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こういう企画なら絶対にハズれない!?

原稿執筆のお声かけをいただくと心が弾みます。
私は「書くものに一貫性がない」
「ジャンル分けしづらく読者ターゲットが絞りづらい」
「一般受けせず評価が極端に分かれやすいので売りづらい」
と敬遠されがちですので、なおさらです。
「ああ、色覚検査のあの数字が見える人がいらした」と嬉しくなります。

とある属性の人だけが見える、色覚検査表の数字

何年前でしょうか。お声がけをいただいたあの時も、私の心は弾みました。(※一部、内容を変更しています)。

「あなた、こういう雰囲気の物語を書いてみませんか?」

ひとけのない道を走る一台の車。ここから始まる物語は幻想譚でしょうか、怪奇ストーリーでしょうか。

「いえ、僕としてはミステリー小説にするのが良いと思うのです。幻想譚や怪奇物は読者を選びますが、ミステリー小説には広い需要がありますから」

読者ニーズに合うものを書くことは、私にとっての重要課題です。あらゆる物語には何らかの謎や秘密が含まれていますし、ミステリー小説の定義は広くなっています。本格推理小説として売るのでなければ、私が書く「ミステリー風」でも許容されるでしょう。

「それと、現場捜査のシーンは必ず入れてください。警察ネタは人気がありますから」

警察小説を書くのではありませんし、物語の雰囲気を感じさせる一要素として含めるだけなら、大丈夫でしょう。事故被害者や身元引受人として警察と関わったことがありますし、取材がてらに警察の飲み会に参加させてもらったこともありますから、個人情報に配慮すれば、その時のことを参考にしても許されましょう。

「主人公はスーツの似合う若いイケメンにしてください。スーツかタキシード。そのほうが実写化を狙いやすいですから」

実写化した場合を想定して企画を立てることは、よくあります。イメージしやすいよう、具体的な俳優名を編集者さんが挙げることも、ままあります。実写化されたとしても、その俳優さんが配役されるとは限らないのですが。
それはそうと、主人公は「スーツの似合う若いイケメン」ですか……。手垢感がすると申しますか、ありきたりすぎる設定に感じるのですが。

「それをクリエイティブの世界では『王道』というのです。主人公にはギャップ萌えな一面を持たせてください。イケメンだけど裁縫が得意とか。ギャップ萌えは女子にウケますから」

ミステリー好きで警察ファンでイケメンにギャップ萌えする女性読者……。
「女性向け」に特化したものが不得手な私には、少々ハードルの高い条件付です。

「あと、可愛い動物を必ず登場させてください。猫が良いかと。今の日本で一番売れているのは猫グッズですから」

猫好き読者も想定しなくてはならないのですか!? なんだか企画の方向性が見えづらくなってきたのですが。

「なぜそう複雑に考えるのです? 極めてシンプルなストーリーですよ。郊外の一本道で車が事故を起こす。警察が現場検証をする。イケメン主人公が登場する。サイドストーリーで主人公のギャップ萌えを描く。ときどき猫を登場させる。ね? シンプルでしょう」

まあ、それはそうですが……。

「読者ニーズに合うものをいかに書いていくかが、あなたの課題ではなかったのですか? 僕が提案している企画は、ニーズのある要素を複数パターン盛り込んだものです。ミステリー好き、警察ファン、ギャップ萌え女子、猫ちゃん好き。必ずどこかの層に刺さります。これこそが企画をハズれさせないコツです」

編集者さんはそう仰り、いくつかの成功例を挙げられたのでした。

そして悩むこと数ヶ月。試行錯誤を繰り返しながら書きあげた原稿をお渡ししたところ、「なんでこんな内容になるんですか……」と落胆されてしまいました。

「あなたはゴーストライター出身でしょう? 編集者が企画したとおりに書けるはずでしょう?」

ちょっとショックでした。お声かけいただいた理由は、それだったのかと。

ゴーストライター出身とは申しましても、小説のゴーストライティングはしたことがありません。「とある個人の人生」をヒアリングして代筆することと、「とある個人が作りたい企画」を代筆することは、まったく異なります。「とある個人が作りたい企画」はその人にしか作れないのですし、その人自身が作らないと意味あるものにならないのです。

そうしないと、こんな内容になっちゃうのです┐(´д`)┌

郊外の一本道で車が事故を起こし、警察が現場検証をし、スーツやタキシードの似合う
イケメン主人公(裁縫好き)が登場、ときどき猫も顔を出すミステリー小説のイメージ


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