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89歳酒豪サイコパス

私の祖父、御歳89歳。今もなお、元気に酒豪をやっておられる。

私の実家は、同じ敷地内に、祖父母の家と実家が並んで2棟建っており、
2階の通路でそれぞれ繋がっている。

当時大学生だった私は、その日、夕方頃家に帰ると、
近所に住む親戚のおじさんが遊びに来ていた。
この親戚のおじさんは、祖母の弟で、祖父からすると義弟である。

酒豪の祖父は、おじさんと晩酌をしていた。
私がおじさんに挨拶をすると、おじさんは陽気な様子で挨拶をしてくれた。

私も祖父・おじさんと座って、祖母の料理を食べ始めた。

しばらくすると、おじさんが「もうそろそろ帰ろうかな」と言い出した。
すかさず、祖父は「もう一杯飲んでけよ」と言い、並々焼酎を注ぎ、引き留めた。

おじさんはこの時点で相当、お酒が回っていて、私に対しての対応も、「THE酔っ払い」といえる感じに出来上がっていた。
だけど、まだ意識はしっかりしていた。

さらに時間は経ち、またおじさんが帰ろうすると、祖父がすかさず、
「まだ足らねえだろ、俺はお前と飲めてうれしいんだよ、もっと飲んでけ」
と言って、また並々焼酎を注いでいた。
おじさんは、圧の強い義兄のいうことには逆らえなかったんだろう。

私は、結構二人とも酔ってきているだろうと思いながらも、二人ともいい歳したおじいさんだし、さすがに飲む量と身体の許容量はわかるだろうと思い、見守っていた。

おじさんが最後の力を振り絞り、「もうこれ以上世話になるのは悪いから、帰るわ」と言い、帰ろうとしたところ、
祖父が「おい、飲~め♪飲~め♪」と大学生のコール飲みみたいなことをし始めた。

おじさんは、祖父のコールによって、また飲んでる。

その時「え・・80過ぎたおじいさん2人がコール飲みすんのかよ、20歳の私達とやってることほぼ同じじゃん」と素直に思っていた。

しばらくすると、おじさんが祖母に「ねえちゃん、トイレ借りるわ」と言い、トイレに駆け込んだ。

嫌な予感しかなかった。おじさんは戻ってこない。
トイレから鳴り響く、地鳴りのような嗚咽音。
リアルに大学生と同じことになっている。

心配して、祖母がトイレに駆けつけるも、鍵を閉めていてドアが開かない。
完全に、大学生が居酒屋で酔い潰れるパターンと一緒だ。

祖母がドライバーを持ってきて、トイレの鍵をこじ開ける。
そっと中を見ると、案の定、酔い潰れているおじさんの姿。

おじさん、あの親戚のおじさん特有の威厳はどこに行ってしまったんだよ。

トイレを開けたまま、慣れた手つきで扇風機の風を当てる祖母。
この対処するの、絶対初めてじゃないだろってくらい、すばやく介抱する祖母。

当事者の祖父は、一瞬トイレをのぞき込み「アイツやっちゃったな」とだけ言い、とくに悪びれる様子もなく、一人で飲み直し始めた。

コイツはサイコパスだ。あんたのせいだぞ。

それから、おじさんの様子が変わらないので、私は自分の家に戻り、お風呂に入ることにした。

すると、私がお風呂に入っている間も、隣の棟から聞こえてくる嗚咽音。
近所の人が聞いたら、ゾンビでも飼い始めたのかって聞かれるくらい
うなだれた声が響いていた。

風呂後に、念のため、様子を見に行くと、相変わらずおじさんはトイレにこもっていた。
肝心の祖父は、クーラーがカンカンに効いた部屋で大いびきをかいて寝ていた。

祖母に「おじさん大丈夫?」と聞くと、「おじさん、久しぶりにおじいちゃんと飲めて、楽しくて、飲みすぎちゃったんだね」と軽快なトーンで言った。

いや待て、あんたもサイコパスか。あんたらもうサイコパス夫婦だよ。どう考えても、おじいちゃんが潰してただろ。酔いつぶれて何も言えないからって都合よく解釈すな。と思った。

翌朝、おじさんが、わざわざ私の家まで来て「のんちゃん、昨日は情けない所見られちゃったね」と謝りに来た。
その横で祖父が「もうちょっと、酒強くならなきゃな」と平然と言っていた。やっぱこいつはサイコパスじいさんだ。

そして、この酒豪サイコパスじいさんに対して、お酒が一滴も飲めないのに、トーク力だけですべてをカバーしていた、今は亡き父が一番最強だったんじゃないかと思ったのであった。

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