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【しくじり企業】インド・タタモーターズ:20万円の格安自動車はなぜこけた?

2008年インドのモーターショーにて現地Tata財閥のTata Motorsが発表した20万円の超格安自動車(Nano)は衝撃と共に世界に報道され、自動車業界の革命が予感された。しかし、①マーケティング不足②内部体制の不備③性能・安全問題を解決する事ができず、ついに2018年に製造停止となった。世界を変えると期待された超格安自動車はなぜ失敗したのか詳細を説明する。



1. タタモーターズの超格安自動車Nanoとは?

アジアでは庶民の移動手段は自動車よりバイクが一般的である国がまだまだ多い。インドもその1つである。当時のタタモーターズ社長Ratan Tataは雨の中バイクに子供を乗せて走る家族を見て「彼らが安心・安全を確保する為にも、バイクと同等の価格で自動車を販売できないだろうか」と考えた。その願いを実現させるため開発されたのが約20万円の超格安自動車Nanoである。

エアコンなし・エアバックなし・CDプレイヤーなし等々とにかくコストカットを重視しつつも、乗り心地は決して悪くない。バイクとは違い家族4人が安全に移動できる自動車は中流階級未満の生活を一変させ、「People’s Car(人々の自動車)」として文字通り世界を変える予感を与えた。2008年現地モーターショーでの発表後、初年度25万台出荷の目標も様々な問題に直面する中解決できず、自動車業界に激震を与えたNanoは2018年ひっそりと生産停止となった。

日本語でのNano紹介動画もありますので、ご参考用に。
https://www.youtube.com/watch?v=oVCn2U1pWWY  

2. 失敗原因①マーケティング不足

20万円とバイク並みの値段を実現し、「世界一安い車」の看板を引っ提げて販売開始されたNanoであったが、皮肉にもそのキャッチコピーに悩まされる事になる。果たして誰が「世界一安い車」に乗っている姿を人に見られたいだろうか?(冷静に見ると、確かにダサいデザインだ)。読者の皆さんは高級車を購入する場合、恐らく自動車ローンを利用するだろう。トヨタも日産も、傘下にはローン会社を持ち、自動車販売とセットである。インドでも同じで、多少苦しくてもローンで自動車を購入する。或いは中古車で十分である。

自動車は単なる移動手段ではなく、心のよりどころであり、アンデンティティにもなりうるものである。必要最低限の装備に絞るという点は秀逸であったが、コマーシャルにおいてあまりに安価であることを強調してしまい、顧客の購買意欲をつかみ損ねた。

また、バイクとの比較でもNanoは苦戦した。使い勝手においてバイクと自動車の最大の違いは駐車場の確保である。格安自動車と言えど駐車場が必要であり、顧客の手間となる。さらに、例え初期費用は同等でも、自動車の維持費はバイクより高くつく。競合として比較するとNanoはバイクに見劣りした。

3. 失敗原因②内部体制の不備

Nanoのメインターゲットは中間層未満が多い農村部の顧客である一方、タタモーターズのディーラーは都市部に集中し、初動の遅れにつながった。
また販売網だけでなく、生産にも問題があった。当初Nanoはウエストベンガル州の新工場での生産が計画されていたものの、用地確保の段階で地元住民の理解を得られず、やむなくグジャラート州での生産に切り替えた。これにより、そもそもの生産開始が遅延すると共に、購入申し込み後の輸送に時間を要することとなり、販売の足を引っ張っるのであった。

4. 失敗原因③性能・安全問題

Nanoは当初「設計は簡素だが、普段使いとしては十分」な新しい市場切り開くはずであった。しかしインドのデコボコ道を走るには乗り心地と安定性が悪いとすぐさま悪評となった。また、家族4人で乗れるとの触れ込みに対して「3人でないと厳しい」との声もあり、性能面の不備が指摘され、ますます販売を落とした。

しかしそれ以上に決定打となったのは安全面である。販売の後、衝突時の安全性が国連基準を下回ることが判明。さらに販売開始2年間の間に原因不明の火災が複数件発生し、顧客の信頼性は下がる一方であり、最後まで汚名挽回することはできなかった。

5. 現在のタタモーターズ


Nanoは失敗に終わったものの、タタモーターズはまだまだ健在である。タタ財閥の一角を担い、全世界での売上は4兆円。民間者・軍用車に加えて電気自動車も販売中である。
Raman Tataはインドを代表する名士であり、インドビジネスを担当した人は1度は聞いたことがあるでしょう。

イーロンマスクもNanoについて「誰でも自動車を買える、というコンセプトは素晴らしい」と発言しています。元々は「雨の日バイクに子供を乗せざるをえない状況を変えたいと思った」という人道的動機が始まりであり、タタモーターズにはその経脈が受け継がれています。タタモーターズにはこれからも顧客と真摯に向き合い、さらなる成長を期待します。

イーロンマスクインタビュー動画
https://www.youtube.com/watch?v=OZDpmczSHjI  

参考文献
https://gomechanic.in/blog/tata-nano-what-went-wrong/
https://www.flop2hit.com/insights/tata-nano-failure/

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