ボクが見た音楽の世界 (5)
「来月のコンサート、振ってみないか?」
2015年12月、指揮を始めてまだ3ヶ月弱だった。
モーツァルト週間(Mozartwoche)
モーツァルト週間は、1956年から毎年ザルツブルクで行われている音楽祭。
モーツァルトの誕生日である1月27日の前後約2日間行われる。
毎年モーツァルト週間では指揮科クラスにコンサートが一つ割り当てられ、指揮科の生徒で曲を振り分けするのだが、そこでボクは魔笛序曲を指揮させてもらえることになった。
しかもコンサートの日はモーツァルトの誕生日である1月27日だった。
初リハーサルを迎えた。
あまりに緊張し、喉は乾き、足も震えが止まらない。
それでも引きつった笑顔で平常を装う。
しかし最初に通し終わってから、何から言ったらいいのかわからなくなり、混乱。
オーケストラに対して何一つ言えなかった。
幸い、学内オーケストラの生徒は温かい眼差しで見てくれたが、ボクは肩を落とす。
ふと後ろを振り向くと、ヴァイル先生はニヤニヤしながらこちらを見ていた。
そして先生から一言。「一番最初はそんなもんだ。でもそんなに緊張するなら、暗譜の方がリラックスできるよ。」
本番の日。
騙されたと思って、結局譜面台はどかしてもらった。緊張の波が押し寄せる。
楽譜のあるべき位置からふと目線をを上げ、演奏者達と目を合わせる。
皆が笑顔でこちらをみてくれている。
この時、一瞬で過度の緊張が解けた。
(初めての指揮を終えた直後の写真)
コンサートマスターをしてくれたフランス人の友人も、演奏中にありったけの笑顔を振りまいてくれた。演奏が終わってハグをした時も「Mec, c'était super! (よかったで!)」と囁いてくれた。
そんな彼は去年から27歳にしてフランス人初のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターになった。
こうしてボクの指揮の勉強が始まった。
ヴァイル先生のレッスンは怒鳴り声が聞こえてくるほど厳しく、その度に心が折れかけていたが、たまに投げかけてくれる「成長したな」の一声がいつも背中を押してくれた。
〜ボクが見た音楽の世界 (5) | 初めての指揮〜
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