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地域のつむぎ手の家づくり|リノベした古民家から「未来のライフスタイル」発信 ハイブリッドワークの拠点に、家づくりの魅力も伝える <vol.36/浜松建設:長崎県諫早市 >

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

浜松建設(長崎県諫早市)は、大分県日田市にある築147年の古民家をリノベーションし、個人・企業がコワーキングスペース*や宿泊施設として利用できる新たな拠点「郷雲go-unごううん」としてオープンしました。

*コワーキングスペース…在宅勤務をする会社員、自営業の人など、場所に縛られない環境でのワークスタイル(コワーキング)を支える施設のこと。

運営も自社で行いながら、居場所や働き方などを柔軟に選択できる「未来のライフスタイル」を発信しています。コロナ禍における新しい価値観として、テレワークとオフィスワークを融合した“ハイブリットワーク”も提案したい考えです。

2022年3月末に開いた地域住民や行政関係者らを対象とする見学会には30人以上が訪れた

その地域の職人の手でつくる

木造2階建て・延べ床面積430㎡の古民家をリノベーションした郷雲は、企画から設計まで浜松建設が手がけました。施工については、自社の社員大工を現地に派遣して行うことも可能でしたが、あえて材木屋を通じてつながった地元の職人たちに依頼したそうです。

その理由について同社社長の濵松和夫さんは「地域の資産である古民家を、地域の気候風土を知り尽くす地域の職人たちが手がける地産地建の形が原理原則です。それは地域経済の活性化にもつながります」と語ります。

社長の濵松和夫さん

「空き家バンク」で物件購入

長崎県諫早市にある浜松建設が、大分県日田市で古民家をリノベーションしたコワーキング・宿泊施設を整備・運営することになったきっかけは、日田市の原田啓介市長が、同社が長崎県内で取り組んできた古民家再生やホテル運営の事例を視察したこと。古民家も含めて「空き家バンク」事業などを通じてストックの利活用促進を図ろうと考えていた原田市長が、同社の取り組みに共感し、誘致したそうです。同社は日田市のリノベーションした古民家を、土地とあわせて空き家バンクを介して購入しました。

濵松さんは、郷雲がハイブリッドワークを導入する企業のテレワークの受け皿になり得ると考えています。例えば、自社の家づくりの商圏の長崎県の企業が、自然に恵まれた環境にある郷雲を、サテライトオフィスのように社員のテレワークの拠点の1つとして活用してくれれば「そこで過ごす社員が居心地の良さや建築としての魅力を体感し、長崎での家づくりの顧客になってくれるというケースもあり得るのではないでしょうか」と期待を寄せます。

施設運営も自社で

郷雲は、エントランスを入るとカフェスペースがあり、そこを抜けるとワークルームが広がります。最大25人程度が仕事をすることができるそう。1階は全部で5部屋ありますが、普段は間仕切り建具の役割をする襖は全開の状態であるため、1つの広い空間のように開放感のある場所となっています。

今後は、一部の部屋にベッドや布団を用意し、宿泊機能を充実させます。このほか1階に談笑スペース、2階に就寝エリアがあります。施設内の家具は造作し、空間に統一感を持たせました。敷地内にある蔵については、今後改修して軽食などを提供するバーにする計画もあるそうです。

ワークスペースの利用料は個人が1時間550円で、貸し切りの場合は同4400円。月額契約もでき、料金は個人が2200円で法人は1万1000円。無料Wi-Fi、オンラインミーティング用モニター、プリンター・スキャナー・FAXなどを完備しています。宿泊料は1泊(1室)1万7600円となっています。

施設の運営を自社で行うため、専任スタッフとして男女1人ずつを雇用しました。同社の企画運営マネージャーの村上比子さんは「すでにホテル事業などは地元(諫早市)で数年経験していてノウハウも蓄積しているため、運営に対するハードルはありません」と説明します。

グランピング施設なども設置へ

同社が古民家とあわせて取得した川沿いの1000坪の敷地には源泉があり、それを活用して露天風呂を整備する計画も進められています。すでに市や関係各所の許可は取得済みだそうです。“ワーケーション”しながら、キャンプなどを楽しめるグランピング施設も整備する計画です。

濵松さんは「工務店にとって地域のストック活用は大きな課題であるのと同時に大きな可能性を秘めているのです」とし、「建築を通じて場づくりをしていくことで、ファンをつくっていくこともできるはずです。営業ではなく、こうした接点づくりが工務店には重要なのです」と訴えます。

文・写真:新建ハウジング編集部

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