令和4年予備試験論文式試験刑事実務基礎科目答案
設問1(1)
1、証拠①のVの供述及び証拠②のロープ、証拠③の診断書からして、本件被告事件が発生したことは認められる。
2、証拠④より、V方付近50メートルの防犯カメラに、車両番号『あ8910』の黒色ワンボックスカーが止まり、そこから男が降りて南方に歩くところと、その10分後くらいに、同じ男が走って来るところが記録されていた。その防犯カメラの撮影時間が本件被告事件の犯行開始時刻である3月9日午後1時頃の直前である午後0時56分であること、その男は茶色の作業服上下と帽子を着用していたが、これは証拠①のVの供述と一致すること、男が車に戻ってきたのが犯行終了時刻たる午後1時10分頃たる午後1時11分であることから、証拠④の男は犯人であると強く推認される。
また、証拠⑤より、Bが本件被告事件の犯行に関与している事もまた強く推認できる。そしてこれらの情報と証拠⑨を合わせると、Bが犯人であると強く推認できる。
3、証拠⑥~⑧より、Bは乙と同一人物であり、本件被告事件犯行直後甲と行動していたことが強く推認できる。そして甲が犯行直後の黒色ワンボックスカーの運転席から出てきた事、同人がUコンビニエンスストアT店のATMを利用していること、その時間がVのキャッシュカードが挿入されて出金の操作がなされた時間と一致することから、甲が乙ことBとの共犯者であると考えられる。
4、証拠⑪より、BはAと頻繁に事件前にやり取りしていたこと、証拠⑫より、A方からVのキャッシュカードが発見されたこと、及びサバイバルナイフが発見され、それがA父の特注品であること(証拠⑬)、そのサバイバルナイフからはBの指紋が検出されていること(証拠⑭)を考えると、Aは本件被告事件と強く関連していると強く推認できる。無関係な人間が被害者のキャッシュカードや犯行に使われたと考えて矛盾しないナイフを所持しているとは考えられないからである。また、証拠⑯より、AはY社Z社に借金していたが、本件犯行の後に計300万円が返済されている事が分かるが、これもAが犯行で手に入れた300万円を使って弁済したものと考えて矛盾しない。
5、これらの推認は、証拠⑩のBの供述と一致しており、それゆえ検察官はAが犯行に関与したとする供述に信用性がある旨考えたといえる。
設問1(2)
1、上述の認め得る事実からすれば、Aは甲と同一人物と考えるのが自然で、AがVのキャッシュカードを使ってお金を引き出そうとしたと推認できる。
また、上述のように証拠⑩のBの供述が信用できるとすると、本件犯行を計画したのはAであるし、ABでの取り分もAが300万円でBが200万円と、Aの方が多かったということになる。
2、このような事情を踏まえると、Aは実行犯Bの単なる従属的な立場にあったものとはいえず、自らも主体的に犯行に関与していたといえ、Aに共謀共同正犯が成立すると検察官は考えたといえる。
設問2
1、公判前整理手続の制度趣旨は、「充実した公判の審理を継続的計画的かつ迅速に行う」という点にある(刑事訴訟法316条の2第1項、316条の3第1項)。したがって当事者としては争点等を明確にすべき要請があるといえる。
本件では弁護人がAとBの共謀を否認し、Aは無罪である旨主張していることから、AB共謀の有無が争点となると考えられる。
2、以上より、裁判所はAB間の共謀の立証についての証明予定事実記載書の追加提出を検察官に求めたと考えられる。
設問3
1、本件では、上述の通りAB間の共謀の有無が争点となると考えられ、実際Bの証人尋問が行われている。接見等禁止(刑事訴訟法81条本文)の趣旨は、被告人が弁護人等以外の者との接見を通じて証拠の隠滅等をする危険を防止するためのものであるところ、本件ではBの証人尋問前まではAが接見等を用いて第三者を介したりしてBの証言に影響を与えるリスクがあった。
このようなリスクが㋒の段階では存在したが、Bの証人尋問が終了した㋓の段階では弱いものとなっている。
2、したがって検察官は本問のような異なる対応を採ったと考えられる。
設問4(1)
1、「やむを得ない事由」とは、公判前整理手続の段階とは事情が変更する等して、当時証拠請求することが望めなかったような理由がある場合をいう。
本件で公判前整理手続段階では、弁護人はBが証拠⑩と同じ内容の供述をすると考えていたはずであるが、実際の証人尋問ではそうなっていない。すなわち公判前と公判とでBは内容の異なった矛盾する供述をしていることとなり、AB間の共謀の有無を争う弁護人としては、Bの供述の矛盾をついて同人の供述の信用性を否定する意図があったものと考えられる。
したがって本件では上述のような事情変更があり、「やむを得ない事由」がある。
2、なお、証拠能力については、証拠⑩はBの自己矛盾供述であるから、刑事訴訟法328条により認められる。
設問4(2)
1、上述の通り証拠⑩は弾劾証拠として用いられており、伝聞証拠としての同意(同法326条1項)の対象とならないからである。
以上