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韓国 「大きな失政なし」も与党大敗?

韓国総選挙は投票まで1週間を切り、4月5日からは期日前投票が始まります。これから投票が終わるまで世論調査の発表が禁じられるため、直前の有権者たちの考え(韓国でいう「民心」)は把握しにくくなります。

ただ、これまでの各種世論調査をみる限り、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を支える保守系与党「国民の力」は劣勢を強いられています。

一方、個人的にはソウルに入る前からずっと解けない疑問がありました。尹政権の支持率が、ほぼずっと30%台という低空飛行を続けているのは、なぜなのか?

総選挙で与党が苦戦しているのも、尹政権の評判が悪いことが最大の理由なのですが、その尹政権に大きな失政があったのかというと、ないのです
選挙戦の現場を見て回りながら、「民心」の謎を解こうとしています。

政策の問題ではなく…

「検察独裁だ!」と声を荒げる進歩系野党の熱心な支持者たちは別として、尹錫悦政権に大きな失政はないというのは、私が話を聴いて回っている多くの韓国人も同意します。
そして、「確かに、なぜ尹政権が不人気なのかを外国の人に説明するのは難しいですね」と苦笑する人も。

当の韓国人でもうまく説明できない…

何人かはしばし考え込んだのち、「政策がどうこうというより、彼(大統領)のスタイルというか、態度というか、物言いというか… 何を考えているのか分からないことが多すぎるんですよ」とのこと。

ソウル在住の30代男性が例にあげたのが、いまだに続く医者たちの職場放棄

「自分も初めは医学部の定員増加に反対する医療界に『なんて自己中心的な』と腹が立ちましたよ。でも、1か月以上も各地の病院で手術が延期され続ける事態になって、むしろ政府が根回しもなく一方的に医学部拡大を打ち出したことの方が問題だと考えるようになりました」

とりわけ失望したのは、この問題で尹大統領が4月1日に発表した談話であったという。

尹大統領は、医療界が「より妥当な(医者不足対策の)案を持ってくれば、いくらでも議論は可能」とは述べたものの、全体としては「医学部増員の政府方針は国民のため」と自身の正当性を強調しました。
上記の記事が「大統領は必要性を改めて強調」というタイトルになっているのも間違ってはいません。

ところが、談話発表のあと、大統領室の高官が韓国メディアの記者たちに「いやいやいや、強硬姿勢ということではない。大統領としては医療界と話し合う意思を初めて明らかにしたもの」と補足説明をしたのです。それを受けて、各メディアは「大統領が医療界と対話へ」と軌道修正しました。

「それなら大統領がストレートにそう言えば済む話じゃないですか。記者も国民も、誰もあの談話の内容では『対話に舵を切った』とは受け止めなかったのですよ。一事が万事、尹大統領はそうなんです。自分が正しいと思ったら突き進むだけで、国民にちゃんと説明をしない」と先の男性。

国民とのコミュニケーションが、とにかく下手だというのです。

政治と法曹の違い

そうしたコミュニケーション不全の原因は、検事一筋で政治経験ゼロのまま大統領になった尹錫悦氏の限界だとみる向きが強いです。
2017年の大統領選挙における保守陣営の大統領候補で現在は大邱(テグ)市長洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏は、SNSで、今回の総選挙では「政治的な視点と法曹的な視点の違い」が尹政権と与党への逆風につながっているとして、こう主張しました。

法曹界では証拠をもとに有罪か無罪を争うだけだが、政界では有罪無罪を超えて国民感情が優先される

洪準杓氏のSNS(3月21日)より

実は洪準杓氏もかつては検事でした。

同じ検事出身者からみて、尹大統領はまるで法廷で有罪を立証するかのように政策の必要性を述べるだけで、国民感情に訴える姿勢が欠けているというわけです。
対照的に、様々な罪で起訴されても曺国(チョ・グク)氏や最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が人気を集めるのは、ひとえに国民感情の問題なのだ、と。

徴用工訴訟でくすぶるマグマ

尹大統領による国民とのコミュニケーションが不足しているのは、日韓関係にとっても「地雷」です。

こちらの写真↓は、曺国(チョ・グク)氏の支持者がリュックにつけていたメッセージ。

筆者撮影

4月10日の投票を呼びかけたうえで、「今回の総選挙は本当の韓日戦」「親日売国政権を『大破』しよう」と書かれています。
なかなか激しい言葉ですが、徴用工訴訟問題の解決策についても多くの国民にその意義が伝わっていないことを端的に示すものです。

なお、なぜ「大破」が長ネギの絵なのかというと、最近、物価高への対応として尹大統領がスーパーを視察した際、長ネギが一束875ウォン(日本円で約98円)なら悪くないのではないか」と述べたことに由来します。

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