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【掌編】圏外にて

 飛べない鳥だろうと泳げない魚だろうと想いの総量に変わりは無い。そう思っていた。でも実際は空駆ける鳥でどこまでも深く潜れる魚で、それでいて感情が理屈より速い事を体現する弾丸でもあった。
 弱く脆いくせに被弾した胸から迸る熱は恍惚を呼んだ。撒かれた土にも弾痕の創傷にも幾つもの花が咲いて散った。あり得ない瘡蓋に今でも生かされている。そう思っている。

 ずっと反響に耳を傾けるだけで良かった。心地良く期待通り故に暗示めいた余韻に酔えた。だけど呼応がくれる幸せを知って爪を立てて抉る事を覚えた。傷付ける事と癒える事を恐れながらも行使した。罪悪感を燃料とする松明で進むべき道を照らしてきたから、愛を騙る傲慢さを振り翳した事だけ悔やんでいる。
 掻き消えて青に溶けるか或いは、空に撒かれて星彩に混じって瞬くのが夢だと言ったら笑うだろうか。だって肌色の肉塊に成り下がるぐらいなら、想像した時に真っ先に思い浮かぶ至上の青でありたい。飛べない鳥だろうと泳げない魚だろうと代わりなど無いから君が君であるために最善を尽くしたい。それが頼りにしてきた松明をこの身に押し当てる事であっても、うまく燃えて灰になれれば夢も叶うだろう。
 咲いて散った花は土に還った。もう置いて行きたくなどない。だから願わくば、の後に続く言葉に代わるものが見つかりますように。それが叶って纏えればきっと瘡蓋を隠して元に戻れる。

 今はまだ旅の途中。