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2023年1-3月期 経済・相場まとめ

こんにちは、池田伸太郎です。早いもので2023年も4月に入りましたね。この記事では2023年1月~3月までの第一四半期における主な経済イベント・相場動向を振り返っていきます。個人的にこの四半期を一言で表現するなら「市場の楽観さが下支えした相場」だと思っていますけれども、下記では私のツイートで用いた図表などを活用しながら、各月のイベントを振り返ります。

好調な1月、下落に転じた2月、金融不安渦巻く3月

1月:中国の経済活動再開に沸く金融市場

堅調な株式市場

2022年は米国をはじめとして株価が大きく調整しましたが、2023年に入ってからは上昇相場となりました。年始に中国がコロナ規制を緩和したことが主な要因です。

2022年の中国国内を映した報道を見る限りでは、住民を住居に閉じ込めるなどの都市封鎖がかなり強権的に行われていました。また、中国の工場が停止する事例も多く、中国に工場を持つ企業あるいは生産を委託している企業は生産量の下押し圧力に悩まされていたのです。その規制が突如として緩和されたことで、生産回復や旅客数の回復が期待されるようになりました。春節の海外旅行者数(中国から海外へ旅行する人)が昨年比2倍になるとの報道もありましたね。一部ではCOVID-19の再拡散が懸念されていましたが、金融市場では減速が予想されていた世界経済を中国が下支えしてくれるのではないかとの期待が先行。その結果、1月中はほぼ一貫して株価が上昇し、S&P500は4100台を回復、日経平均株価も28000円に向かう力強さを見せました。
先進諸国の中で特に注目を集めたのは欧州株です。昨年から欧州経済はリセッション間近と言われていましたが、予想ほど悪化しなかった経済指標(GDPなど)を好感し、米国株よりも上昇基調が強まりました。一時は史上最高値圏を形成するほどです。英国やEUのコア・インフレ率は下がっておらず、利上げが今後も継続されると目される中でここまで株価が回復したのは、一にも二にも市場の楽観さが後押しした結果だと言えるでしょう。

賃上げ気運高まる日本

この頃、日本では賃上げ報道が徐々に増えてきました。ユニクロを運営するファーストリテイリングが初任給を30万円に引き上げるとの姿勢を示し、Twitterのトレンドに入るなど賃上げの気運が高まる出来事だったと言えるでしょう。
その後は報道にあるとおり、大企業を中心に満額回答が続出し、企業によっては数十年ぶりの賃上げに合意するなど歴史的な年になりました。ただし、その背景には、これまた歴史的なインフレが発生していることを忘れてはいけませんね。名目賃金よりもインフレ率を加味した実質賃金が上がっているかどうかがより重要でしょう。また、日本経済の底上げという視点からは、中小零細企業への波及度合いについても引き続き注視していかなければなりません。

2月:米国の根強いインフレに警戒広まる

インフレ再燃に揺れる米国

1月の上昇基調が崩れたきっかけは2月3日夜に発表された米国の雇用統計です。結果は予想をはるかに超える強さでした。非農業部門雇用者数変化は19万人(その前の12月は22.3万人)との予想が、蓋を開けると51.7万人(その後に修正されて50.4万人)。通常、強い雇用統計は米国経済の強さを示すため良いニュースではあるのですが、インフレに苦しむ現在の米国にとって強い経済はむしろ悪いニュースです。インフレを抑えるためには経済を減速させる必要がありますからね。もっとも良好な経済状況を維持したままインフレが減退するという楽観ケースも想定されるところですが、51.7万人はあまりにも強すぎるだろうということで、いわゆる「Good news is bad news」と受け止められ株価は大幅下落。更にその後の消費者物価指数CPIも予想外の伸び率加速となり、インフレが長期化するとの懸念が一気に広がりました。CPIについては算出過程の数値が修正された影響(重み係数の定期調整)で強めの結果になったとの指摘もありますが、やはり数字として伸び率が加速している事実が金融市場に与えた影響は大きかったです。

雇用統計に先立ち1月31日~2月1日に行われたFOMCでは0.25%の利上げにとどめ、ディスインフレ(インフレの減速)が見られるとの見解を示したパウエルFRB議長でしたが、雇用統計発表後には「インフレとの闘いは長引きそうだ」と金融引き締めを続ける姿勢を示しました。これにより金融市場は3月FOMCでの0.5%利上げを急速に織り込み始めたのは印象的でした。この市場の見立ては3月に発生した金融不安直前まで維持され、この間、米国の株価は徐々に下落していきます。

初の学者出身、日銀総裁人事

一方、日本では米国のインフレ長期化懸念を横目にみながらも、市場の注目は「日銀の新総裁人事」に移りました。もともと早ければ1月下旬頃から新総裁に関する情報がリークされるのではないかとの噂が立っていましたが、実際に名前が出たのは2月10日のことです。
直前には最有力候補だった雨宮氏(当時・日銀副総裁)に政府が打診、そして断られたとの報道があったり、更にその前にはもう一人の最有力候補だった中曽氏(大和総研理事長)が別の国際的な役職に就いたことで候補から外れたのでは?などの報道がされていました。新総裁は一体誰になるのか?と思われていた矢先、日経新聞が「植田和男氏」と報じたことで、SNSなどでは植田和男氏に関する情報収集が盛んになったのを覚えている読者の方々も多いでしょう。

報道直後に取材を受けた植田氏が金融緩和継続の意向を端的に示したことで、米国株の下落に引きずられず日本株は底堅く推移。その後、植田氏は衆院や参院の所信聴取でも同様に金融緩和継続の意向を示したほか、受け答え自体も非常に落ち着きがあり、洗練されていたことから金融市場からの植田氏への不安感は特に感じられなかったように思います。初の学者出身となる植田氏は4月9日に日銀総裁に就任する予定です。第一回目の日銀金融政策決定会合はゴールデンウィーク前、4月27日~28日に予定されていますので注目しておきましょう。

3月:急速に広がる金融不安

メジャーSQ直前まで堅調だった日本株

3月、ユニクロの2月来客者数増加を好感し大幅高となったファーストリテイリングや証券会社のレーティング更新を受けて株価が上昇した三井物産や三菱商事など、個別材料が奏功し日本株は堅調な推移で始まりました。また、3月10日にはメジャーSQと呼ばれるイベントを控えていたことも上昇を後押しする要因になったと考えられます。メジャーSQの詳細は長くなるのでここでは記載しませんが、株価が上昇すればするほど(あるいは下落すればするほど)、その流れに拍車がかかりやすくなる時期に相当します。メジャーSQ前に上昇するのか、下落するのかについてはその時々で変わりますが、結果論として今年3月のメジャーSQ(メジャーSQは年に4回あります。3, 6, 9, 12月)前は上昇基調になりやすい相場だったということです。

欧米で大きなイベントがなかったことも後押しし、買いが買いを呼ぶ構図となったことで日経平均は28500円まで急上昇。市場の過熱感を示す騰落レシオ(25日)は一時130を超えるなど市場は活況を呈していました。3月末には3月期決算銘柄の権利付き最終日を控えていることもあり、高配当株の動向にも注目が集まった時期ですね。人気高配当株の三菱商事は株価が5000円を突破し、三菱HCキャピタルの株価は700円を突破するなど枚挙に暇がありません。

しかし、経験則ではメジャーSQ前後で相場が大きく変化することが多く、一部では3月10日の後に相場が下落に転じるのではないかとの見方もありました。そして奇しくも3月10日、日経平均が大きく下落することになるのですが、そのきっかけとなったのは米国発の金融不安でした。

米シリコンバレー銀行 急転直下の破綻劇

3月8日から9日にかけて、米国中堅銀行であるシリコンバレー銀行の経営不安がささやかれたことに端を発します。

シリコンバレー銀行、経営破綻劇の一部始終

シリコンバレー銀行はその名の通りシリコンバレー周辺のベンチャー企業などを主な顧客としてビジネスを展開し、短期間で預金規模を大きくしました。コロナ以前からその成長力が注目されていた銀行ではありますが、コロナ以後、金融緩和によって資金調達が容易になったベンチャー企業が手元のあまりある資金を預金したことで、シリコンバレー銀行も飛躍の一途を辿りました。
シリコンバレー銀行はその預金を元に、住宅ローン担保証券や米国の長期国債といった比較的安全な債券に投資をしていたのですが、2022年のFRBによる利上げによって国債価格が急落。多大な含み損を抱えることになったのです。
含み損そのものですぐに倒産することはありませんが、FRBの利上げによって資金調達が難しくなったベンチャー企業から預金の引き出しが相次いだことが事態を悪化させます。ベンチャー企業としては「手元資金が少なくなったので預金を引き下ろす」という行為はいたって自然なことなのですが、シリコンバレー銀行からすれば預金がどんどん流出してしまうので、対策を講じる必要に迫られました。
そこで、含み損を抱えていた国債を売却し資金を捻出するほか、増資を発表し資本の強化を図ったのです。しかし、資本の強化とは裏腹に、この増資計画の発表が事態を急変させました。

増資を発表したことで株価は一日で60%下落。更に、著名なベンチャーキャピタリスト(ベンチャー企業に出資したり、メンターの役割を果たす人のこと)が「シリコンバレー銀行から預金を引き出した方が良い」と顧客のベンチャー企業に勧めたことで預金流出が加速。結局増資計画は上手くいかず、一時は身売りも計画しますがそれも失敗。最終的にたった2日間での経営破綻となりました。

預金保護で揺れる米政府当局

シリコンバレー銀行の経営破綻後においてもっとも注目されたのは「救済の有無」、特に「残された預金の取り扱い」です。米国では預金保護の上限として25万ドル(約3300万円)が設定されているのですが、個人ならまだしも法人は25万ドル以上を預けているケースが多く、預金が全額保護されなければ連鎖倒産にも繋がりかねません。シリコンバレー銀行の顧客は多くが法人であり、かつ預金保護上限を超える金額を預け入れしていました。
そこで米国政府と連邦貯金保険公社(FDIC)は早々に全額保護を打ち出し、市場の混乱を抑制する姿勢を表明。その後、シリコンバレー銀行に続き、シグネチャー銀行も破綻したのですが、その際にも全額保護を打ち出しています。
米国政府としては何でもかんでも救うというわけにはいきませんが、金融市場の混乱がどの程度まで波及するか分からない状態だったため、手厚い保護を全面に出したのでしょう。ただし、全ての銀行を救うのか?と問われたイエレン財務長官が答えに窮するなど、今後の銀行倒産に対する手立てに限界があるのも確かです。
政府だけではなくJPモルガン・チェースなど大手銀行も加わり、金融システムの安定化に努めていました。米国の金融不安は収まりつつありましたが、今後は欧州に飛び火します。

長年の懸念 クレディ・スイスの金融不安

以前から会社の内部統制において問題が山積していたクレディ・スイス。スイス国内ではUBSに続き第二位の規模を誇る国際的に重要な銀行とされていますが、今回の金融不安における主役のひとりとなってしまいました。

クレディ・スイスの経営不安は長年の懸念だった

クレディ・スイスの経営不安に拍車をかけたのは、2021年の相次ぐスキャンダルです。当時、グリーンシル・キャピタルやアルケゴス・キャピタルとの取引によって多大な損失を被ることになりました。これにより業績は連続赤字に陥り、昨年秋には大規模な増資を発表しています。しかし、その増資によって経営状況が好転することはなく、3月の金融不安をもって早々に政府からの支援を受け入れることになりました。
更に、スイス政府はスイス最大手銀行のUBSにクレディ・スイスの買収を詰め寄り、UBSは一定の政府保証を受けた上でクレディ・スイスの買収を発表するに至ります。
スイスの銀行は世界中の富裕層から資金を集めるなど金融大国として発展してきました。好ましくない金融取引を仲介していたのではないかとの指摘も絶えませんが、少なくとも今回のスイス政府による迅速な対応は、金融大国の看板をかろうじて維持するために必要なものだったと言えるでしょう。

「大きすぎて潰せない」銀行に押し寄せる金融不安の波

クレディ・スイスは国際的に重要な銀行としてグループ化されている「G-SIBs」に指定されています。

「大きすぎて潰せない」問題に該当する銀行。「経営が危なくなっても救ってもらえるだろう」という銀行のモラルハザードを防ぐために様々な規制がかけられているが、クレディ・スイスの一件で規制の課題が露呈。今後の規制強化論に注目が集まる。

しかし、クレディ・スイスの状況は事実上破綻寸前まで到達したも同然で、結果としてUBSに買収されることになりました。更に、その火の粉はドイツ銀行にも降り注ぎます。
実はドイツ銀行もかねてから経営不安がささやかれてきました。3月24日には「クレディ・スイスのあとはドイツ銀行か?」との思惑から、ドイツ銀行の株価が急落し欧州株が全面安になるなど一時的なパニックに陥ります。

ただ、ドイツ銀行についてはあくまで噂ベースであり、ひとまず事態が安定したことに加えて、米国のシリコンバレー銀行やシグネチャー銀行の引き受け手や、米ファースト・リパブリック銀行への支援等が決まったことで金融不安は徐々に沈静化。その後は下落した分を取り戻すように上昇し、3月末を迎えることになりました。

実際のところ、中央銀行が急速な利上げを行うことによって金融システムの安定に亀裂が入り、一部の銀行の経営が行き詰まること自体はさほど不思議ではありません。とはいえ、今回は金融不安が拡大するスピードがあまりにも速く、金融当局も対処に苦労したことと思います。イエレン財務長官も「SNS時代における金融不安の対処は難しい」と述べており、金融引き締めが続く状況において金融不安は今後もくすぶることでしょう。「利下げ期待 vs 金融不安 & 景気後退懸念」の構図はしばらく続きそうです。

今回の金融不安についての所感ですが、一時的にパニックになりかけたものの、足もとの米国経済が堅調であることやFRBの利下げ期待などが重なり、結局のところ市場の楽観さが勝ったように思います。米銀行株は大きく下げる場面がありましたが、AppleやMicrosoftなど堅調さが続く銘柄もあり総悲観には遠い状況だと言えるでしょう。

配当落ち後も強い日本株、金融緩和と内需拡大が支えになるか

日本株はメジャーSQ後の時期と金融不安の時期が重なってしまったため、特に金融株を中心にかなり売り込まれてしまいました。そのまま3月29日に権利付き最終日を迎えましたが、翌日権利落ちとなる30日こそやや下落したものの年度内最後となる31日には大きく値を上げています。銀行株や保険株には金融不安の痕が見られますが、半導体市場の底入れ期待がかかるテック企業が市場を牽引するほか、来る5月8日には新型コロナウイルスが5類に移行するなど国内需要の喚起に繋がる状況が整いつつあります。賃上げ気運も個人消費を後押しする材料になるでしょう。外国人旅行者数も増えており、今後は金融緩和と共に内需拡大が株価の支えとなりそうです。

目下の注目はインフレです。政府の補助によって電気代などが低下したことで消費者物価指数CPIの総合値は大きく低下していますが、価格変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除くコアコア値は依然として伸び率が拡大しています。
もっとも米国FRBに利下げ姿勢が見られれば、ドル円相場は円高方向に動くと目されており、日本の輸入物価の低下に期待がかかります。それを見越してか、日銀も今の高インフレが長続きしないと述べていますが、実際にどの程度の時間感覚でインフレが沈静化するのかについてはまだ不透明な状況です。

私自身も今のところ、日銀が積極的な利上げに転じる必要はなくインフレは沈静化するだろうと見ていますが、今後も各種経済統計やイベントを注視しながら、状況を分かりやすく解説していきたいと思います。フォロワーの皆様におかれましては、引き続き応援のほどよろしくお願いいたします。



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