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地域のつむぎ手の家づくり|「大好きな家づくりをずっとしたいなって本気で思ってるんです」 <vol.11/各務(かかむ)工務店:岐阜県八百津町>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

岐阜県八百津町
各務(かかむ)工務店

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若い大工を育て、工務店の灯をともし続ける

創業から自社設計と社員大工により、全棟手刻みの家づくりを行っている各務工務店(岐阜県八百津町)では、同社に憧れて入社した20代の大工3人が日々腕を磨いています。社長の各務博紀さんは、知識・技術と「人間性」を兼ね備えた大工育成に取り組みながら、「伝統を守るだけでなく、仲間と共に新しいことにもチャレンジして地域工務店の灯をともし続けたい」と意欲を燃やしています。

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社長の各務博紀さん

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各務工務店の大工のみなさん

地区内に唯一の存在

同社は、四方を山林に囲まれた八百津町の久田見地区にある唯一の工務店だそうです。二代目の各務さんの父・邦敏さんが創業して以来、自社設計と社員大工が手刻みする地元材「東濃ひのき」を用いた家づくりを貫いています。「20年以上前は、この地域でも10社を超える工務店があった」と各務さん。しかし、近年、職人の高齢化や大工のなり手不足の影響などもあり廃業が相次ぎました。各務さんは、自社が地域で生き残ったことについて「特別なことはしていません。時代に迎合せず、手しごとを継承し、自分たちのやるべきこと、やりたい家づくりを愚直に続けてきただけです」と語ります。

各務さんは高校卒業後、商業施設の建築などを手掛ける岐阜市内の地場ゼネコンに就職し、現場管理の仕事を担当しました。「特にやりたいこともなく、かといって家業に入りたくないし、大学に進学する意思もありませんでした。工務店よりダイナミックな仕事ができそうという理由でゼネコンに入りました」と笑いながら振り返ります。

でも、現実は、思っていたこととは違いました。「無理な工期や、荒さの目立つ施工に現場管理、条件が合わない職人を切り捨てる体制など、とにかく安く早く建てればばいいという価値観に疲弊してしまいました」と各務さん。

そんなとき、幼いころからずっと身近にあった加工場で見てきた「木を刻む父や職人たちの背中」を思い出したそう。あらためて「自らの手」でする仕事(家づくり)に惹かれ、「父に弟子入りし、家業を継ごう」と23歳で家業に入りました。5年で大工として一人前と認められる「年季明け」をし、10年目には棟梁に、そして、邦敏さんが65歳で第一線を退いたのを機に2014年、38歳で代表に就きました。

「人間性」を重視して若い大工を育成

各務工務店では、打ち合わせから設計、施工、現場監督まで一貫して手掛ける各務さんのもとに、年季明けした同姓の各務諒太さん、3年目の中村哲也さん、2年目の宮本拓実さんの3人の若い社員大工がいます。この3人は、いずれも60代の専属大工3人のもとに、それぞれ弟子としてつき、修業に励んでいます。若手大工3人は、休日のたびに、365日・24時間開放されている100坪ある自社の加工場に来て、墨付けや刻みの技術を磨きます。

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ベテラン大工のみなさん

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各務さんが、若い大工を育てるうえで最も大切にしているのは「心技体を最大限に発揮するための“人間性”を育むこと」。「技術や知識を向上させるのは当たり前。それ以前に人間性が育まれていなければ、いい大工にはなれないし、仕事も任せてもらえません。施主に対してだけでなく、協力業者への敬意、指導を受けている親方への感謝の気持ちも忘れてはいけません」と話します。

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一方で、「大工一本でキャリアを積んでいくのは今の時代では難しい」とも考えています。「昔は腕一本で実力さえあれば食べていけたが今は違う」とし、「設計や現場監督、(顧客や他の職人との)折衝ができる“多能工”(マルチな能力)が求められています。時代にあった育成にも力を入れていきたい」と抱負を語ります。社員大工の各務椋太さんは、「プレカットではなく、手刻みのできる大工になりたいと考えていたところ、自分と同じ姓が社名につく、自分が憧れる家づくりをしている工務店に出会い運命だと思いました」と顔をほころばせます。年季を明け、独立を許可されている身ではあるものの、「もっと学ぶべきことはあるし、ここ(各務工務店)の家づくりが好き。社長や親方からもっと技術や知識を得たい」と力を込めます。

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葛藤を乗り越え“らしさ”を貫くと決意

各務さんによると、八百津町には土地柄なのか、伝統構法を求める顧客が多く、同社では創業時から「石場建て」の家も数多く手がけてきました。そうした伝統的なスタイルに「“古き良き”と言えば聞こえはいいが、古いままでいいのか」と悩んだ時期もあったそう。しかし、2008年に、全国の工務店経営者や職人が加盟する任意団体『職人がつくる木の家ネット』(岡山県倉敷市)に入会したことで「気持ちが吹っ切れた」そうです。木の家ネットの仲間と交流を重ねるなかで、「当たり前に取り組んできた石場建てや、木組み、土壁、手刻みなどが全国的には希少性が高く、それが自社の“らしさ(ブランド)になっていると再認識できました」と各務さん。現代的な意匠性の高い設計や空間提案などについての学びも深めながら、あらためて「自分たちが伝統的な構法と素材でつくる、開口部が広い“田の字型”の家が永く住まうためには最も適している」という結論にたどりつきました。

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仲間と手を取り合って生き残る

地域の工務店が消えゆく状況に強い危機感を抱いた各務さんは2018年、木の家ネットの仲間で同じ町内にある岡崎製材所と水野設計室と連携し、地域の大工や工務店などを対象とする「木の家ネット岐阜」を独自に立ち上げました。3社が中心となり、全国組織の木の家ネットで得たノウハウなどを共有しようという活動で、現在、10社余りが参加しています。「これからは競争の時代ではない。横のつながりをつくり、仲間と手を取り合って生き残っていく時代だ」と各務さんは訴えます。

木の家ネット岐阜では、伝統木造建築の軸組みを基にした木のジャングルジムを通じて地域の子どもたちに無垢の国産材に触れて親しんでもらう機会を提供するイベントも展開しています。

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上棟式の餅まきには、地域の人たちがたくさん集まる

各務さんは「木の価値を最大限に生かす技術と価値を提供できる大工の存在意義は普遍的なものだし、それを次世代につないでいくために、同業社と横の連携を強めたり、生活者にアプローチしたりしていく活動は今後も継続していきたい」と話します。各務さんは「ライバルとかじゃなくて、みんなで良い情報をシェアして、大好きな家づくりをずっとしたいなって本気で思ってるんです」と前を見据えています。

文:新建ハウジング編集長 関卓実
写真:各務工務店提供

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