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幸せに働くことについて事例考察


0.当noteについて

ベネッセ ウェルビーイングLabが募集している「#ウェルビーイングのために」というテーマについて、
「働く」という視点で、過去に事例考察した内容を投稿する。
当投稿内容は、大学院の授業にて提出した内容を一部改変したものである。

当企画を主催しているベネッセホールディングスは、人的資本経営コンソーシアムに参加しており
2023年10月、つまり、つい先日発表された好事例集にも
事例-19として、ベネッセによる人材に対する取り組み事例が紹介されている。
詳細については下記リンク先をご参照頂きたい。
人的資本経営コンソーシアム 好事例集(PDF形式:10,751KB)

ベネッセの人的資本経営における取り組みとして、ウェルビーイングというキーワードは上記PDFには登場していない
これは、当投稿募集企画からも読み取れることであるが、ベネッセが意図しているウェルビーイングというのは「お客様」つまり、ベネッセにとっての顧客の幸せを考える、という前提があるからであろう。
それは、教育と福祉を事業領域とするベネッセにとっては至極当然のことであると言える。

しかしながら、お客様の幸せは、サービスを提供する源泉である従業員の幸せから沸き起こるものではないだろうか
そういった点に着目した際に、ベネッセでは人的資本経営として、従業員のエンゲージメントにも注力をしており
従業員のワーク・エンゲージメントが、従業員のウェルビーイングへと繋がり、ひいてはお客様のウェルビーイングとなる、このようなロジックで考えればシックリくるであろう

ワーク・エンゲージメントという言葉に耳馴染みの無い方向けにご説明すると、エンゲージは良い具合に噛み合うという意味があり
人と人とが、良い具合に噛み合ったエンゲージが「結婚」である
つまり言葉の意味としては仕事とエンゲージした状態と思い描いていただければ良い。
(「結婚なんてそんな良いもんじゃない」とか「え?仕事と結婚って社畜やん」という大人の意見はご容赦を)

以下、仕事に取り組む私達一人ひとりを主語として、主体的に仕事に取り組む姿勢(内発的動機づけ)と、ワーク・エンゲージメント、そしてウェルビーイングを関連付けながらご参照頂きたい。


1.はじめに

「組織行動論」に先立って受講した「人材・組織のイノベーション論」にて、外部講師として登壇頂いたカゴメ株式会社のCHRO・有沢正人の講義について、
「組織行動論」で学んだことを踏まえ改めて復習することで、内発的動機づけという観点で新たに様々な気づきを得ることができた。
以下にカゴメにおけるリーダーシップ、人事制度、働き方改革の3点と内発的動機づけの関わりについての実践例と特徴や効果を記述する。

2.リーダーシップと内発的動機づけ

気づきを得た点の1つ目は、リーダーシップと内発的動機づけには密接な関係があるということだ。講義の冒頭で、受講者に向けて真っ先に投げかけられたのは「人が挑戦するには、何が必要か?」という問いかけであり、そして「他者に指示(強制)されるものは、挑戦ではない。挑戦は、自分で決めて、コミットするもの。」と続く。有沢は“挑戦”と、その為の“自己決定”を重視しており、自己決定のためには①心理的安全性、②モチベーション、③コミットメント、この3点が必要であるとしている。また、経営の最重要ミッションは人材育成であり、人材育成とは従業員の市場価値を高める事とし、前述した個人の挑戦へのコミットと、組織の人材育成の両方が合わさって、従業員のエンゲージメントにつながるとした¹⁾。
一方で鳥井(2009)によると「自己決定理論は、はじめは、最終的な結果につながる内発的動機づけを高めるにはどのようにすればよいかという観点から研究されてきたようであるが、現在では、その重点は心理的なウェルビーイングであり、幸福感にある。」²⁾とされている。自己決定は内発的動機づけを高めるための手段のみならず心理的ウェルビーイングに繋がり、ウェルビーイングは有沢が自己決定に必要とした3つの要素に一定程度の影響を与えると考えられる。これらの要素は相互に影響しあい、一度好循環が始まると、互いに高め合うスパイラル的なエンゲージメントの向上に繋がるのではないだろうか。では、その好循環のきっかけはどのように始まるのかというと、有沢はマインドの変革は下に押し付けて初めてはならない、トップが規範としてはじめるべきであるとして、自身も含めたトップマネジメントが率先して挑戦に向けた自己決定を行っている事が印象的であった。内発的動機づけ、自己決定、心理的ウェルビーイングが相互に影響しあうことで、従業員のエンゲージメントを高めることにはなるが、各従業員の自律性を組織が阻害しないのは当然の事として、阻害さえなければ自然発生的に好循環が生まれるという事でも無い。この点についてカゴメの例では、トップのマインド変革が好循環のきっかけとなっている。
有沢はカゴメの人事トップとして、具体的に以下の挑戦を行ってきた。「経営としての覚悟を持つ(自分がやる!と決める)」「巻き込み、引き出す(最高責任者のコミットメントを引き出す)」「あるべき未来の“理想の働き方” から考える」「何を重んじ、何を評価するかを明示(職務評価指標への大転換)」「トップの思考と挑戦を見える化(全役員/管理職のKPIを全社公開)」「全役員/管理職が漏れなく“ダブらせて”目標設定する場づくり」³⁾、これらの挑戦行動は、模範的リーダーの「5つの実践指針」⁴⁾そのものである。すなわちリーダーシップは、従業員の内発的動機づけをスパイラル的に高める変数であるのみならず、好循環をスタートするための有用なアクションでもあることが示唆される。

3.人事制度と内発的動機づけ

気づきを得た2点目としては、カゴメの人事制度においても、従業員の内発的動機づけを高めるための特徴があるということである。カゴメでは有沢の入社した2012年以降、旧来の人事制度を廃し、職務等級を中心とした“ジョブ型人事制度”をグローバルに導入する過程にある。ジョブ型と一言にいっても単なる能力主義ではなく、ジョブグレードの対象範囲は総合職コースの管理職層および海外(欧米豪)子会社としており、一般職については引き続きメンバーシップ型が中心なっていて、どのように見直していくかは検討中となっている⁵⁾。これはスティーブン(2009)が、動機づけは文化に左右されるものであり、文化を超えて移転する場合には、注意が必要であるとしている事⁶⁾とも整合性が取れており、長い時間をかけて日本の文化、カゴメの文化に適合する形を模索してきた結果であると言えるのではないだろうか。
カゴメにおける人事制度改革のポイントは’ Pay for Job’,’ Pay for Performance’,’ Pay for Differentiation’とし、そのために実現すべき事の1つとして「社員の納得感の醸成とモチベーションの向上」が掲げられており、人事制度改革においても内発的動機づけを高める事を積極的に目指している事が見て取れる。また、実現すべき事の1つとして「各ポジションごとのミッション・アカウンタビリティと処遇の関係性の可視化(原文ママ)」も掲げられており⁷⁾、こちらについては直接的に内発的動機づけを高める事柄ではないが、前述の通り自己決定理論に従えば、内発的動機づけを間接的に高める事につながる。

4.働き方改革と内発的動機づけ

 気づきの最後である3点目として、カゴメの働き方改革と内発的動機づけの関係である。カゴメはただ単に「働き方改革」を標榜しているだけでなく、従業員1人1人の「暮らし方改革」も合わせて掲げている。そして、この「働き方改革」と「暮らし方改革」の先として、全ての人がイキイキと働くことは、最終的に「生き方改革」へ繋がるとしている⁸⁾。
これらを1つ1つ見ていくと、「働き方改革」については従業員の労働生産性向上に向けた取り組みとして、時間・キャリア志向・場所の3つの軸で言葉の通り働き方の改革を進めている。スティーブン(2009)は生産性が職務満足度を高めるとしており⁹⁾、カゴメの「働き方改革」は職務満足度を高める働きをしていると考えられる。また、人事制度改革が目指す先として、次のような繋がりをもって展開されている。①「⾃分の価値感に応じた、多様な働き方が選択できる(原文ママ)」、②「一人一人が自分のキャリアを自分で決めることができる」、③「会社と個人がフェアで対等な関係となる。そして、共に価値を生み出すパートナーへ。」¹⁰⁾、このロジックというのは、内発的動機づけを高める自己決定理論の実践例であるといえよう。
次に「暮らし方改革」について見ると、従業員自らが働く場所を選べる「転勤回避制度」と「配偶者帯同転勤」を整備しており、使用できる回数に一定の制限があるものの辞令を覆せるほどの強制力があるということである。この制度の根底にあるのは、家族と共に過ごす事が幸せにつながるという考えで、会社として従業員の幸福感を大切にしている事の現れと言える。
こうした1つ1つの細やかな制度の先に「生き方改革」として、充実した人生を従業員に送ってもらいたいという想いがある⁸⁾。総じて、カゴメにおける働き方改革とは、従業員のウェルビーイングを導く方向に向いており、従業員のウェルビーイングが、ひいてはカゴメという組織の価値向上にもつながるという確信を持って制度改革を進めているといえる。

5.おわりに

以上のように、カゴメにおける内発的動機づけの実践例を確認すると、様々な要因が従業員の内発的動機づけを高める変数となる一方で、従業員の内発的動機づけが高まる事もまた、個人や、その個人が所属する集団、そして組織全体に対して良い影響を与える事が示唆された。このようにポジティブな要因が、各々に影響しあいスパイラル的に組織を良い方向に導いていくきっかけとして、カゴメの事例からは、トップマネジメントによるリーダーシップが効果的であるといえる事が見て取れた。また、直接的では無いにせよリーダーシップは各従業員の内発的動機づけに大きな影響を及ぼす事が示唆された。言い換えれば、リーダーの資質によっては好循環の流れを断ち切ってしまう可能性もあり、内発的動機づけへの影響という観点において、リーダーシップは間違いなく重要な要素であると言える。この点について、カゴメでは人材開発委員会/報酬指名諮問委員会を設置し、次世代のリーダー人材への育成にも力を入れており¹¹⁾、良きリーダーを育てるということは、長期的視点でも内発的動機づけにプラスの影響を及ぼすと考えられる。


参考文献リスト

  1. 有沢 正人 (2023). R401_人材組織のイノベーション論_有沢先生_第4回授業. p5-7

  2. 島井 哲志 (2009). ポジティブ心理学入門 星和書店. p127

  3. 有沢 正人 (2023). 前掲. p8

  4. ジェームズ・M・クーゼス, バリー・Z・ポズナー, 伊東奈美子(訳), 金井壽宏(訳) (2010). 絵リーダーシップ・チャレンジ 海と月社. p32-43

  5. 有沢 正人 (2023). 前掲. p23

  6. スティーブン P.ロビンス, 髙木 晴夫 (訳) (2009). 【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ ダイヤモンド社. p102-103

  7. 有沢 正人 (2023). 前掲. p22

  8. 有沢 正人 (2023). 前掲. p30

  9. スティーブン (2009). 前掲. p43

  10. 有沢 正人 (2023). 前掲. p42

  11. 有沢 正人 (2023). 前掲. p44-55

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