山彦[インスタントフィクションその25]

不思議な穴がある。大通りの道から誰もが素通りするような脇道に逸れて少し進んだひらけた場所に、液体が並々に注がれた穴があるのだ。液体に色がついている様子はないが不思議と中を見通すことはできない。なぜ僕がこの穴を見つけたのか、なぜ脇道に逸れようと思ったのか、それすらもわからないのになぜかやるべきことはわかっている気がする。それを実行するとしよう。
「じゃんけんぽん!」
驚いた。突然穴から手が出てきたと思ったら数字の2を表していたのだ。私は0を示していたのを察したのか、もう一つの手が現れて粗品を差し出してくる。いったいこれはなんなのか。不思議とわかることは、今もう一度声をかけても同じことはできないであろうこと。そこでふと思い出したことがある。
「大通りでよく遊んでた子供、最近見ないな」
負けたらどうなっていただろう。あいこならどうだろうか。そういえば出てきた手はいまだに成長しきれていないような小さな手だった。まるでそれは子供のものであるかのような。

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