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【しくじり企業】米セラノス:シリコンバレー最悪の詐欺会社

概要
シリコンバレーのTheranos(セラノス)と聞いてピンとくる日本人は少ないと思うが、アメリカでは知らない人はいないシリコンバレー市場最悪の詐欺会社である(日本でいうとライブドアと小保方の合体版といったところだ)。

2004年エリザベス・ホームスはスタンフォード大学を退学して医療ベンチャー:セラノスを創業。指から採取した少量の血液で100種類以上の検査を数分で完了するという革命的技術により、一時は時価総額1兆円近くまで達する。シリコンバレーに現れた女性起業家は瞬く間に「次のスティーブ・ジョブズ」としてスターになるも、そもそもこの新技術自体が嘘であり、経営陣にも種々の問題が多発し、ついにホームスは2018年詐欺罪で起訴されたのだった。

こちらは現地の「ホームスは今どこに」特集。カメラで追いかけまわしてなんともひどい扱いである。

1. セラノスの歴史と凋落まで

エリザベス・ホームスは裕福な家庭に生まれる(父親は元エンロン副社長、母親は議会スタッフ)。高校では中国語を勉強し、スタンフォード大学化学専攻に進んだ才女。学部生ながら大学院レベルの研究を行い、2004年医療ベンチャー・セラノスを起業。指から採取した少量の血液で100種類以上の検査を数分で完了するという革命的技術により、同社は一時は時価総額1兆円近くまで達した。一般に医療ベンチャーは博士号取得者が中心にビジネスを行うTechnology-Oriented(技術中心)であるが、セラノスは学部2年生による創業と異色な存在であった。

そして実際、ホームスは優秀な学生ではあったものの、医療分野の知識はなかった。部下から技術面で疑問を受ければ「チームプレイヤーではない」と解雇する始末。
そもそもこの技術が嘘なのでツッコミどころは満載だが
 ・検査用に指から採取すべき血液量が決まっていない
 ・FDA(アメリカ食品医薬品局)の許可を受けず医療行為(血液採取)を行い、警告を受けるも無視。
とハチャメチャである。

モラル面でも問題は発生。実際のがん患者に対してセラノスの検査キットが使用される際、従業員から臨床用途には時期尚早との警告あるも、ホームスは業務命令として押し通すのみ。最終的には嫌気がさして離職するものも多数発生。

全く中身が伴わない会社でありながら、ホームスは天才的ペテンにより投資家から資金を確保し、時価総額は1兆円にまで到達。しかし、2015年ウォール・ストリート・ジャーナルが元従業員への取材よりついに、上記の事実が明るみに出る。以降セラノスとホームスは坂を転がり落ちるように転落し、ついに詐欺罪で告訴されるのだった(現在も裁判中)。

2. 教訓:人生に一発逆転はない


セラノスは常識を覆す新技術でシリコンバレーのスターに躍り出ました。触れ込み通りの血液検査技術が本当に実用化されれば、世界の医療体制がどれほど改善されたでしょう。
ここで理系出身者は共感してもらえると思いますが(私も化学系修士卒です)、科学研究は非常に地味な毎日です。先行論文を目を皿にして読み、毎日実験室で試験管を振りながら観察する。そんな地味で絵にならない毎日を過ごしても、完成するのは「革新的論文」ではなく「先輩より少し改善しただけの論文」である。数多の研究者によるそうした地道で気長な活動を通じてようやく現在の文明が完成したのであり、ある日急に世界を変える発明などあろうはずがない。最近インターネットや出版界隈では「常識外れの裏テクニック」やら「古い価値観を捨てて人生をハックしよう」やらバカげた記事が目立つが、はっきり言って地道コツコツ以外に世界を変える方法はない。

セラノスに話を戻すと、もしホームスが医療分野で世界に貢献したいならば、大学できちんと勉強し、専門家とのネットワークを構築するべきであった。「自分には特別な才能があり、年上の学者たちができなかったことができる」などとホームスが考えていたのかは分からないが、もしそうであればあまりに学問を軽視した態度である。

読書の皆様においても、もし自分の境遇に何か不満があるとしても、一発逆転など狙わず(ましてやそれをうたう怪しげな情報商材に騙されず)毎日を丁寧に、必要なことをコツコツ継続することを推奨する。

参考文献


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