12 杉本通信~関口雪翁「風竹雪竹図」~
こんにちは
この前、美容院で美容師さんに大学での専攻と卒業論文のテーマについて聞かれたので、「日本美術史です。水墨画をやるんです。」と答えたところ、「難しそう。お年寄りが好きそうな内容ですね~。」と言われました。確かにそういうイメージがありますが、私としては「こんなに面白い分野なのになんで若い人は興味を持たないんだろう」と思ってなんだか悔しいです。
関口雪翁「風竹雪竹図」
こんなに泥臭い世界ではあるが、我々が扱う作品だけは実は非常に正直なのである。
本当に良い作品と向き合ったときには心が洗われ、何物にも代えがたい救いがある。
この三幅対(関口雪翁「風竹雪竹図」)にしてもそうだ。
特に中幅の、雪翁自ら詠じた詩がいい。
愛此淇園色 愛す この淇園の色
猗々自化叢 猗々として自ら叢に化す
緑陰傾対飲 緑陰 傾けて対飲すれば
瀟灑送清風 瀟灑 清風を送る
意訳すれば、こんな感じか。
本当に心地良いものだ。この青々とした色…美しく旺盛に生い茂っている竹林のさまは。
そのもとで一献酌み交わせば、清々しい風が吹き来たり、我々の心を洗い清めてくれる。
詩といってもやはり主題は竹なのである。竹づくしという徹底ぶりがよい。狩野派の絵画のように、形だけ取り合わせた三幅対とは背後にある精神がまったく違う。
まさに「徳」に価値を置いた江戸時代の本筋の精神が伺える作品である。
(「杉本通信」(12)10月1日号より)
関口雪翁「風竹雪竹図」
今回はこちらの作品を紹介したいと思います。
五言絶句の書と二通りの竹を描いた三幅対の作品です。作者の関口雪翁は越後(現在の新潟県あたり)出身の人物です。杉本の解説にもある通り、竹尽くしの作品です。雪翁は徹底して墨竹画のみを描いた画家でもあります。
この作品を取り上げた理由は、杉本が過去に「杉本通信」で取り上げていたから、そして単に私のお気に入りの作品だから(笑)です。
雪翁の描く竹は、モノクロで描かれながらも青々とした本物の竹の姿をとてもよく写していると感じます。
気に入っているポイントはいくつかあるのですが、一番は葉の描き方です。
皆さまは竹を間近で見たことがあるでしょうか?
竹の葉は私たちが思うより鋭く、触ると手を切ることもあるそうです。
雪翁の描く竹の葉はそうした鋭さをよく表しています。
そして竹の幹や枝のしなやかな形態感。
向かって右の風竹図は左から右へと吹く風を受けてしなやかに幹を傾ける竹を描き、左の雪竹図は雪の重みにうなだれる竹を自然な描き方で写しています。
竹は力を加えても折れることなくしなやかに曲がり、寒中にも色褪せることなくその青々とした色味を保ち続けます。東洋文化圏においては、そうした様子を「清廉潔白」の象徴として尊び、同じく常緑の松・寒中に花を咲かせる梅と竹とを合わせて「歳寒三友」と呼びます。
作者の関口雪翁が描くのは必ず竹。
一体何が彼にそうさせたのか非常に気になるところです。
ありがとうございました
本当に素晴らしい水墨画をみると、実際にはモノクロの静止画なのに、作品に描かれるものが、色鮮やかに躍動的に、そこに見えてくる気がしてきます。
筆遣いや墨の濃淡だけでものの姿を表す水墨画は、地味に見えても、ものすごく複雑で奥が深いです。
もっと多くの若い人たちが水墨画のみならず、東洋の古美術に興味を持ってくれたらいいのになと思います。
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