経営者の独断でオフィスをつくると失敗する
新しいオフィスをつくるとき、従業員の意見をヒアリングしますか?それとも、経営者の独断で決めますか?
周りの話を聞いていると、従業員数やオフィスの広さによってもさまざまな印象です。どちらが正解とは言いません。ただ残念なことに、経営者の独断でオフィスをつくると失敗しやすい、というのが僕の体感です。
「よかれと思って」の落とし穴
なぜ経営者の独断でオフィスをつくると失敗しやすいのか。
経営者の趣味嗜好に偏りすぎ、というのはまず論外として。実は、「よかれと思ってやったこと」が従業員に刺さらないパターンが多いです。
たとえば、新しいオフィスにリフレッシュスペースをつくったとします。「ランチタイムにみんなでご飯を食べたいんじゃないか」「仕事の合間にリフレッシュしやすい環境を欲しているんじゃないか」というのが、経営者の立てた仮説。ところが、蓋を開けてみると全然メンバーが使ってくれない、という事態が起こります。
もしかすると、まだ新しい環境に慣れていないだけかもしれません。その場合は、リフレッシュスペースをつくった目的をしっかり説明したり、気軽に使いやすい雰囲気づくりをしていくことで少しは解消すると思います。
ただ、そもそも使う側にニーズがないのであれば、何をしたって暖簾に腕押し。たとえば、従業員は仕事中ずっと社内にいて、ランチぐらいは外で食べたいのかもしれない。リフレッシュスペースで休憩するよりも、自席で仮眠を取りたいのかもしれない。
事前のヒアリングを怠ると、このようなズレが生じてしまいがちです。
従業員に対して「こうなってほしい」という願望があれば、ある程度は経営者の独断でもいいと僕は思います。ただし、ヒアリングをせずに「きっと求められているはず」「最近はこういうのが流行っているから」と安易に決めるのは、非常に危険です。
ヒアリングは、課題やニーズを可視化するためのもの
正直な話、経営者としては「ヒアリングなんてやってられない」というのが本音でしょう。すべての意見を反映するのは現実的に不可能だし、どうせ応えられないなら最初からヒアリングしない方がいい。そう思いたくなるのはよく分かります。
でも、誰からも意見を聞かずに独断でオフィスづくりを進めてしまうと、つくった側と使う側との間にギャップが生まれてしまいます。
ヒアリングというのは、あくまで判断材料。そもそも、従業員の意見が多様であることは、悪いことではありません。
オフィスに関してどんな課題があって、どんなニーズがあるのか。経営者視点では気付けないことを可視化できるのが、ヒアリングの醍醐味です。
それをスキップして、「せっかくつくってあげたのに」「これだけお金をかけたのに」となってしまっては、まったく意味がありません。
費用対効果の高いところに投資をする。これはビジネスの鉄則です。オフィスだって同じこと。「お金をかけたんだから満足してよ」ではなく、「みんなが満足するところにお金を使う」べきだと僕は考えています。
従業員に、オフィスについて主体的に考えてもらうことが大事
そもそも、オフィスは経営者のためではなく、働く人たちのためにつくるものです。
従業員数が多くてヒアリングが難しいなら、せめてプロジェクトチームをつくり、各部から何名かずつ参加してもらって、現場の意見を吸い上げるべきです。
ワークプレイスのプロである僕ですら、自分の頭だけで考えていても「いいオフィス」はつくれません。メンバーの声に耳を傾けてこそ、間違いなく足りないものが見えてきます。そして、従業員一人ひとりが自分たちの働く場所についてもっと自分事化して向き合ってもらうきっかけをつくるべきだと思います。
たとえば、どんな立地なら営業活動や採用活動がスムーズになるか。どんなチェアを入れたら仕事のパフォーマンスが上がるか。こうした議論を従業員が積極的に行って、オフィスづくりに対して主体的に取り組むようになると、不思議なことに組織としてもどんどん強くなっていきます。こうした働きかけこそ、経営者が最も力を入れるべき施策だと思いませんか?
オフィスづくりは、組織づくりと一緒です。経営者の独断ではなく、みんなでつくっていくことを強くおすすめします。