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おすすめ本:「教養としての社会保障」

このマガジンは、最近読んで面白かった本をピックアップ。
本から学んだことを障害福祉に置き換えながらご紹介していきます。

今回のおすすめ本は、「教養としての社会保障」。

著者の香取さんは、元厚労省年金局長。
厚生労働省で社会保障の仕事に長年携わってこられたようです。

本書のタイトルにあるように、「一般教養」として理解してもらいたい、というのが本書の主旨。

社会保障の話ってむずかしいイメージですが、本書はとてもわかりやすく書かれていました。
理念や目的、これからの方向性など、基本的なことを中心にご紹介します。

社会保障とはなにか

(本書より)
日本の社会保障制度は、国民の「安心」や生活の「安定」を支えるセーフティネットであると定義されています。具体的には、社会保険、社会福祉、公的扶助、保険医療、公衆衛生の四本柱で構成され、人々の生活を生涯にわたって支えるものとされています。

社会保障は、「自助・共助・公助の組み合わせ」と言われていますが、単に並列で存在していることではないようです。
今の社会保障制度の基本的な哲学は、「自助」を基本に「共助」で補完する。
自立を支えることが社会保障の目的だと述べられていました。

(本書より)
国民は社会的、経済的、精神的に自立をし、自ら働いて自分の生活を支え、自分の健康を自分で維持する、というのが基本です。しかし、自助だけではリスクを防御しきれないときもあります。病気になった人がそのたびに社会からこぼれ落ちるということがないように、お互いを支え合うということ、すなわちそれぞれの生活のリスクを分散する「共助」で補完して、それでも困窮に陥ってしまった人を「公助」で支えるというのが、我が国の社会保障の基本です。

防貧が共助。
救貧は公助。
公助は、公的扶助と位置付けられ、生活保護制度がそれにあたりますね。

共助とは、自助の共同化。
みんなでお金を出し合って、プールして、リスクに遭遇した人に分配する。

助け合いの考えた方を基盤として制度が作られているようです。

社会保障は、自助をベースに考えられているので、一人ひとりは自由に行動でき、自分の望む人生を歩むことができる一方で、みんな自己責任で生きていかなければならない社会でもあるということでもあります。
病気や怪我、失業、被災といった生きていく上で起こり得る事故については、自分の責任で対処することが基本となっているということもポイントのようですね。

近代社会の理念は、個人の自由と基本的人権を普遍的な価値としている。
その上で、「自助」「共助」「公助」が成り立っていることは忘れず理解しておきたいと思いました。

セーフティネットの真の意味

(本書より)
セーフティネットというのは、空中ブランコの下に張ってあるネットのことです。一般的には、失敗して落下しても怪我をしないようにするためにあると理解されています。つまり、社会保障は、例えば大きな事故に見舞われたり、大病したり、失業したときに、あるいは高齢になって働けなくなったときに、家計や生活が破壊されないようにするためにあると理解されています。

上記のとおりが、セーフティネットの一般的な意味です。
ぼくも、そのように理解していました。
でも、本書では次のことを真の意味としています。


「思いっきり飛べるということ」


セーフティネットがあることで、人間はリスクを冒すことができる。
思い切って勝負することができる。

人々が自分の能力や可能性を最大限に発揮して自己実現する。
その挑戦を支えるものがセーフティネットであるようです。

一人ひとりが新しいことに挑戦し、人的資本が充実し、それによって社会が発展していく。
社会保障はまさにそれを実現するための基盤となる仕組みであると述べられていました。

また、もうひとつ大事なことばが書かれていました。


「競争とはトーナメントではない」


本書の中では、この理念がよく出てきます。
世の中が競争だとすれば、勝ち負けを繰り返す。
打ちのめされることもあれば、何度も負けを繰り返す中で成功を勝ち取ることもある。

でも、世の中では、誰もが競争というのはトーナメントだと思い込んでいると述べられていました。
トーナメントは最後に勝ち残るということなので、勝ち残った人が総取りとなる。
これでは、社会保障の目的である「社会の発展」や「セーフティネットの真の意味」とは全く異なってしまいます。

トーナメントでは、負けた人が落ちこぼれになってしまいます。
本書では、落ちこぼれた人をたくさんつくってしまえば、支える側の負担は重く、コストは大きくなる
とも書かれていました。

セーフティネットの真の意味を正しく理解し、だれもが自由に競争でき、何度もチャレンジできる社会を維持すること。
福祉の仕事をする上で、忘れないようにしたいです。

転換期にある社会保障

本書では、社会保障の具体的な内容や予算規模、諸外国との比較などもわかりやすく書かれていました。
GDPの5分の1にあたる巨大市場ですから、その範囲はとても広いです。
マクロとミクロの視点で考えてもかなりの範囲になるので、それらについてはまたどこかで取り上げるとして、ここでは「転換期」をキーワードとします。

(本書より)
「転換期」にあるという自覚
現代社会は、日本だけではなく世界を見渡しても、大きな転換期に入っていると思います。これからももっといろんなことが変わっていくでしょう。転換期だということを認識して、国家も企業も、そして個人も、戦略や施策、生き方を考えなければならないということだと思います。

これを書いている今日は、まさに転換期。
新型コロナウイルスによる社会変革はものすごいスピード感ですし、社会保障のあり方も変化を問われるように思います。

本書では、北欧の成功を新たな成長モデルとして提案されていました。
具体的には知識産業社会への転換
ものづくりといった製造業モデルから脱却して、知識産業を中心とした産業構造の転換に成功した北欧を取り上げています。

知識産業とは、情報や教育、医療、福祉、コンサルティングなどのサービス労働や知的労働のこと。
相手の満足や評価によって価値が生まれるため、新しい成長分野の人材を確保するために、例えばスウェーデンでは職業能力開発や人的資源育成に重点を置いた政策を実行しているようです。

転換期ということは、社会が流動化しているので、労働市場は弾力的な必要があると書かれていました。
現在のように、失業者に雇用保険を給付するだけでなく、職業訓練を義務付けたり、積極的に人材育成することで、社会が良い方向に転換していくように思います。

まとめ

ぼくたち障害福祉の仕事は、社会保障制度の枠の中でお仕事させてもらってます。
本書で学んだ社会保障の基本的なことや理念、今後のあり方は、考えさせられることがとても多かったです。

特に、セーフティネットの考え方は勉強になりました。
障害のある人の地域生活や社会人生活を考えてみると、納得できることも多かったし、人々が自分の能力や可能性を最大限に発揮して自己実現する社会であり続けられるよう、ぼくも日々の仕事をがんばろうと思えました。

また、本書の一番最後にある「おわり」には、
「初めて社会人=公務員となった諸君に贈る言葉」が書かれていました。

・実態把握能力
・コミュニケーション能力
・制度改善能力

これら3つの力が求められると書かれていて、著者の香取さんの仕事に対する真摯さと熱量を感じとることができるすばらしい文章でした。
香取さんにお会いしたことはないですが、社会人の先輩として勉強になりますし、ぼくにとってはとても刺激的な内容です。

本書は、ぼくの中では結構気に入ってる1冊。
むずかしい内容も多かったので、何回も読むことで正しく理解できそうな気がします。

少し時間をおいて、また読みなおそうと思います。

 


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