含めた行政改革の色合いも強く、地方も積極的に求めてきたはずの地方分権が最終的には強い不満が残る結果となったことは、熊本市長として渦中にいて実感したものです。

全数把握の見直しを地方分権の一環と位置付けるのは、明らかに無理があります。今後しばらくは新型コロナウイルス感染症との闘いが見込まれる中、都道府県の対応が割れることで、対策の重要な役割を果たすデータの信頼性が低下するようなことがあれば、ウィズコロナ社会の構築が遠のくことにもなりかねません。新型コロナウイルス感染症の初期段階では、重症化の定義について国と東京都の間に齟齬があり、報道では「国の基準で行けば重症者数は〇〇人です」と、あえて二つの数字を報告するような状況がしばらく続きました。地方のことは地方で決めるは大いに結構。ただしものによるということなのでしょう。

発生届をもとにした全数把握では、感染者の地域ごとの詳細な数だけでなく、患者の現在の症状や基礎疾患の有無なども記録され、保健所による健康観察や、入院の必要性の判断などにも活用されています。それを定点把握に切り替えた場合、負担は軽減されるものの、重症化リスクのある患者の拾い上げといった、適切な治療につなげるための情報を把握することが難しくなることも考えられます。

また、これまで全数把握で得られた詳細なデータにもとづいて、数理モデルなどを活用した流行状況の予測や、過去の感染状況と比較した流行規模の分析などが行われてきましたが、データの量や質が変わることで、一時的に分析が困難になる可能性も指摘されています。現場の状況をできるだけ正確に把握し、決して雰囲気に流されない、冷静な判断が求められています。


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