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答え合わせは8年後

2012年6月30日、あるひとつの講義が行われたことを知っているだろうか。
2019年8月に病のため逝去された瀧本哲史さんが東京大学で行なった講義である。

『2020年6月30日にまたここで会おう』はその講義の内容が収録された本だ。ここには瀧本さんの思想、講義の熱量、そして僕たち若者に対する惜しみのないエールが凝縮されている。本の中でさえこれほどの熱量なのだ。いったい実際の講義だとその熱量はどれほどのものだったのだろう。

瀧本さんは講義の中でいくつもの「檄」を飛ばす。しかしその檄の中には、ひとつの大きな軸が存在する。それは「自分の頭でしっかり考えろ」ということである。人間の見た目をした猿にはなるな。自分の頭で考えない猿は替えのきく人材として扱われる。本を読んだだけでは意味がない。本を読んで実際に行動を起こすことが重要だ。教養を身につけろ。どこかに絶対的に正しい答えが転がっていることなどないのだから。教養とは知識をひけらかすためではなく、自分で考えるための枠組みとして必要なのだ。瀧本さんはこの本の中で、自分の頭で考えることの大切さを何度も何度も説いている。

僕の中で最も印象に残っているのは、瀧本さんが若者に必ず伝えているという「パラダイムシフト」についての話だ。パラダイムシフトとは、これまでの常識が大きく覆って、新しい常識に切り替わることだ。例として、天動説から地動説への転換が挙げられている。人々の考え方がどのように変化していったのか。僕は、新しい学説が出てきて、それが「なるほど、確かにその考えの方が正しいな」と認められたことによって常識が変化していったのだと思っていた。しかしそうではなかったというのだ。地動説を信じていたのは初めはほんの一部の人若い人たちだった。それが長い時間をかけてじわじわと広がる一方で、天動説論者の年齢はどんどん上がっていき、死んでしまったために大きく人数を減らした。その結果地動説が多数派の考えになったのである。つまり、パラダイムシフトとはただの「世代交代」であり、いくら正しい考えでも広く知れ渡るには長い時間を要するということだ。

これは、新しくて正しい考え方を持ってい選択すれば世代の交代によって必ずパラダイムシフトを起こせるということを意味している。つまり世の中の変化は僕たち若者とそれに続く世代がどのような考えを持つか、どのような選択をするかにかかっているのだ。だから瀧本さんは若者へ檄を飛ばしつづけるのである。

もうひとつ印象に残ったのが、「盗めないもの」について。瀧本さんは「武器になる、他人に盗まれないものとはなんですか」という質問に対しこのように答える。誰にも盗めないものはその人の人生である。過去に生きてきた人生や挫折、成功といったことは盗みようがない。大学で学んだことや友人関係といったバックグラウンドは差別化の大きな要因になるのだ。自分の武器について悩む時、自分の持っているものや周りにいる人を見渡してみることの大切さに気づけた。自分の武器は自分自身である。

瀧本さんは講義の最後に、「”君たち”が今いる場所で何かをちょっとだけ変える」ことを宿題として、8年後の2020年の6月30日にその答え合わせをしに再び集まることを提案する。瀧本さんはその日を待たずにこの世を去ってしまったが、当時の”君たち”は何かを変えることができたのだろうか。それとも何も変わらなかったのであろうか。そして僕はこれからの8年でほんの少しでも世の中を良くしたり、周りにいる人を幸せにすることはできるのだろうか。答え合わせは8年後だ。

船員になるか、船長であるか。
僕は船長であり続けたい。
自分の人生の主人公は他でもない自分自身なのだから。


Bon Voyage!!

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