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ギャンブリング障害(ギャンブル症)のリスク要因

Moreira D, Azeredo A, Dias P. Risk Factors for Gambling Disorder: A Systematic Review. J Gambl Stud. 2023 Jun;39(2):483-511.から

 「ギャンブル依存症は誰でもなりうる病気です」という主張がしばしば行われる。どんな病や障害も誰でもなりうるといえば、その通りなのだが、他の病気や障害と同様、いわゆるギャンブル依存症にはリスクの濃淡があることが繰り返し報告されている。いわゆるギャンブル依存症の50%程度は遺伝要因で説明され、候補遺伝子もまあまあ特定されている。
 そのため、ギャンブリング産業による負の影響への対策として、①プレイヤーではない一般の人たちへの予防や啓発、②一般のプレイヤーに向けた啓発や教育、③潜在的に問題化しやすいプレイヤーの同定、④潜在的に問題化しやすいプレイヤーへの啓発や教育、問題化防止のサポート、等が重視されている(https://note.com/s96hige/n/n50b12fa8633a

 以下は、成人のギャンブリング障害に関連する危険因子を調べた33件の研究をまとめたもの(Moreira D et al, 2023)。ただしこうした研究はアンケート型の調査に基づくもので、そこで使われた調査尺度は現在のWHOのICD-11の診断要件から見ればギャンブリング障害だけを抽出したものではなく、その10倍以上になると思われる「危険な遊び方(hazardous gambling or betting)」を含むものである点は注意が必要である。
 とはいえ、ギャンブリング障害(gambling disorder、WHO2022)の必須要件である「ギャンブリング行動のコントロールが障害されている」「ギャンブリング行動が他の生活上の出来事より優先されている」「ネガティブな事柄が続いているにもかかわらず継続またはエスカレートしている」の三要件「すべて」を満たし、かつ他の精神的な障害では説明できず、個人、家族、社会、教育、職業など重要な領域で顕著な障害や苦痛が生じている場合、までには至らない段階(危険な祖び方、あるいはその前の段階)から予防対策が必要なことは自明なので、以下のリスク要因を伴う人は、ギャンブリング行動のコントロールを失いやすい、ギャンブリング行動の優先度が上がり他の生活上の重要な事柄を無視しやすくなる、良くないことが続いてもギャンブリングを継続またはエスカレートさせてしまい、個人、家族、社会、教育、職業など重要な領域で顕著な障害や苦痛が生じやすいことは自覚する必要がある。そして、上限を決めて遊ぶ、自由に遊んでいいとき遊ぶ、周囲に隠さず遊ぶ、負け追いをしない、などを特に励行していく必要がある。
 それがうまくいかないなら、RSN、ワンデーポートなどの電話相談を利用したり、自己申告プログラムや家族申告プログラムを利用したり、とくに借財問題が生じたら速やかに貸金業協会の電話相談を利用したりすべきであろう。
 以下はギャンブリング障害のリスク要因。これらは投資関連のリスク要因にもなりえます。

デモグラフィックス

男性、若い、独身または結婚5年未満、一人暮らし、教育レベルが低い、
経済的に困難。

人間関係

家族や社会的関係において大きな困難を抱えている(Cowlishaw et al.)
片親(Buth et al., 2017)
依存症問題のある両親(Buth et al., 2017; Cavalera et al., 2017; Hing et al., 2017)のもとで育つ。

心理、精神疾患関連

高いレベルのストレス(Hing et al.、2017;Wong et al.、2017)、
高いレベルの衝動性(Browne et al.、2019;Dufour et al.、2019;Gori et al.、2021;Jiménez-Murcia et al、 2020; Flórez et al., 2016)、
認知の歪み(Black & Allen, 2021; De Pasquale et al., 2018)、
不安(Fluharty et al、 2017)、
統合失調症(Bergamini, 2018)、
双極性障害(Bergamini, 2018)、
うつ病(Bergamini, 2018; Black & Allen, 2021; Dufour et al., 2019; Fluharty et al., 2022; Landreat et al., 2020)、
アレキシサイミア:失感情症(Bibby & Ross, 2017; Gori et al、 2017)、
物質使用障害(Bergamini, 2018; Buth et al., 2017; Butler et al., 2019; Browne et al., 2019; Cowlishaw et al., 2016; Flórez et al., 2016; Fluharty et al., 2022; Hing & Russell, 2020; Hing et al., 2017; Rodriguez-Monguio et al., 2017)

 ギャンブリング障害の7割程度にはこうした併存障害があることが知られている。発達上の問題をともなうケースも指摘されており、そのような場合には、ギャンブリング問題に焦点をあてるよりは、併存障害の治療であったり、生きやすさのための生活サポートや環境整備が優先課題になる。
 この場合には、自分の考え方や行動のクセのようなものを学習し、その対処をシミュレートするといった認知行動療法や、人生の棚卸をするといった宗教的な懺悔を伴うような方法が困難になりやすい。個々人の事情や生活歴を考慮した福祉的なサポートがだいじになる。

ゲームの種類

複数のゲームをプレイし、ギャンブルのセッションが長い(Cavaleraら、2017;Hingら、2016a;Hing & Russell、2020;Jiménez-Murciaら、2020)。

複数種のギャンブリングの併用はリスクとなりやすい。また重症化要因にもなりやすいので、ギャンブリングの単種化が予防的に重要である。

以下は冒頭の論文で指摘されたコロナ禍での問題。

COVID-19の大流行

オンラインギャンブラーはギャンブル性を高め(Bellringer & Garrett, 2021)、ギャンブル行動の問題を抱える人々の心理的・社会的影響を悪化させている(Håkansson et al., 2020; Yayha & Khawaja, 2020)。
保護因子となる構造化された日常生活が失われたこと(Yayha & Khawaja, 2020)、
退屈の増加(Fluharty et al., 2022; Lindner et al., 2020)、
抑うつや不安の高まり(Fluharty et al., 2022)、
経済的困窮(Price, 2020; Swanton et al., 2021)
が要因か。

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