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ボクが見た音楽の世界 (6)

初めての指揮を終えた22歳のボクは、課題だったプッチーニの「ラ・ボエーム」の勉強に明け暮れていた。
パリを舞台にした、冬のお話だ。
めちゃくちゃいい話というわけではないが、音楽は素晴らしい。
まるで映画音楽のようだ。

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歌詞には、
"San Michele (フランス語だとSaint-Michel。セーヌ川に架かる橋の名前、及びその一帯。クスクスがおいしい店があり、よく行った。)"や、
"Quartier Latin (カルチェ・ラタン、ラテン地区。品のある&頭の良い人が多い地区。今使っている筆箱もここで買った。)" など、パリの地名が多く登場し、かつてパリにいた時を思い出していた。

それにしても、指揮を初めたてだったボクはめちゃくちゃ時間がかかった。
オーケストラも大編成なのに、歌人数も多いし、早口だ。
ピアノのソロ曲を練習する時間なんてなかった。

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悶々としていた中、ピアノの先生にある提案をされた。
「3ヶ月後に学内でオーディションがある。そこで選ばれたらオーケストラと共演できるんだけど、出る?」
ここで少し考える。
今まで一度もピアニストとしてオーケストラと共演したことなんてなかったから、是非やりたい。
でも勉強することは他にも山ほどあって、もし選ばれなかったらなんだか悲しい。
やることにした。

まず、オーケストラとピアノを弾きたい。
そして「彼はダブルメジャーだから、指揮もピアノもパッとしないよねぇ」なんて言われたくない。
この2つがモチベーションになった。
おそらく、想像上の劣等感でやる気が出るタイプだ。
ガチな劣等感だととりあえず凹んで、家に帰ってPS4のGTA5で暴れまくる。

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2次の審査ののち、結局選ばれた。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を弾くことになった。
ドイツのプロオケとだった。

ここで、ピアノ科と指揮科の先生から再び提案を受ける。
「せっかくだし、弾き振りで演奏しよう。」
指揮科に受かってまだ間もないのに、数ヶ月前までは考えられなかった。
もちろん、いつかはやりたいなぁなんてボンヤリと考えることはあったが、急に現実になってしまった。

初リハーサルまでに、何度も頭の中でシミュレーションをした。
道を歩いている時も、お風呂に入っている時も。
やはり音楽について考えている時が一番幸せだ。
そして楽譜を見れば見るほど、楽譜の向こうの世界のベートーヴェンが見えてきた(ような気がした)。
1mmでもベートーヴェンに近づきたかったボクは、散歩が好きだったベートーヴェンを見習って、散歩をたくさんした。

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↑家の裏山。多分開いているのは第3楽章。
   この曲の面白さについてはまたいつか書こうと思う。

初のオーケストラとの共演は弾き振りだったが、リードしてくださったコンサートミストレスに感謝である。
特に両手が塞がって指揮ができない時は、大事なパートと目を合わせながら演奏するのだが、手でごちゃごちゃやるよりも正直そちらの方がうまく行ったりした(当時の指揮のテクニック的な問題もあったが)。
第2楽章でクラリネットと正面を向かいながらメロディーを紡ぎあった時には、この曲を産んでくれたベートーヴェンに計り知れない尊さをビリビリ感じていた。

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↑曲の終盤。終わって欲しくない気持ちでいっぱいだった。

こうして、指揮科に入ってから刺激的な最初の一年は終わった。



〜ボクが見た音楽の世界 (6)| 弾き振り〜

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↑このコンサートが行われたドイツ・ベルヒテスガーデンの景色。温泉保養地。

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