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地域のつむぎ手の家づくり|地域と一体化するものづくり 根付き・つながり、そして次の世代へ <vol.24/星居社:栃木県益子町>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

「焼き物のまち」として知られる栃木県益子町に拠点を置く総勢10人の星居社(セイキョシャ)は、主宰の髙田英明さんが地域の素材や墨付け・手刻みといった大工技術を生かした家づくりを手掛け、妻の純子さんは自らの手づくりにより“真に機能的な人に優しい服”を届ける服飾ブランド「nociw(ノチウ)」を展開しています。

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益子町内の小高い丘の上に位置する、元飲食店をリノベーションしたというサワラ材の下見貼りの趣の味のある建物が、星居社の事務所であり、髙田さん夫婦が2人のお子さんと暮らす住居です。

事務所の脇にある広い加工場では「ものづくりが大好きな仲間たち」と英明さんが言うスタッフが汗を流しています。

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手刻みにこだわる星居社は、新築は地元を中心に年間2~3棟、そのほか全国各地で古民家再生なども手掛けます。高い職人技術を生かし、木製サッシなどの建具をはじめ、テーブル、椅子にいたる家具まで全て自社でつくることができるのが大きな特徴です。時には「10年前につくらせていただいたお客さんの椅子」をリペアすることもあるそうです。

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10年前につくった椅子を顧客に頼まれてリペア。
顧客と、顧客のためにつくった“モノ”との
長く丁寧な関係に星居社のものづくりへの姿勢が表れる

ものづくりの原点

英明さんの、ものづくりの原点は、1998年に故・馬場浩史さんが益子町内に開設した「starnet(スターネット)」(オーガニックレストラン、ギャラリー、陶器・コスチューム工房など)にあります。馬場さんが率いたスターネットが展開したのは、単なる販売・生産といった領域を超えた、地域・全国のクリエイター、デザイナーらも巻き込んだ「運動的」なムーブメントで、スターネットの誕生をきっかけに益子町は「クリエイティブな場所」として大いに盛り上がりました。

馬場さんは地域に対する想いも強く、「土祭(ひじさい)」という地域イベントをプロデュースし、それは現在も受け継がれているそうです。英明さんは高校生のころ、突如、地元に現れたスターネットを訪れて衝撃を受け、後にそこで働きながら馬場さんの自宅や店舗改修をそばで見ているうちに、ものづくりや建築に対する思想を形づくっていったそうです。「馬場さんは、僕の恩師です」と英明さん。スターネットでは当時、服飾部門で働いていた純子さんとも出会いました。

良質な土に恵まれる焼き物のまち・益子には、焼き物を中心に鉄、木工、硝子、服飾など、さまざまな作家たちが町内にアトリエや工房を構えて活動しています。その中には、スターネットの出身者も少なくないそうです。英明さんと純子さんは「これだけ身近にクリエイターがあふれていて、地産地消のものづくりが浸透している地域というのも珍しいのではないか」と話します。星居社では、こうした地元の作家・クリエイターたちと協力して、一緒にものづくりを行ったり、時には企画展やワークショップを開催するなど、密接につながりながら事業を展開しています。

英明さんと純子さんは「この“ものづくりのまち・益子”では、家、服、家具、生活雑貨、遊具、食材・食品など全て“顔が分かる”地元の人・作家がつくったもので子どもを育てることも可能です。そんな環境で育った子どもたちが将来、どんな感性を備えた大人になるかすごく楽しみなんです」と楽しそうに話してくれました。2人は、そんな“益子新世代”とも言えるような2人のお子さんを育てています。益子町に近い将来、地産地消や自立循環型の地域経済について「理屈よりも体感的に理解している」ような大人たちが育つのかもしれません。

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英明さんの建築と純子さんの服飾とのコラボも、非常に良い組み合わせになっています。例えば、星居社が受注する飲食店などの建築で、建物のデザインからスタッフの制服まで全てワンストップで引き受けることができ、お店のコンセプトと整合性・一貫性があるトータルプランを提供できるという強みにもなっています。

特に店舗などについては、英明さん自身が、建物だけでなく敷地全体(植栽)、看板、什器、メニュー表なども含めて「トータルでデザインさせてほしい」という強いこだわりを持っています。そこには、スターネットでデザインのあり方、重要性について学び、理解を深めたことが強く影響しています。

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純子さんが手掛ける「nociw」の服

地域の素材を活用

星居社は、地域のクリエイターと連携する建築の一環として、地域の素材を活用することも重視しています。焼き物のまち・益子には、良質な土が豊富にあります。同社は、地元の左官職人らの協力を受けながら、地元のさまざまな種類の土を色合いや用途に分けて建築の土壁に使っています。

木材については、地元を含み良材の産地として知られる「八溝山系」の木材を活用。地域材の有効活用や森林再生、林業振興への志を共有し、山作りや製材の考えを教えてもらっている上林製材所(茨城県石岡市)からの仕入れを増やしています。

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また、ランドスケープデザインや景観生態学の専門家の廣瀬俊介さんとコラボし、在来種(地域性の植物)を生かした植栽も行っています。廣瀬さんとは、地域固有の風景のあり方を模索・確立するためのフィールドワークも体験し、その考え方も自社の建築に反映させようとしています。

英明さんは「例えばお店なら、地元の土の壁を使い、猫の額ほどの小さなスペースにも地域性植物を植栽することで、店主がお客さんに地域の素材の背景を語ることができるんです」と話します。

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地域ににぎわいを生むコミュニティー拠点を

英明さんは、2010年に町内にある築120年の木造の元銀行だった建物を改修して生まれたカフェ・ギャラリー「ヒジノワ」で、一般の人たちと改修工事のワークショップを行い、現在はボランティアでヒジノワの運営などに携わっています。地元をはじめ作家やクリエイターの展示の場として活用されたり、映画の上映などさまざまなイベントが催されるなど、地域ににぎわいを生むコミュニティー拠点となっています。東日本大震災が起きた際には、ヒジノワに関わる人たちが連携して復旧のボランティアに携わったそうです。

純子さんは、この場所で仲間と作家・クリエイターとともに「ぬのといと ヒジノワ洋裁店」を継続的に開催、英明さんは地元のさまざまな分野の人たちが自分なりに創作した「取っ手」を一堂に集めて展示するというユニークな企画展「トッテテン」を開いたことがあります。

英明さんは将来について、「仕事も家庭も楽しみながら暮らしていきたい。益子を、より面白いまちにしていきたい」と夢を描きます。英明さんと純子さんは、自分たちの子どもたちの世代が、さらに益子を面白くしてくれるのではないかと期待します。いま、自分たちを含めた「益子の面白い人たちがしている面白いことは全て“未来に対してのイタズラ”なんです」と2人は笑います。「いまは変な人たちだなあ、面白いことしてるなあ、と何となく見ていてくれればいいんです。それがきっと後で『あ、こういう意味だったんだ』と気づくフックになるはずです」(英明さん)。

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文:新建ハウジング編集部
写真:星居社提供





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