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地域のつむぎ手の家づくり|県産材の魅力と手刻みの技術を生かし、心地よい家を地元に届けたい <vol.44/WARMTH坂口工務店:富山県富山市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

「社名にあるWARMTHには、休日に家族みんなでゆっくりと過ごしたくなるような、暖かく快適で、木の温もりがあふれる心地いい家を届けていきたいという想いを込めました」と語るWARMTH坂口工務店(富山県富山市)社長の坂口智志さん。地元の木を使い、伝統の大工の技術を生かしてつくる、そして性能やデザインにも優れる家が、地域の人たちの心豊かな暮らしを支えています。

WARMTH坂口工務店社長の坂口智志さん(*)

21歳から父のもとで大工修業をスタートし、いまも現場でたたき続ける坂口さんは手刻みで加工した木材をあらわしにする、木と大工の伝統的な技術を全面的に生かした家づくりにこだわります。坂口さんは「僕自身、いまも現役の大工で、父から受け継いで身につけた技術を発揮したいという思いがあるのと同時に、これを生かさなかったら“自分たちらしさ”がなくなってしまうし、(競争の激しい市場に)埋もれていってしまう」と話します。

天然・低温乾燥材を活用

住宅業界で、国産材や地産地消(資源の地域循環)の観点から地域材の活用が叫ばれて久しいが、坂口さんは「真の意味で地元の木の良さやポテンシャルを生かして家を建てるためには、大工の目と技が不可欠なはずだ」と訴えます。同社では、製材・乾燥後にプレーナーで指定寸法に仕上げる前の段階の木材について、納品される前に必ず自ら材木屋の倉庫に出向き、品質チェックから選木・番付まで行います。「品質を材木屋さん任せにはしない。チェックして問題がある木材は仕上げの前に取り換えてもらう。どの木材をどこにどの向きで使うかもそこで全て決めるため、ロスのない効率的な加工(刻み)、建て方にもつながる」と坂口さん。

構造材に用いる富山県産のスギ材などの乾燥は、天然乾燥か低温乾燥に限定。「高温乾燥すると木が死んで工業製品になってしまう。色も違うし、木特有の粘りや香り、調湿機能も落ちてしまう。長いホゾなどを手刻みで加工するわれわれにとっては“内部割れ”を起こしやすい高温乾燥材は使えない」と言います。

「木組みの階段」が空間のアクセントに

木の特性を知り尽くした大工により木組みをあらわし、塗り壁や無垢板といった自然素材の内装材と組み合わせることで、清浄で健康・快適な空間が生まれます。その空間の意匠的なアクセントとなり、同社の家づくりの特徴の1つにもなっているのが、伝統の大工技術を生かして造作する建具や家具。木栓で締め固めながらつくる「木組みの階段」や「木組みのスツール」などが施主から好評で、そのほかにも地元の建具屋に依頼して家ごとのテイストに合わせて製作する玄関ドアによってデザイン性を高めています。

昨年の春、家づくりの志を共有する富山県内の建築家の荒井好一郎さんとコラボし、富山市内にモデルハウスを新築・オープンしました。耐震等級2とZEHに近い水準の断熱性能を確保しながら、『県産材を使って県内の職人が県内の人たちのためにつくる規格型住宅」』がコンセプト。分譲地の一角に、木や自然素材を用いて内と外とのつながりを大切にした家づくりを手がける県内の2社の工務店と協働し、3棟が並ぶように建てたもので、自身も成長できるチャンスだと感じてプロジェクトに参画し、ここを訪れた人たちに体感してもらいながら、同時に自分たちの想いも伝えていきたいと言います。

耐震等級2とZEHに近い水準の断熱性能を確保した、
県産材を用いたモデルハウス「komorebi」
「木組みの階段」は標準仕様
金具を使わずに木栓で締め固めてつくる「木組みのスツール」

大工技術の付加価値と顧客満足度を同時に高める

同社の強みの1つは、坂口さん自身が設計から刻み加工、現場施工・管理まで一気通貫で手がけるスタイルだ。坂口さんは「僕が設計をして伏図も描いているので、その段階から刻みや建て方、納まりなどについてもイメージできる。デザイン性はもちろん大切だが、図面を複雑にし過ぎると木材のロスや非効率な作業などが増えてくる」と、設計・刻み・現場が連動していることのメリットを話します。

また、家づくりのオーナーらを対象に、ものづくりのワークショップなどを行う「輪結(ワームス)クラブ」の活動を通じてコミュニティをつくり、絆を深めています。コロナ禍になる前は、親子で参加できる木工教室やオーナー宅に集まって開いたもちつき大会など、さまざまな活動やイベントを行っていました。「オーナーさんには活動やイベントを楽しんでもらいながら、メンテナンスの方法など、家に愛着をもらいながら長く使っている。コロナが収まったら、ぜひまた活発にやっていきたい」と坂口さん。「『県産材を使った家づくりだったらやっぱりWARMTHだよね、坂口工務店だよね』そんなふうに言われる工務店になっていけたら」と理想を描きます。

地元の木を使い、手刻みなど大工の伝統的な技術を生かしながら、
性能やデザインなど現 代の住まいや暮らしに対するニーズに応えている(*)

文:新建ハウジング編集部
写真:WARMTH坂口工務店、原常由(*)


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