矛盾[インスタントフィクションその20]

感情に抗うのは簡単で、理性的であることは容易であると、そう私は信じていた。一度立ち止まって考えてみれば必ず理性的になれると信じて疑わなかった。でもある日気づいてしまった。統計学で有名な先生が憤慨しているのであるが、全く統計学を用いての分析ができていないのである。これほど優れた能力を持っている人物ですら自身の武器を使いこなせないとは如何なことか。彼は怒っていた。悲しんでいた。そうして彼は必死で叫んでいた。自身の得意とする統計学すら使うこともせずに。彼はいま感情に支配されているのだろう。そんな彼ですら理性を取り戻すことは困難なのだろう。感情が強く現れることによって本来でき得る適切な判断ができない状況におちってしまっている人を見ると、わたしはどうしても理性的になるのは容易であるとはいえなくなってしまった。感情とは斯くも恐ろしいものであるのだと心に刻んで。

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