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地域のつむぎ手の家づくり|「新しい工務店像」を提示し若者が憧れる存在に。ホテルやソーシャルアパート運営で地域活性化にも貢献<vol.29/ホリエ:山形県飯豊町>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

山形県飯豊町に拠点を構え「シエルホームデザイン」のブランド名で住宅事業を展開するホリエを率いるのは37歳の社長・堀江龍弘さんです。社員の平均年齢は29歳という若さ。従来の地域工務店のイメージに縛られない若い組織は、地域に根差した家づくりを大切にしながらも、ビジネスに境界を設けずに、ホテルやアパートの運営など、臆することなく次々と新たな事業にチャレンジしています。

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社長・堀江龍弘さん

堀江さんは、若手の柔軟な発想やクリエイティビティを尊重しながら多角的な事業を行うことにより、地域の人たちにより豊かで、これまでにはない新たな暮らしの価値を提案するという新しい時代の地域工務店のあり方を目指しています。

同社は『リゾートに、住まう』というコンセプトのもと、ラグジュアリー感のある世界観を全面的に打ち出した住宅ブランド「シエルホームデザイン」を展開。デザイン性や世界観だけでなく、自社が供給する住宅のC値*の標準が0.1~0.3 ㎠/㎡という数字が示すように、性能の高さも兼ね備えています。(*C値:住宅の気密性能を表す数値。数字が小さいほど高性能)

若手主体の組織により、地域に根差した家づくりを行いながら、2017年には自社で設計・施工し、運営まで手掛けるリゾートホテル「HOTEL SLOW VILLAGEホテルスロービレッジ」を町内で開業。2020年8月には、JR羽前椿駅前にある築40年の空き店舗をリノベーションした自社ショールーム兼ソーシャルアパートメント「RE:BAUMリバーム」をオープンしました。さらに2月中には、新潟県に進出し、ラグジュアリーな貸別荘をオープンする予定です。複数の事業を通じてライフスタイルを創造・提案する新たな工務店を目指しているのです。

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2017年に飯豊町にオープンした「HOTEL SLOW VILLAGE」
楽天トラベルアワードを受賞した

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自社ショールーム兼ソーシャルアパートメント「RE:BAUM」
2019年度入社の4人が、プランや収支計画の策定から設計、
現場管理まで手掛けて完成させた

ハウスメーカーの営業を経験

堀江さんが同社の社長に就任したのは2019年12月。堀江さんは、新潟大学工学部建築学科を卒業後、大手ハウスメーカーに営業職として入社しました。「売れない営業マンでした」と振り返ります。ハウスメーカーの価格や、クオリティに納得できない住宅、マニュアル化された営業手法に疑問を抱えたまま毎日を過ごしていたそうです。「自社商品が好きじゃない営業は、数字を上げることができないですよね」と苦笑しながら話します。

そうして堀江さんが、3年間の会社員生活を終えて家業に戻ったのは、リーマンショックの影響でホリエがメインとしていた施設建築を畳むことになった2010年。父であり当時の社長で現会長の勝彦さんに「残した住宅事業を担ってほしい」と頼まれたといいます。当時の同社の受注は、大半が知り合いや友人から。営業や提案といったことは、していないに等しい状態でした。

住宅のスタイルにこだわりはなく、唯一、2004年から高気密高断熱に取り組んでいたことから、性能では秀でていたものの、その特徴を営業に生かしきれず、顧客ニーズもつかみ切れていませんでした。そうした状況を何とか打開しようと堀江さんが立ち上げたのが、シエルホームデザインという住宅ブランドだったのです。

大きな裁量を与え若手を育てる

堀江さんは自分のことを「代表というよりもファシリテーターのような存在」と表現します。「もっと自由にクリエイティブに」と、若手が伸び伸びと仕事ができる環境と組織づくりに取り組みます。「自分が20代の頃に上から押さえつけられるような体制や働き方をしていて窮屈だった。今は、そんなの時代錯誤だし会社にとってもマイナス」とし、「そうした原体験があるから若いスタッフには大きな裁量を与えます。その中で経験を積みながら成長してほしい。圧倒的な当事者意識を育む機会にもなるのです」と堀江さんは話します。

会社のルールを決めたりする時なども若手の声を尊重します。「ミッション・コアバリュー」は2020年に若手を含む全社員によって、1年間かけて策定しました。「初めは自分が作ったものを発表しようと考えていましたが、それでは意味がないと思い直しました。ミッション・コアバリューが出来上がった瞬間、感動して涙を流しているスタッフを見て、(策定する)過程に大きな価値があったと確信できました」(堀江さん)。

社内に委員会を設けて、社員の声を積極的に声をすくい上げる仕組みも取り入れています。服装について話し合う「ファッション委員会」や人事などについて議論する「リクルート委員会」なども社内に設置しています。それぞれの業務範囲にとらわれずに、意見や企画を出し合える体制にしているそうです。

「人」をブランディング

2020年から運営している自社ショールーム兼ソーシャルアパートメントの「RE:BAUMリバーム」は、同社が毎年実施している若手育成プロジェクトの一環で、住宅事業部に所属する2019年度入社の新人4人が、リノベーションのプランから施設運営の収支計画まで策定し、設計、現場管理まで手掛けました。

同社では、働く社員の自尊心を高める取り組みも行っています。大工のチームを「シエル・クラフトマンズ」、設計チームを「シエル・デザインファーム」と名付け、プロフェッショナル集団として売り出しています。堀江さんは「人をブランディングすることが、商品(住宅)のブランド強化や新たな人材確保(採用)にもつながると考えた」とし、「大工のなり手不足が叫ばれる中で、うちの大工が『カッコイイ』と憧れの存在になったらうれしいし、設計業務を手掛けたい若者には『この工務店ならクリエイティブな設計ができる』と感じてもらうきっかけになる」と話します。

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上/ホリエ大工集団「シエル・クラフトマンズ」
下/ホリエ設計集団「シエル・デザインファーム」

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ホリエの社員平均年齢は29歳という若さ

高級貸別荘をオープン 地域活性化にも取り組む

同社は、ホテルスロービレッジの運営ノウハウを生かし、2022年2月中に新潟県長岡市寺泊にラグジュアリーテイストの貸別荘「VILA VO IXヴィラボア」をオープンする予定です。木造2階建てで延べ床面積は約300㎡の規模。新潟県産材や山形県産材をふんだんに活用してつくりました。

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貸別荘として、最大3グループが泊まることができるそうです。同社は、ここを自社の住宅の世界観を体感できる宿泊型のモデルハウスとしても位置づけています。

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寺泊は海にも山にも恵まれた自然豊かな観光地ですが、近年は観光客は減少し、過疎化も進んでいるそうです。「貸別荘として収益をあげながら、暮らし提案の拠点にもなり、同時に寺泊地域の活性化にも貢献できる」と堀江さんは見据えます。地域の課題解決を工務店としての事業に結び付けることができると考えているのです。寺泊では、地元行政や飲食店、企業などと「寺泊まちづくり協議会」を立ち上げました。地元の人たちと連携し、地域の活性化に取り組みます。

文:新建ハウジング編集部
写真:ホリエ提供


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