(取材記録)被爆者代表から要望を聞く会 2023年8月6日 被爆二世・三世/在朝被爆者/黒い雨
毎年8月6日の原爆の日には、「被爆者代表から要望を聞く会」が開かれています。1年に1度、被爆者7団体の代表者と首相をはじめとする政府関係者がこの場で面会します。
「要望を聞く会」は政府側の考えを聞くことができる重要な機会で、新たな援護施策が発表されることもあります。
ただ、原爆の日は記事も飽和状態で、トピックがない限り「取材しっぱなし」になっていることがもったいなく、気になっていました。
(実際、黒い雨の本を書く時に地元紙含めテキストで残されているものがなくて本当に困った)
同じ要望でもタイミングや政権によって回答が変わることもあり、継続してチェックしていく必要性を感じています。
ということで、今年会場で取材し、書き起こしたメモをここに置いておきます。
できたら全文書き起こしたいところですが、取り急ぎ、
被爆二世・三世/在朝被爆者/黒い雨に関する部分、そして岸田首相のあいさつを掲載します。
被爆二世・三世について
被爆者側の要望
被爆二世・三世に関連した要望は、被爆者7団体がまとめた要望書の前文と、各団体からの要請項目にも盛り込まれました。
前文にはこうあります。
さらに、7団体中3団体が、被爆二世・三世に関連した要望をそれぞれ打ち出しています。
政府側の回答
【加藤勝信・厚生労働大臣】
被爆二世三世の方に関しては、これまで放射線影響研究所においてさまざまな調査が行われてきておりますが、親の放射線被ばくに関連した被爆二世・三世ともに健康影響があることを示すことを調査結果は得られていないところであります。このため被爆者としての援護施策の対象とする根拠となるものがない、と考えております。
また被爆二世の方へのがん健診の実施については親の被ばくによりご本人のがん罹患率が上昇するとの科学的知見も認められていないところであります。このため被爆二世健診へのがん健診の追加は考えておりません。 他方被爆二世の健康に対する不安の解消を図る、という観点から、昭和54年から被爆二世検診が実施をされているところであります。
なお、がん健診については各市町村が健康増進法に基づき、がん検診を実施していますので、ぜひそのがん検診を受診をしていただければ、と考えております。
厚労省としては、被爆二世・三世への施策については先ほど申し上げましたように科学的知見に基づいて対応していくことが必要と考えており、引き続き放射線影響研究所によって行われている調査、これを注視していきたいと考えております。
在朝被爆者について
被爆者側の要望
朝鮮民主主義人民共和国(通称「北朝鮮」)に暮らす被爆者(在朝被爆者)への支援を訴え続けてきた金鎮湖さんへのインタビューは、こちらをご覧ください。
政府側の回答
【林芳正・外務大臣】
本件は被爆者が放射能による健康被害を受けたという点で重要な人道上の問題であると考えております。政府としてはこのような認識の下で、厚労省、●●、関係省庁と●●一つ行っているところでございますが、現状の一つ一つを明らかにするということは事柄の性質上控えなければならないということにつき、ご理解賜りたいという風に考えております。
いずれにしても今後とも関係省庁間で緊密に連携して参ります。
また日朝間のやりとりの具体的な内容につきましては明らかにすることは控えますが、一般論として申し上げますと北朝鮮との間では北京の大使館ルートなど、様々な手段を通じてやりとりを行ってきているところでございます。
ただし北朝鮮への調査団の派遣などの形で、北朝鮮の在外被爆者への支援を進めることについては、北朝鮮を巡る情勢、そして日朝関係の現状を考えますと事実上困難な状況であるという点はご理解を頂きたいと考えております。
いずれにしても政府といたしましては、引き続き本件が重要な人道上の問題であることを踏まえ、厚労省をはじめとする関係省庁間で緊密に連携しながら適切に対応をして参ります。
「黒い雨」について
被爆者側の要望
「黒い雨」を巡る新基準と却下の状況についてはこちらの連載もご覧ください。
政府側の回答
【加藤勝信・厚生労働大臣】
次にいわゆる「黒い雨」に遭った方への対応として、昨年4月から運用を開始しております黒い雨に遭った方を被爆者として認定する個別認定指針に関するご要望についてであります。いわゆる黒い雨に関する令和3年7月の広島高裁判決を受けて、原告84名と同じような事情にあった方については、総理談話を踏まえ、判決の内容を分析した上で、救済の基準を作成し、訴訟外においても救済することとしております。
この「同じような事情」については原告84名全員が広島への原爆投下後の黒い雨にあわれたこと、また11類型の疾病を抱えておられることから、この2つの要件を被爆者健康手帳の交付要件としているところでございます。
これまで原告の方々が黒い雨に遭ったとする地域よりも爆心地に近い地域として、第一種健康診断特例区域が設定されているところでございますが、この区域内におられた方についても、健康診断の結果、11類型の疾病にかかっている場合に被爆者健康手帳の交付をさせて頂いているところであります。
こうした点を踏まえ、個別認定指針において、これまでの第一種健康診断特例区域の方と同様に、11類型の疾病を発症していることを被爆者健康手帳の交付の要件とさせて頂いているところでございます。
岸田文雄首相による終わりのあいさつ
まず今日、それぞれの皆さまからお話を聞かせて頂きましたこと、再度、厚く御礼を申し上げます。直接お話をお伺いし、広島長崎の悲惨な経験、決して繰り返してはならない、こうしたことを改めて、堅く決意をした、こうした次第です。ご要望頂きました項目について、今、厚労大臣、そして外務大臣からもお話をさせて頂きましたが、私からも基本的な考え方の部分について、重ねて申し上げさせていただきたいと思います。
唯一の戦争被爆国であり核兵器の非人道性をどの国よりもよく知る我が国は、非核三原則を堅持しつつ、78年前に広島及び長崎で起こった悲惨な経験が二度と繰り返されることがないように、核兵器のない世界に向けた機運を再び高めなければならない。そうしたたゆまぬ努力を続けていかなければならない。こうした立場にあることを改めて強く感じています。
いま、我々はロシアによるウクライナ侵略という国際秩序を揺るがす課題に直面するなど、国際社会全体が大きな課題に直面しています。 その中にあって、まず核兵器禁止条約の関係については先ほど外務大臣からお話をさせて頂きましたが、核兵器禁止条約、これは、核兵器のない世界を目指すにあたって重要な条約であることを申し上げさせて頂いてます。 ただ厳しい現実を、具体的に変えるために、核兵器国が行動をしないと、何も現実が変わらない、という厳しい現実を前にして、核兵器国……核兵器禁止条約には一カ国も参加していないわけですが、核兵器国を核兵器禁止条約にどれだけ近づかせることができるか。これが具体的な取り組みとして求められていることである、と思っています。唯一の戦争被爆国として、核兵器国にどのように関与させるか。核兵器禁止条約にどれだけ近づけさせるか。これが我々の国にとって、大きな責任ではないか。そのために具体的にどう進んでいくのか、こうしたことを申し上げさせて頂いております。 そのために、我が国は、本年5月に開催されたG7広島サミットで発出されたG7首脳広島ビジョン、これを確かな土台として取り組みを進めていかなければならない。広島ビジョンの中で、昨年私がNPT運用検討会議で発表した広島アクションプラン、これを実行していく、この大切さをG7で共有した訳ですので、この取り組みを現実的、実践的に進めていかなければならない。FMCT、CTBTですとか、こうした取り組みを進めていくことが我が国として大きな責任だということを申し上げさせて頂いています。
そして、この、被爆から78年が経過しました。被爆者の方々の平均年齢が80歳を超え、高齢化されている中、今日も皆さま方から色々なお話を聞かせて頂きました。また関係自治体からも、要望を頂いております。その中で、まずは原爆症の認定審査の迅速化。これについては引き続き取り組みを強化していかなければならないと思っています。
また、放射線影響研究所の広島大学への移転について、今年度より、施設整備について支援を行っているところであり、移転完了まで引き続き取り組むこと。また旧陸軍被覆ししょうの保存について政府として必要な協力を行っていく。こうした、この支援についても一層充実を図ってまいります。
また、今日もエネルギー政策についてご指摘を頂きました。まず、今、世界はエネルギー危機、歴史上はじめてのエネルギー危機といってよい状況にあります。一方我が国の未来を考える際に、電力をはじめとするエネルギー需要が倍増する、こうした現実もあります。その中にあって、我が国としてはエネルギーの安価かつ安定的な供給と、脱炭素、この両立をはかるために取り組みを進めていかなければなりません。
一方において、この資源が乏しい我が国において、単一の完璧なエネルギー、両立のための完璧なエネルギーがないという現実を前にして、多様なエネルギー源を●●く、活用していく必要があると思っています。
その多様なエネルギー源の中で、原子力発電については安全性を大前提に原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合において、なおかつ、国民の皆様の理解を得た上で、再稼働する。こうした政府の方針を説明させて頂いております。
今日色々なご意見を頂きましたが、核兵器のない世界の実現、また、高齢化する被爆者の方々が安心して暮らせる援護施策の推進、こうした基本姿勢は皆さん方と一致しているものであると考えています。
今後も核廃絶に向けて努力を重ねると共に、被爆者の方々への援護施策、そして、原子爆弾の悲惨な経験を次世代へ、国境を越えて伝えていくための取り組み。こうした取り組みについて、誠心誠意進めて参ります、ということをお約束させて頂き、今日の結びの言葉とさせて頂きます。
ありがとうございました。
(以上)
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