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その建物は、人けのない青山の裏通りにあった。 細い路地から見上げるそこは、地図の住所…
耳鳴りのするような静かさが沈殿する暗闇の中で目を醒ました。 枕元に置きっぱなしにして…
十年近く経った今でも、Мさんのことを時々思い出して考える。 元気にしているんだろうか…
少女のイメージがある。 制服の重たげな紺色のスカートの裾を、はためかせる白い脹脛。 …
◇ 真っ白い夏の光の差し込む、白く塗られた寒々しい部屋で、私の弟は白く乾いた脆い骨にな…
雨の音が世界を埋める。 電灯を点けなくても、かろうじて室内は見渡せる。 薄暗さが夜の予感を…
◇ 日光が怖い、と思い始めたのは、いつ頃のことだっただろう。 日焼け止めを厳重に塗らなくてはいけない。もし塗り残したり汗で流れたりしたら、その部分だけ醜く黒ずんで、嘲笑の対象になる。 「あの先生、顔と首の色が違うよね」 そう言って笑う同級生の声が耳の中で響く。 「顔ばっかり白く塗ったって、腕とか黒いじゃん」 「無理しなくてもいいのにね」 今考えると、あの教師は実際よりも白く見せたいがために明るい色のファンデーションを顔だけに塗っていたのだろう。ただそれだけのこ
その病室では、静寂の中にいつもどこからか細く水の流れる音が聞こえておりました。窓から月…
◇ 薄暗い部屋の奥、控えめに灯されたライトの下で、白いフリルのブラウスの肩に切り揃えら…
◇ 午前三時を回ると、弛緩した空気がファミレスの店内を重くさせ始める。 木曜日の午前…
◇ テーブルを挟み、頬杖をついている男は目を伏せたまま話し始めた。私は彼の云う言葉を聞…