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「闇をあばいてください」

鹿児島県警察本部が異様な事態です。
ニュースで騒ぎになっているのをご存じの方が多いとは思いますが、ここでは話を整理して、これが日本の報道の自由にどのような影響を与えるのか考えてみたいと思います。


連動する3つの問題

現時点では3つの大きな問題が問われていて、それらは連動しています。

まずは「不祥事隠蔽と公益通報の弾圧」。

いま主に焦点があたっているのが、鹿児島県警のトップによる不祥事隠蔽の疑いです。県警の前生活安全部長・本田尚志さんが、退職後、警察官による盗撮事件についての情報を含んだ内部文書を札幌のライターに送り、国家公務員法違反の疑いで5月31日に逮捕されたのです。

文書を入れた封筒に差出人の名はなく、開封してみたら最初の一枚には太字でこう書かれていました。

闇をあばいてください。

本田さんが明るみに出してほしいと願った闇は、盗撮事件の捜査を県警の野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことでした。裁判手続きの中で、本田さんはこう訴えています。

県警職員が行った犯罪行為を野川本部長が隠蔽しようとしたことがあり、一警察官としてどうしても許せなかった。
早期に着手し、事案の解明をしようと本部長に指揮伺いをしたが、“最後のチャンスをやろう”“泳がせよう”と言って印鑑を押さなかった。県民の安全より自己保身を図る組織に絶望した。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/kagoshima/20240605/5050027003.html

野川本部長が「最後のチャンスをやろう」≒「盗撮を見逃そう」という方針を示したのは、ここ5年ほど、鹿児島県警では同じような不祥事が多発していたので、「もうこれ以上は勘弁して」と本部長が音を上げたのではないかと本田さんは考えています。

本田さんの弁護士は、内部文書をライターに送ったのは公益通報であり、逮捕は不当だと主張しています。いわく、「本田さんは私利私欲のためではなく、公益のために愛していた組織をよくしたいという思いでやった」と。
その通りでしょう。

しかし、警察は本田さんを「裏切り者」としかみていません。公益通報という概念すら、理解していないようです。

実際、警察官(枕崎署に所属)による盗撮が行われたのは去年12月で、県警はほどなく事案を知りましたが、逮捕されたのは今年5月13日。その間に、県警は本田さんからの通報がなされたことを知りました。
つまり、本田さんの通報を知った県警が、もうこれ以上は盗撮警察官に「チャンスをやる」ことが難しくなったと判断して逮捕に踏み切った、裏返せば通報がなければ今でも逮捕をしていなかった可能性があるのです。

メディアに対する捜索

次の問題は、県警がニュースサイト「ハンター」を運営する福岡市の男性の自宅を捜索(いわゆる「ガサ入れ」)するという、報道の自由を平気で踏みにじる行為をしたことです。

時系列でいうと、本田さんの逮捕から遡ります。

別の情報漏洩事件を捜査していた県警は、情報が「ハンター」の記事に載っていることに気づき、4月8日、「ガサ入れ」を実施。
規模の大小に関係なく、捜査機関がメディアに対する強制捜査を行うというのは、現代の日本では聞いたことがありません。まるで中国かロシアのようです。また、残念ながら尹錫悦政権下の韓国でも放送局の本社に検察が踏み込むという展開もみられています。

しかも、捜索の際、県警は「ハンター」運営者の男性が仕事で使用していたパソコンや携帯電話を押収し、データを削除することまでしていました。

メディア論が専門の立教大学・砂川浩慶教授は、こう指摘しています。

戦前回帰と言われても仕方がない

https://www.nikkansports.com/general/news/202406150001144.html

以前、「報道の自由度ランキング」で日本の順位が低迷していることをお伝えしました。

今回の鹿児島県警の「戦前回帰」によって、来年のランキングで日本の順位は大幅に下がって過去最低を更新するかもしれません。

話を戻すと、この別の情報漏洩事件で「ハンター」のPCなどを調べたところ、ちょうど直前に札幌のライターから本田さんの通報文書が「ハンター」に送られてきていたのです。そこで初めて県警は本田さんの行為を把握しました。
ライターは、以前、「ハンター」に何度か寄稿したことがあったので、情報を共有したということです。

こうした偶然の結果、盗撮警察官逮捕→本田さん逮捕、という流れになりました。

「再審でプラスにならない」から書類の廃棄

そして、3つ目の問題。
これも「ハンター」に寄せられていたものなのですが、鹿児島県警が捜査書類を積極的に廃棄するよう促す文書を内部で回していたことが発覚したのです。
それが、こちら。

オリジナルは「ハンター」掲載

愛嬌のある警察官のアイコンとは裏腹に、書かれている内容はグロテスクです。「再審や国賠(国家賠償)請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません‼」って…
これぞ戦前回帰というか、ドラマ「アンチヒーロー」を地でゆくような話です。

鹿児島県の再審請求事件「大崎事件」の弁護士らは、当然ながら県警のこうした書類廃棄による捜査の全体像隠しを厳しく批判しています。

「アンチヒーロー」の最終回は楽しみですが、鹿児島県警の醜悪さは何一つとして楽しくありません。

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