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マインドコントロールですか。これ脳をどういう機構と見るかで、話がだいぶ違ってきます。


 いわゆるマインドコントロールは学術的に確立した概念ではないと思います。たとえばGoogle Scholarで「マインドコントロール」を調べると、社会的に話題になると比較的速やかに著作をあらわされる精神科医の方の書籍、社会学者のマインドコントロール言説批判、社会心理で西田先生の一連の論文が出てきます。西田先生のものが有名だと思いますが、これも「ビリーフの形成と変化のメカニズムについての研究」で、マインドコントロールを特異なものとしては扱っていません。PubMed(医学データベース)で調べてもマジシャンの注意など心理操作の論文が出るくらいです。

 しかし、世の中では広く認知され、普通なら正しく(常識的に)認識するはずなのに、なぜおかしな認知をしてしまうのか、だまされるのか、そこに、心理的操作の主体と方法を見出していきます。普通は正しく認知するはずの脳がなぜおかしな認知をするのか、「誰それら」が「~の方法」で「操作している」からだ、というわけです。

 しかし、深層学習(AI)が実装化され、脳の計算論が美しい結果を出し続けて以降、脳はサプライズ(誤差みたいなもの)最小化を目指し、自己組織化する仕組みと考えられるようになってきています(自由エネルギー原理、大統一理論)。つまり脳は知覚器ではなく予測器で、予測モデルと知覚の誤差を最小化する。知覚も変えていく。
 したがって、たとえば周囲で不幸な出来事(自殺、若死、事故、障害など)が起きれば、そのサプライズを最小化しうる理由(仮説)を求める。このとき理由を考える主要なリソースはワーキングメモリ(作業記憶)で、その容量は無限ではなく、せいぜい「あれ」「これ」「それ」くらいに制限されている。しかもストレス下ではこの容量はさらに制限を受ける。特に神経症傾向(敵意、不安、うつ、衝動性、自意識、傷つきやすさ)が強いと。

 このとき、~のせいで~となった、だれそれの陰謀で~となった(陰謀論)、先祖の因縁で~がおこった、サタンだ、神のご意思、は容量制限を受けた脳にしっくりくる説明になる。「あれ」「これ」「それ」で間に合うロジックだから。そして、神に尽くすために、先祖の因縁を払うために、イブはアダムに尽くす、影の組織と戦う、などは今後の行動でのサプライズ最小化につながる。
 しかし、これは、ある宗教とかカルトとかに限った話ではなく、南無阿弥陀仏さえ唱えれば、とか、修行して悟れば、とか、風水が示している、とか、占いで、とかと原理的に変わる認知方式ではない。テロルだって、拡大自殺だって、党派性だって、科学という方式への信奉だって、あるいはカルトのマインドコントロールによってこうなったという説明だって、こくんと落ちる説明様式を求める点では変わらない。
 一昔前の言い方をすれば、みな共同幻想。認知のフレーム問題。二値的感情と結びついた幻想。
 ま、それでも、共同幻想として比較的強固な法や常識との軋轢(乖離)をさけるというサプライズ最小化を目指すなら、気を付けたほうがいいことはある。ストレス下での目からうろこのような説明様式には一度眉唾しよう。恐怖とセットの説明はワーキングメモリの容量をさらに制限するから気を付けよう。徹夜状態や睡眠不足はドーパミンの分泌が増し、使命感や意義を感じやすくなるので注意しよう。人の脳はサンクコストを計算してしまい(ここまでやったんだからもうやめられない、損切りできない)、過去の行動を肯定してしまうので、むずかしいけれどサンクコストを無視することもしてみよう。二者択一など何らかの選択をすると、選択しない方の選好度が下がるので、選択は重々注意して。人は三方向から同じような情報が来るとワーキングメモリの容量限界によって信じてしまうので、特に違う集団から情報をとるようにしよう。

 また自分の行動の乖離度合いを見るには、行動嗜癖のICD-11基準(いわゆる依存症規準)が目安になります。①その行動がコントロールできない②その行動が他の人生の関心事や日常活動よりも優先されるほど、その優先順位が高くなる③否定的な結果(その行動による夫婦間の対立、繰り返される多額の金銭的損失、健康への悪影響など)が生じているにもかかわらず、その行動が継続または拡大すること。このすべてが当てはまり、「その行動のパターンにより、個人、家族、社会、教育、職業、またはその他の重要な機能分野において、自身や周囲に重大な苦痛または障害が生じている」。これすべてが12か月続き他の障害で説明できなければ嗜癖障害レベルで、このうち一つでも当てはまればHazaudousな行動だそうなので、まあご注意ください。   

 いまのところ科学という方式(仮説、検証、仮説、検証のサイクルを止めない疑り深さ)が長期的に見たサプライズ最小化の最良の仕組みなので、ま、科学的な知識ではなく、科学的な検証の方式を信じたほうがいいとは思います。
とかなんとか。

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