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【映画】"歳を取ると若返る"はおまけ要素。1人の男の生涯を静かに辿る『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

「辛いことがあっても、人との別れがあっても、生きるのが苦しくても、人はなぜ生きていかなければならないのか?」
そんな問いに説得力を持って答えられる映画があるとしたら、この『ベンジャミン・バトン』だと思う。

みんな大好きデヴィッド・フィンチャーが描くのは、歳をとるごとに若返っていく男の、文字通り"数奇な人生"。なのにファンタジー感はまるでない、リアリティのある濃厚な人間ドラマ。

ヒロインのケイト・ブランシェットを始め、これが映画デビュー作のマハーシャラ・アリにタラジ・P・ヘンソン、エル・ファニング、ティルダ・スウィントンといった豪華俳優陣の中でも、やっぱりブラピの演技は抜きん出てた。ブラピはやっぱりすごい。オスカー獲るまで30年以上かかったのとかマジかよってくらい良い演技いっぱいしてる。

物語自体は、"歳をとるごとに若返っていく"部分がクローズアップされているものの、ブラピ演じるベンジャミン自身は案外人並みの人生を過ごしているので、そんなに悲壮感的なものは無かった。周囲の人がとにかく良い人達ばかりだし、いじめや差別を受けるような描写もないし、想い人がいながら、付き合った人数忘れる程度にはそれなりに恋愛してたみたいですし、"若返っていく"設定が無ければ、実は結構平凡な内容で、切ない話ではあるけれど、最後まで感情移入しきれなかった。

"美人ではない人妻"とのロマンチックなシーンも、その前に売春宿で雑に童貞捨ててるからどうにも純粋に感動できないし、そもそも不倫やんっていう。

運命の出会いの相手と再会しても性格変わっててすれ違っちゃう切なさとか、人生の喜びを教えてくれた人との悲しい別れとか、中盤で多少盛り返してはいたけど、終盤の"バレエ教室で再会"の辺りは一気に冷めた。父親になれないよ→失踪のシーンから身元不明少年保護の間のシーンはカットで、絶対に良かった。

愛する妻と娘を残してやってたことが、世界を好きに旅してたって...。結果的にはこの選択は良かったと語ってるんだけど、結局父親になる自信がなくて黙って姿を消したって、それは普通に無責任すぎやしないですか?
そこに二度と合わないっていう覚悟があったのならまだ理解はできたのに、その後にひょっこり戻ってきて、既に新しい家族がいたヒロインとまた寝ちゃうって...それは絶対に違うやろ...。そんなことしちゃうなら、失踪したのはマジで何やってん!ただの自分探しの旅やんけ!

...この辺は圧倒的に蛇足。あそこで個人的には評価が一気に下がりました。

若返りという設定が一人歩きしてる分、主人公の案外ノーマルな人生模様には少々肩透かしを喰らいましたが、むしろ若返る設定うんぬんは大して重要じゃなく、人間がこの世に生を受けて、色んな人と出会い、愛する人を愛し、時には別れ、やがて平等に訪れる死までを丁寧に描くことで、人生における大切なことをいくつも教えてくれる、そんな作品だという印象を強く受けました。

泣けるようで泣けない、でもハッと気付かせてくれることがある、なんとも不思議な人間ドラマ。ブラピの名演ともども、ぜひ一度は見てほしい作品です。

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